高校デビュー③
並んでいる間に里沙ちゃんとお喋りしていた。
(と、言うより里沙ちゃんが緊張している私の気持ちを解してくれていた)
「はい、次の人」
副部長らしい女子に呼ばれて慌てて入部用紙を渡そうと思ったら、用紙は私の手からフワリと離れてしまった。
慌てて紙を取ろうとしたが空振りになった。そのとき私の手と交差する男子の手。
「はい、これ!」
落としそうになった入部用紙を手渡される寸前で「あっ」っと、小さな声を出して男子の手が止まった。
どうしたのかと思い顔をあげると、その男子は私の顔を覗き込むように見て、とても嬉しそうな笑顔で笑い、こう言った。
「ロンの妹さんでしょ!?」
犬を飼っていると、よく
「○○ちゃんのお母さん」
とか
「○○ちゃんのお爺ちゃん」
とか、正式な苗字で呼ばれずに○○のところにペットの名前を入れた呼び名が使われることがある。
我が家の場合は『ロンのお母さん』とか。
でもそれは、ペットを飼っている者同士がお互いのペットに愛着を持ち、家族の一員としてそのように呼ぶ。
まさか新しい高校に入学早々、知らない人にそんな風に呼ばれるとは思いもよらなかった。
しかも『ロンの妹さん』なんて呼ばれたのは初めてだし、だいいち私はロンの“お姉さん”ではあっても“妹”ではない!
しかし、ロンの名前と私の顔を知っているということは近所の人なのかと思い、こちらも相手の顔を覗いてみる。
「あーっ!」
思わず大声をあげてしまったが、なんとその男子はロンを貰って、いつもロンの定期健診に行っている動物病院の息子さん。
私は一度か二度診察の時に顔をチラッと見ただけだけど兄が大学時代に家庭教師で教えていた生徒だ。
「ロンは元気?」と聞かれて
「はい。おかげさまで」
と、お母さんが言うような挨拶になったけれど、そのあと
「なんでココにいるんですか?」
と聞くと、
「僕も吹奏楽部だから、これから宜しくね!」
って言われ、慌てて
「こちらこそ、宜しくお願いします」
と頭を下げた。





