桜の季節に向けて⑧
体育館を出て、教室に入るまで自力で歩くことも立つことも出来なかった。
二人に支えられて教室の自分の席に座らせてもらう。
私が椅子に腰かけると直ぐに江角君はいなくなったけど里沙ちゃんはズット私の傍に居てくれる。
「里沙。ゴメン、私、もう、大、丈夫、だ、から」
里沙ちゃんだって悲しいのに決まっている。
私がこんなんだから里沙ちゃんに迷惑が掛かっている。
だから嗚咽を堪えながら口に出してみたものの、言葉は喉に詰まって旨く吐き出せなかった。
「いいよ。泣いている千春のお世話をしていると、改めて三年間過ごしてきた日々がこんなにも大切だったんだなぁ~って思えるし、お姉さんみたいな気分も味わえるし」
「お、ねえ、さ、ん?」
「だって、私、一人っ子だ、から……」
里沙ちゃんもやっぱり無理していたのだろう、言葉が詰まって私の背中に抱きついて泣き出してしまった。
私は向きを変えて席から腰を浮かせて、里沙ちゃんを抱きかかえるようにして今まで私が座っていた席に座らせ一緒に泣いた。
最後のHRが終わる頃には里沙ちゃんも私もテンション低めだけど、普段に近い状態まで戻った。
あとはクラスごとに運動場に待機している下級生たちに見送られて帰るだけ。
今は、その準備と順番を待っている。
卒業文集を眺めていた私の前に伊藤君が来た。
「鮎沢。ちょっといい?」
「ん?!」
見上げたとき、もう伊藤君は教室を出て行くところだったので慌てて追いかけた。
教室では何か勘違いしているクラスメートが「ヒューヒュー!」と茶化している。
伊藤君は後ろも振り返らずに、スタスタと音楽室のほうに歩いて行く。
『なにか忘れ物なのかな?』
漸く追いついた時、振り返った伊藤君の顔がいつになく真剣そうに見えた。





