高校デビュー①
ロンといつもの朝の散歩を済ませて、学校に行く支度をして家を出る。
家を出る時間は、中学の吹奏楽部時代の朝練に行く時間と同じ。
でも高校ではまだ部活は始めていないから、部活に入って朝練に行くようになるともっと早い時間に家を出なければいけなくなる。
そうなるとロンの散歩の時間も早くなり、当然起床時間も早くなる。
そして帰りもまた、部活が終わって電車に乗って帰ってくるから帰宅時間が遅くなる。
『高校、宿題少ないといいな……』
進学校なので多いに決まっているのにポツッと弱音が口から出てしまった。
駅の改札前で里沙ちゃんを待っていると、いきなり江角君から「鮎沢。おはよ」と声を掛けられた。
私はビックリして少しドギマギしてから「おはよう江角君」と返事をしたが、当の本人はもう私の前を通り過ぎて改札に向かっていた。
なんとなく山の上のキャンプ場で、私を好きだと言った江角君の言葉が聞き違いだったのかと疑ってしまう。
……まあ、それなら気が楽で私も助かるのだけど。
「おはよ~!千春!」
私がボーっとして、そんなことを考えていると元気な里沙ちゃんの声がした。
「おはよう里沙!」
私たちは挨拶を交わすと直ぐに改札を潜りホームへと向かった。
適当にホームで並んでいる人の後ろに並びかけたとき、里沙ちゃんに腕を引かれたので駄目なのかと思って聞く。
「え!?ここ駄目なの?」
「チョット待って……」
里沙ちゃんは、ホームのあちこちを眺めまわしながら、三年間電車で通うと言うことは、三年間同じ電車に乗る人たちとも一緒に車内を過ごすということだから、適当なところに乗るわけにはいかないと、訳を話してくれた。
「嫌だったら違う車両に代わればいいじゃない?」
と私が聞くと、そうしているうちに“ジプシー”になってしまって、ジプシーは色々な車両に乗り多くの人の目に触れるから、痴漢に目を付けられる可能性が高まる。
と教えてくれた。
「里沙、良く知っているね」
と私が感心していると
「痴漢は私の推測なんだけど、やっぱり安心できる車両に乗りたいじゃない!」
とウィンクされた。
急に里沙ちゃんが私の手を引いて「こっち!こっち!」と走り出し、慌てて付いて行った。
どうやら乗る車両が決まったらしい。





