桜の季節に向けて⑤
厳かな演奏に迎えられ卒業式の会場へ入る。
体育館の二階席、東側一番後ろに陣取っている吹奏楽部が曲を奏でている。
三年生が抜けて、まだ新一年生が入って来る前だから人数は少なくなってしまったけれど後輩達の確りした演奏に応えるよう堂々と胸を張って椅子に腰かけた。
校長先生や来賓の方々の挨拶も終わり、いよいよ卒業証書授与式。
代表以外は以下同文だけど一人ひとり名前を呼んでもらって担任の先生から卒業証書をもらう。
貰いに行くまでは壇上に進むけど、帰りは当然壇上に背を向けて体育館の後ろにいる吹奏楽部の後輩を見る形になる。
早速、伊藤君が貰った卒業証書を片手に後輩たちにガッツポーズをして拍手を貰っていた。
江角君は先に催促の拍手を貰って、返礼で軽く人差し指で敬礼をして、そのあと頭から下げる手で小さくハートを描いて更に拍手を貰っていた。
男子の様子を見ていて、私もあんな風に出来たら良いな。と思っていた。
伊藤君みたいに派手なガッツポーズは無理としても、江角君みたいに軽く敬礼のハートなしバージョンくらいはしたい。
女子の番になり名前を呼ばれた。緊張しながら壇上に向かい、先生から卒業証書を渡される。
「高校でも吹奏楽頑張れよ!鮎沢は頑張り屋さんだから屹度良い演奏家になれると信じているぞ」
先生に声を掛けてもらい「有難うございます」と言って証書を受け取った。
それから一歩下がって、180度向きを変える。
正面の二階席にいる後輩たちが静かにホタルノヒカリを演奏してくれている。
去年まで私もしていた。私のポジションには今、二年生の後輩が座って同じオーボエを吹いている。
悲しい調べ。
私は深く頭を下げた。
今日、この場で私たち卒業生のために演奏してくれている後輩たちに、私を支えてくれた同級生、下級生に、そして私たちを育んでくれたこの場所に感謝の気持ちを込めて。





