高校デビュー⑩
瑞希先輩は小学校からフルートを習っていたのだが、中学時代はホルンを担当していて、高校からまたフルートに戻した。
高校の吹奏楽部に入ってからは、ブランクを取り戻すために我武者羅に練習した。
その甲斐あって一年生でありながら、前の部長に認められてソロパートも担当させてもらえるようにまでなった。
しかし三年生が引退した後から、部の実権が二年生(現在の三年生)に委ねられるようになってから全体が旨くまとまっていないように感じだし、あるきっかけで部活を辞めた。
辞める理由となった”きっかけ”については話してもらえなかったけれど、それによって部長には迷惑を掛けてしまったと、話してくれた。
「部長って、あの鶴岡部長ですか?」
「そう」
「鬼の鶴岡って噂で聞きましたが、そんなに怖いんですか?」
瑞希先輩の話に関係ないと思ったけれど、気になったので聞いてみた。
「怖いっていうより、優しいんじゃないかな」
「優しい?」
「そう。優し過ぎて、どうしたらいいか分からなくなり、その分、厳しい選択肢を取るしかなくなる」
「何故厳しい選択肢を取るしかなくなるんですか?皆で楽しくやれば好いのに」
私は素朴にそう思った。
「……鶴岡部長の目標は全国大会なの。それは前の部長も、その前の部長からも託された約束なの」
いつの間にかロンも私の傍に来ていて、瑞希先輩がマリーを撫でながら話しているように、私もロンを撫でながら聞いていた。
瑞希先輩と別れたあと、里沙ちゃんに直ぐにサックスをメンテナンスに出すように言ったけど、明日は用事があるから来週にすると言われた。
「鶴岡部長に怒られるよ」と、心配して言うと
「元体育系部活だから少々怒られたところで気にしない」と、珍しく“つっけんどん”な態度を取られた。
そして月曜日の放課後。里沙ちゃんと江角君と三人で音楽教室に向かう。
途中の廊下で瑞希先輩とすれ違い
行ってきます!」と挨拶をすると
「頑張って!」と先輩から声を返された。
江角君から「知り合い?」って聞かれたので「吹奏楽部の先輩です」と答えた。
音楽教室に着くと、新入部員だけ集められて一人ずつ鶴岡先輩の前でドレミを順に演奏して三つのグループに分けられた。私と里沙ちゃんは違うグループ。
私のグループは一番人数が少なくて、そのまま先輩たちの練習に参加するように言われた。
もう一つのグループは副部長に従って、押さえ方や吹き方の基本を練習するように言われ、里沙ちゃんたちのグループは帰るように言われた。
里沙ちゃんが何で帰されるのか聞くと、楽器のメンテナンスができていないからだと言われた。
楽器のメンテナンスは日曜日に行くから練習に参加させて欲しいと里沙ちゃんが食い下がると鶴岡部長は、それまで他の部員に迷惑をかけるつもりかと聞く。
里沙ちゃんが邪魔にならないように隅で練習すると言うと、部長は苛立って
「合っていない音を出されることが、そもそも練習の邪魔なんだよ!」
と少し声を荒げて言った。





