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桜の季節に向けて⑥

 卒業証書授与式が終わると、在校生代表の送辞に続いて卒業生代表の答辞が行われ、いよいよ式も終盤になり卒業生による合唱が行われた。

 卒業生全員が席を立ち、ステージへ移動し父兄と向き合う。

 その後ろには二年生がいるが、場所の関係で一年生は体育館に入れない。

 江角君が指揮を執り「旅立ちの日に」を全員で歌う。

 女子のほとんどは泣いていて声が出ないので、男子の低いパートが目立つ。

 私は江角君の指揮棒を睨み付けるように見つめ、大きく口を開いて歌う。

 そうすることで涙が我慢できた。次第に女子の中にも私と同じように頑張って歌おうとする子が増えてきて、男子に負けないチャンとした合唱になった。

 合唱が終わり、もう一度席に戻ると吹奏楽部が静かに「仰げば尊し」を奏で始めた。

 去年も一昨年も私が奏でた曲。

 今日は聞きながら送り出される立場になった。

『感動屋』と呼ばれる所以は、いつも最後に泣き出してしまう所からきているが、今日は泣かないコツを掴んだから最後まで泣かないだろう。

 目を大きく見開いて少しだけ見上げるように顔を上げる。

 鼻を刺激しないように息は口を少しだけ開けてゆっくりと呼吸する。

 別に泣いちゃいけない訳ではないけれど、何となく桜の咲く四月から高校生なのに、いつまでも『感動屋』に甘んじてはいられない。

 先輩としても後輩たちに、確りした姿を見せておきたい。

 いよいよ私の列にも退場する番が回って来た。

 列が一斉に立ち上がり、そのまま通路に向かいそして通路を出口へと向かう。

 吹奏楽部の演奏する「仰げば尊し」が一旦終わり、次のリピートが始まるはずだった。

 でも再び始まった曲は「仰げば尊し」ではなかった。

 耳に聞こえてきたのは大好きなオーボエの調べ。

「風笛」だった。


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