ただいま募集中⑨
「お~っす!いや、ちわ~っす!」
伊藤君が瑞希先輩に気が付いて挨拶を途中で言い直したのが可笑しくて笑っていると
「あれ?鮎沢さん、また泣いちゃった?」
と聞かれて驚いて
「なんで!?」
と聞く。
「感動しましたって顔に書いてあるじゃん」
と言われ赤くなっていると、伊藤君の隣にいた江角君も困ったような顔をして笑っていて、そしたら里沙ちゃんや瑞希先輩まで笑い出した。
「ところで、どうしてここに来たの?確か用事があるから来れないはずじゃなかったっけ?」
私が真っ赤になっている間に里沙ちゃんが江角君に聞いていて、江角君は頭を掻きながら
「こいつに聞いてくれ」
と伊藤君を指さすと、伊藤君は照れながら
「実は江角と映画を観る約束だったけど、映画館の前で急に雨が降り出して中止になったから、こっちに来た」と茶化して答えた。
理由なんて何でも構わない。こうして来てくれたこと、久し振りに会えたことが嬉しかった。
「映画が中止になったのは分かったけど、どうして二人とも映画を観るのに楽器を持っているんだ?」
里沙ちゃんの突っ込みに、伊藤君は“参った!”と言わんばかりに大げさなジェスチャーで応えて、それを見てみんな笑った。
久しぶりに会う伊藤君から色々話が聞きたくて、今もトランペットを続けているのか聞いてみると、美緒ちゃんたちと一緒に吹奏楽部に入っている事を教えてくれた。
それから、学校は違うけどドラムの甲本君が吹奏楽部ではなくて軽音楽部に入った事や音大付属に行ったファゴットの福田さんも頑張っていると付け加えてくれた。
里沙ちゃんと私が懐かしさに浸っているときに、漸く伊藤君は私達が三人で、その三人目が知らない人である事に気が付いて瑞希先輩に挨拶し始めた。





