Uターン①
瑞希先輩の演奏を聴きながら、鶴岡部長の探しているのは、この音だと思った。
それと同時に何故か、気を散らさず集中力を高めないと負けるという私には珍しい、焦りに似た気持ちも襲ってきた。
瑞希先輩の次は、私のオーボエのソロ。
フルートの低く静かな雰囲気から、高く夢のように人々の間を縫うように踊る雰囲気を作ろうと思って演奏した。
私のあとは里沙ちゃんのサックスが低く物静かな様子を奏でたあと、もう一度瑞希先輩のフルートを入れる。
里沙ちゃんのサックスを聴いていても瑞希先輩が気になって仕方がなかった。
そして次に先輩のフルートを聞きながら、演奏したくてウズウズしている自分に気が付く。
次は江角君のトロンボーンで、その次から瑞希先輩と私。
そしてその次にそれに里沙ちゃんのサックスが加わって、最後に江角君のトロンボーンと伊藤君のトランペットが入って終わる。
それでも、どうしても江角君の演奏が終わって瑞希先輩のフルートが始まる前に、先に私が演奏したいと思った。
曲順のパートを江角君が組んでくれていた時には何も思わなかったのに、今、こうしていると江角君のトロンボーン独特の伸びる音階が余計私をイライラさせるために奏でられているのかと思えるくらい恨めしくて、演奏する江角君の横顔を知らず知らずのうちに睨んでいた。
瑞希先輩との初めてのペア演奏では、先輩の音を逃さず拾っていくことと、それと自分の音を見つめることに真剣が集中してしまい予想以上に疲れた。
少しでも、いや、ひとつの音も負けたくはなかった。
いままで感じたことのない感情。
演奏が終わるまで、もう周りを見る余裕などなかった。





