(9)場違いな晩餐
サブタイトル追加(2008/11/09)
(9)
落ち着いた音楽が会場を煌びやかなものへと変えていく。その中にいるのはどれも有名な貴族や王族達。その洗練された立ち振る舞いは完璧な紳士淑女そのものだった。
「はあーーー・・・・。」
居心地の悪さを感じ、いつの間にかレミーは喧噪を離れ、一人バルコニーに出ていた。
「やっぱり場違いなのかなー。」
四方から身体を締め付ける窮屈な服が夜風になびく。
「誰かそこにいるのですか?」
「え?」
突然後ろから聞こえてきた声にレミーは振り向いた。
「申し訳ありません。突然声をかけてしまいまして。」
そこにはにこやかな笑みを浮かべる青年がバルコニーの扉を閉めながら彼女を見ていた。
「あの、あなたは?」
レミーは少し困惑しながらも問いかけた。
「私ですか?私はリオン。エリオン・ディア・エスフェリオンです。レミュート王女。」
「あ。公子様ですか。」
レミーはあわててドレスの裾を直すと恭しく面を下げた。。
そういえばパーティーが始まる前に長々と演説するこの国の国王の側に控えていた青年がいた。それは正にこの青年ではないか。
「ええ。そうです。」
レミーがそのことを忘れていたことを特に気にした様子もなくエリオンはレミーの側に歩み寄る。
「隣、よろしいですか?」
レミーは無言で頷くと一歩横に足を進めた。
「ところで、なぜこのようなところへ?」
レミーは今回の主役であるエリオンがこんな人気のないところにいることに僅かに疑問を持った。
「正直に言ってしまえば、あのような場所は苦手なのです。」
「実は私もです。どこか、場違いな雰囲気のようで。」
レミーは苦笑しながら夜空を見上げた。
「いい夜ですね。」
エリオンもまた夜空を見上げた。
「はい。星が綺麗です。」
「今夜は死幻星がよく見えますわ。」
レミーは空の中心に浮かぶ、赤い星を指さした。
「死幻星ですか・・・確か人に死の幻をみせるといわれている星でしたか。」
「そうですね。ですが、冒険者にとっては守り神といわれているのですよ。」
レミーはいつかこんな話をしたことを思い出し、少し微笑んだ。
「そうなのですか?」
「ええ。冒険者にとっては死を幻に変える星と言われているのです。側近から聞きました。」
「なるほど、とらえ方は様々ということですね。」
二人はしばらく星を見上げていた。
夜の静けさに心を奪われ、晩餐会の喧噪がまるで幻のように聞こえていた。