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ただいま募集中⑦

 里沙ちゃんや、茂山さん。それに兄も、瑞希先輩も驚いているだろう、それに戸惑っているに違いない。

 フルートの独奏を聞いただけで、こんなに大袈裟に泣いてしまう私なんて、みんな呆れかえって居るだろう。

 だから早く涙を止めたい。

 ……でも、涙はナカナカ止まらない。

 そればかりか止めようと、意識すればするほど余計に込み上げてきて私の感情を暗い井戸の中へ引きこんで行く。

 瑞希先輩の演奏した「ひこうき雲」には悲しい思い出が詰まっていて、その想いが声となってフルートの奏でるメロディーに乗せられていた。

 聞けば聞くほど、メロディーは冬の山に雪が積もるように積み重なり、私はその重さに耐えられなくて雪崩のように感情が吐き出された。

「ありがとう……」

瑞希先輩の手が私の肩を抱いてくれ、冷え切った感情にホッと日が差した。

 私は瑞希先輩の手に自分の手を添える。

 私の手とは違い瑞希先輩の手は暖かかった。

 こんなに悲しくメロディーを奏でながら瑞希先輩の手は凍えていないのだろう?

 不思議がっている私の手の上に、また別の暖かい手が置かれ、その手の主はこう言った。

「もう……相変わらず、感動屋さんなんだから」

 そしてもう一人、しゃがんだ私の膝に頭を擦りつけるように乗せてくる暖かい感覚。

 私はもう片方の手で、優しくその頭を撫でて声を掛ける。

「ロン……」

 ふたりの暖かい手に挟まれて私の手と心は、まるで暖炉に手をかざしているように落ち着いていった。 そしてロンの暖かさが、まるでひざ掛けのようにそれを包み込む。

 目を上げると里沙ちゃんの目も少し潤んでいたけど、瑞希先輩の目は暖かく乾いていた。

 そして私の傍にはロンが寄り添い、瑞希先輩の傍にはマリーが寄り添っていた。

 案の定、茂山さんはポカンとしていて、兄は困ったような顔をしていた。

「ごめんなさいね、悲しい曲で……」

「この前テレビで見たアニメ映画のラストを思い出して、私もジーンと来ちゃった。感動は再び!って、感じで、こちらこそ有難うございました」

 瑞希先輩の言葉に里沙ちゃんが暗くならないよう明るく反応して、里沙ちゃんは返礼で「ルパン三世のテーマ」を演奏し始めた。

 ソフトボールを引退した後から音楽教室に通っていたと言っても、まだ数か月しか経っていないので所々音がズレる個所はあるものの、曲の快適なテンポに良く合ったキビキビとした明るい演奏が里沙ちゃんらしくて誰が聞いても楽しく温かく、そしてワクワクする演奏だった。


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