いとぐち⑤
「吹奏楽コンクールには鶴岡部長の得意なヴァイオリンもピアノもないんだよ」
「でもトランペットがあるじゃない」
江角君の回答に里沙ちゃんが突っ込み、また江角君が答える。
「一年生の時はトランペットだったらしいよ」
「じゃあ、どうして今はトランペットじゃないの?」
「噂だけど……」
江角君が重い口調で、その噂の過去を教えてくれた。
「鶴岡部長は、トランペットを演奏するよりももっと高い目標を持っていて、その目標のために演奏を辞めたって……」
「演奏を辞めるほどの、高い目標って?」
里沙ちゃんと私が口をそろえて聞いた。
「わからない……ただ」
「ただ?」
「鮎沢さんに風笛があるように鶴岡部長にも心の曲があって、それを吹奏楽部で演奏するのが夢なんじゃないだろうかと僕は思う」
「それって、何の曲?」
江角君に里沙ちゃんが聞いたけど、当然江角君には分かるはずもなかった。
話は脱線して皆が何の曲を演奏したくて楽器を選んだかという話になった。
私の場合「風笛」だと言うことはもうバレているので里沙ちゃんや江角君の曲が知りたくて興味があった。
里沙ちゃんは意外にもクラシックじゃなくてポップスでワムの「ケアレス・ウィスパー」!もちろん始めたきっかけは私と一緒に「風笛」を演奏することから始まったと弁解してくれた。
江角君は……聞いてもナカナカ答えてくれなくて、里沙ちゃんがついに切れて、千春に告白したことを部活でバラすと言い出して渋々教えてくれた。
「笑うなよ」
と言いながら教えてくれたその曲は
「きよしこの夜」
神聖なクリスマスと優しくて少し悲しいトロンボーンの音色が良く合う感じで、意外に江角君も可愛いじゃないと里沙ちゃんが感心していて、私もそう思った。





