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新しい朝④
丘の下り斜面に入ってからロンが急に走ってしまい、私は転びそうになるのを堪えながら付いて行くのが精一杯で、気が付けばサックスを演奏する人の傍まで来ていた。
「すっ、すみません!」
あまり近過ぎる距離に相手の顔を見る余裕もないまま謝る。
ロンに目を向けるとサックスを演奏している人のGパンに、じゃれついているのでリードを引いてもう一度謝るために顔を上げ、相手を見て驚いた。
「里沙!」
なんと、河原でサックスを練習していたのは里沙ちゃんだった。
「な、なんで、サックス……」
私の問いに、里沙ちゃんは悪戯っぽく笑ったあと
「まさか、見つかるとは思わなかった」
とペロッと可愛い舌を出して見せたあと理由を話してくれた。
「えっ!ソフトボール辞めるの!?」
理由を聞いて驚いた。
私立の強豪校からスカウトまで来ていたソフトボールを辞めて、吹奏楽部に入るって言い出すから。
「なんで?」
「だって、千春が、私にはサックスが合っているって言うから」
「いや、楽器の事じゃなくて、ソフトボールのこと」
「うん……」
里沙ちゃんは暫く黙った後、理由を話してくれた。





