新しい朝③
誰かが練習しているサックスの音色は、決して聞いていて心地好いものではなかったが、上手になりたいという演者の熱意は十分に感じられる。
独学ではなく、どこかで習っているのだろう変な癖はなく素直な音が出ていて好感が持てる。
習い始めて一年くらいかな、簡単な曲だとソコソコ吹けている。
ロンと堤の下の草原沿いを散歩しながらサックスの音を聞いていた。
その危なげな音を聞いていると中学でオーボエを始めた頃の自分を思い出す。
道端の臭いを嗅ぐのに俯いていたロンの頭が急に上がる。
それと同時に私も歩を止めてサックスの音がしている方向に顔を向け注目した。
伸びている草の陰で演者は見えないけれど、今演奏している曲は“風笛”しかも、かなり練習しているようで間違わずに演奏できている。
『誰?』
赤の他人に違いないけれど気になった。
この人は屹度この曲が演奏したくてサックスを始めている。
私と同じ理由で、この曲を始めた人って一体どんな人なのだろう。
サックスの演者を探すのに広い河原を中学生の女の子が一人でウロウロするのは怪しいけれど、幸いなことに今はロンと散歩中だから広い河原をどのように歩いても平気だし怪しくもない。
ロンも、あの曲が気になったのか私が誘導しなくても勝手に音のするほうへ進んでゆくと、小さな丘の向こう側で演奏しているらしい。
遠巻きに回り道して歩こうかと思ったらロンが急に丘の上を目指して駆けだしたので私も引っ張られて登って行った。
本当はロンを止めることも出来たのだけど、こういう時に回りくどい判断をせずにいつも直球勝負してしまうロンが頼もしくて従った。
丘を登りながらワクワクしていた。
『同じ年くらいの女の子だったらいいな!』
『カッコイイ男の子だったら、どうしよう。キャー!!』
なぁ~んて(笑)





