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ただいま募集中⑥

 奏でられた曲は、アニメ映画の主題歌にもなった「ひこうき雲」だ。

 曲を聴きながら、さっき先輩が見ていた川向うの街の上に広がる少し白色が混じった青い空を見ていた。

 女子を中心に凄く人気が高く「管楽器の女王」とも呼ばれるフルートは私達の吹奏楽部でもコンクール出場枠が四~五しかないのに担当は二十人近くいる。

 演奏する姿勢が他の楽器と違って優雅な雰囲気があるし、小さな音で練習できるのでどこでも演奏できる。

 そして最も特徴的で他の楽器と異なるのが、その音を出す仕組み。

 私の演奏するオーボエはリードと言うものが音を出してくれる。

 クラリネットもファゴットも里沙ちゃんのサックスも、音を出す仕組みはリードだ。

 金管楽器になると音を出すのはリードじゃなくてマウスピースになる。

 リードもマウスピースも、まず音になる元の音を作るためのもの。

 それに比べてフルート(ピッコロも)にはリードもマウスピースもなくて、あるのはただの穴だけ。

 音を出すためには、空き瓶を吹いてボーっと鳴らすように息を送り出す必要がある。

 簡単に言えば、演者そのものの声が音として表現される楽器だと思う。

 瑞希先輩の奏でる曲を聴きながら、鶴岡部長がフルート奏者を探している意味が分かってきたような気がする。

 屹度、やりたい曲を歌ってくれる人を探しているのだろう。

 それにしても……

 それにしても、何だろう今の私のこの憂鬱な気持ちは?

 瑞希先輩の優しいフルートの音を聞きながら、最初は霞のかかった街の上の雲を見ていたはずなのに、今はもっと上にある、澄んだ青い空を追いかけている。

 空を追いかけるって変な表現だと思うけど、確かに私は空を追いかけて何かを探していた。

 それが何かも分からないまま。

 演奏が終わる頃に一本の飛行機雲がスーッと空に線を引いた。

 そして、それに合わせるように上を向いていた私の瞳からも同じように涙が線を引いて落ちた。

「なんだろう……」

 自分でも分からないまま不思議な感覚を感じていた。

 そして曲が終わった途端、まるで魔法が解けたように感動と悲しみが急に堰を切ったように押し寄せてきて、その場に泣き崩れてしまった。


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