新しい朝⑧
「行ってきまーす!」
ロンを連れ、オーボエを背中に担いで河原に行く。
里沙ちゃんと一緒に河原で練習するためなんだけど、音楽が好きなのか、はたまた里沙ちゃんに会えるのが嬉しいのか、ロンも楽しみにしているみたいで連れ出す前から反応が凄い。
こんなに喜んでもらえると、散歩の行き甲斐もあるっていうもの。
河原までいつも三十分掛かるはずだったのに、今では二十分で到着してしまう。
もちろん朝の通勤時間帯なのでチャンと交通ルールを守り、周囲にも気を付けながら散歩しているのだけど、私にもロンにも無駄な動きが少ない。
たとえば、ロンは草などの臭いを嗅ぐことが少ないし、違う路地にも入らない。
それに私が途中で携帯などを見るために立ち止まったりすると「早く行こうよ」と呼びかけるように立ち止まって私の顔を見上げる。
今日も約束の場所に二十分丁度で到着すると、約束通り里沙ちゃんがいて、ロンはその里沙ちゃんを見つけると、我慢できずに走り出して飛び掛かるような勢いで挨拶をしていた。
二人の演奏練習中にロンは直ぐ傍の気にリードを括りつけて待ってもらっているのだけれど、特に飽きもせず景色を眺めたりしながら音楽を聴いていてくれている。
何日も続けているうちに曲によってロンの反応が微妙に違う。
悲しい曲のときは伏せをして悲しそうな目つきをしているし、楽しい曲だと立ったりお座りしてハアハア言っているから、確かに曲を楽しんでくれているのだと思う。
こうして河原で練習するようになって十日も過ぎていつの間にか四月に入り、もう直ぐ入学式。
里沙ちゃんも大分上手になって来た。
入学する実感が湧いてくると、ひとつ気になる事がある。
それは江角君の言った「部活入れば直ぐ分かる」という一言。
これは私がどうして超進学校を目指さずに、ここを選んだのか聞こうとしたときに、江角君が全国吹奏楽コンクールに出るためだと言ったときに、理由として付け加えられた言葉。
吹奏楽部は文科系として分けられるが、実際は体育会系とよく言われる。
里沙ちゃんと演奏しながら、少しだけ不安な思いにふけっていた。





