星空のメロディー⑨
そのとき江角君から肩を叩かれて、この場にいるように言われた。
言った江角君は、私の前の下級生たちの座っていた先頭に座り私のほうを見ている。
次々と三年生たちが私の肩を叩いて江角君の横に広がって座って、その正面に居るのは私と伊藤君だけ。
『いったい、なに?』
そう思って伊藤君の顔を見たところで、伊藤君は私の肩に手を乗せて立ち上がり目の目に立った。
「最後の曲は我らが副部長による独奏です。あっ少しだけ先生の奥さんにヴァイオリンのアシストをお願いします」いつの間に持ってきていたのか持田先生の奥さんがヴァイオリンを持って歩いて来る。
「よろしくね!」
「あっ、は・はい。こちらこそ……」
訳の分からないまま、あやふやに返事だけする。
伊藤君の話はまだ続いていた。
「部長の江角は、その天才的センスを俺達にまで強要して妥協を許さない」
江角君が苦笑いをして下を向いた。
「失敗した時とか、気に入らないときは容赦のない罵倒を投げつけてくることもある。そんなとき俺たちは心が折れて辞めてしまおうかと思うこともある。だけど、副部長はホントに目立たないんだけど、落ち込んだ我々をいつも優しくフォローしてくれていた。そこで感謝の意を込めて、最後は副部長に閉めてもらうことにしました。演奏する曲は副部長がオーボエを担当する切っ掛けになった曲です。それでは宜しくお願いします曲は“風笛”です!」
まるでテレビに出る本物の司会者並みの台詞に驚いていて、緊張感を忘れていたのが今急に思い出してしまい、どう出だしの音を出せばいいのか分からなくなってしまったとき、ロンがあくびをした。その音が出だしだ。
リードに口を当てゆっくりと息を吐き出すと、私の好きなあのメロディーが流れてきた。





