高校デビュー⑧
お店の傍まで来た時に、お店から出て行く一人の女性が目についた。
どこかで見たことのある女性だと思ったけら、持田先生の奥さんの麻子さんだった。
麻子さんは私達には気が付かなくて、反対の方向に行ってしまったので挨拶する機会を失った。
中に入ると茂山さんが椅子に座って珍しく難しそうな顔をしていて、里沙ちゃんが声を掛けるまで私たちに気が付かなかったみたい。
そう言えば茂山さんは大学院二年目だから今年は就職するのか、それとも勉強を続けて博士課程に進むか決めなければいけなくて色々大変なのだろうと思った。
とはいえ元気満々の里沙ちゃんの声に、茂山さんは直ぐにいつもの陽気な顔に戻った。
新しい高校の話しをしたり、クラスや部活の話をしているとき、足元でおとなしくしていたロンが急に立ち上がったので見ると、ロンの傍にスピッツ犬が来ていた。
ミックス犬なのだろう。真っ白じゃなくて、耳だけが少し黄土色なのが特徴的でそれがまた凄く可愛い。
いつもは他の犬に知らんぷりをしているロンが珍しくお座りをして迎え入れているように感じた。
直ぐにスピッツの飼い主の女性が来て「すみません」と言ってきた。
私より少し年上くらいの高校生か大学生の綺麗な女性。
普段のロンなら犬よりも、この女の飼い主さんのほうに異常反応を示すはずなのに今日は何故かそのままスピッツの相手をしている。
ロンが気に入っているので
「もしよかったらドッグランに行きません?」
と、じゃれているロン達を目で示すと相手も
「いいお友達になれそうね」
と笑った。
スピッツ犬の名前は「マリー」四歳の活発な女の子。
広いドッグランに移動すると、喧嘩さながらにロンの上に乗ろうとしたり、足の間を潜ろうとしたり横から体当たりをしてきたりと激しい。
ロンはその激しさに戸惑いながらも応戦しているみたいだけど、たまにマリーを押し倒す。
倒されたマリーは直ぐに仰向けに手足を広げて降参のポーズをとって見せ、そのあとは少しの間だけおとなしくなるけれど直ぐに元に戻って激しくじゃれついてロンに倒される繰り返し。
それが可笑しくて何度もマリーの飼い主さんと笑って見ていた。
「私、百瀬瑞希。宜しくねっ!」
急に相手に自己紹介され慌てて
「わっ私は鮎沢千春。青葉台の一年生です」
緊張して顔を真っ赤にさせて挨拶した私に瑞希さんは微笑んで言った。
「知ってるよ!」





