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(6)王国の夕暮れ


現在修正第二稿目(2008/10/31)

 ・本文大幅修正

 ・サブタイトル追加

「なるほどねぇ。」

 誰もいない薄暗い廊下にベルの声が響く。太陽は既に西の空で真っ赤な光を放っており、夜の到来を予感させていた。

「そりゃまた、面倒なことを悩んでいたわけだ。」

 ミリオンが抱えていた悩みを一通り聞き終わり、ベルディナはただ一言そう呟いた。

「私一人ではどうにもならんことは分かっている。だが、どうにかしたいとも思っている。」

 昼食時にミリオンが感じていたこと。レミュートの心の隙間。そして、どうにもならない現実。

 ベルディナであれば何とか出来るかもしれないと彼は密かに期待していた。

「・・・無理だ、諦めな。」

 しかし、彼の答えはそんな彼の期待をあっさりと裏切った。

「だが・・。」

「ならどうする?何をどうしたところで、あいつは王女でお前は一塊の騎士に過ぎないことは変わらねぇぜ。」

「・・・。」

 それは、ミリオンが常に行き着く答えそのままだった。いや、下手に他人に頼ろうとしたことがおろかだったのかもしれない。ベルディナも多くの時を生きる偉大な魔術士だとはいえ、彼もまた一塊の宮廷魔術士に過ぎないことは同じだ。

 肩を落とし、目を閉ざして意気消沈するミリオンを見て、ベルディナは「しかたねぇなぁ。」とため息をつくと口を開いた。

「だがな、今のお前がレミーにとって大きな心の支えになっていることは確かだ。」

 ベルディナは慣れないことを言っている自分が少し恥ずかしくなって首の後ろをこりこりとかきながら言葉を探した。

「見守ってやれ、そして助けになってやれ。それだけだ。」

 柄にも無いことを言ってしまって照れくさいのか、ふてくされたようにそっぽを向くベルディナの仕草にミリオンは口元をほころばせると、右腕を机の上に載せた。

「ああ、私はレミーの護衛騎士だ。レミーが行くところ、なす事を陰から支え守ることが役目。ありがとう、君に言われると心強い。」

 それは騎士の誓いだった。こんな所でも義を持ち出すとは、堅苦しい奴だとベルディナは呆れながらもその不器用さを心強く思った。

「よせよ、照れくさい。」

 ベルディナはそういうと勢いをつけて椅子から腰を上げ、肩を回してあくびを付いた。

「そろそろ夕飯時だ。随分話し込んでたみてぇだな。」

 ベルディナは食堂から漂ってくる美味そうな料理のにおいを敏感にかぎ分けると相貌を崩した。

「ん?そうか、もうそんな時間か。」

 ミリオンは懐中時計確認すると、確かに後半刻ほどで食事が始まる時間だった。王宮において騎士や魔術師の夕食は早い。それは、王族や貴族、大臣達が食事をとる時間と混ざらないための配慮という事らしい。

 加えてミリオンは、王女護衛の任を与えられているとはいえその所属は騎士団に帰するため、他の騎士達と一緒に食事をとらなくてはならない。

 そろそろ騎士達が食堂に集まり始める時間だ。急がなくてはならない。

「そうだな。それでは・・・。」

「ああ、それとなミリオン。」

 背もたれに掛けてあったローブを纏い、ミリオンに背を向けたベルディナの口調はいつものおどけた雰囲気を持っていなかった。

「どうした?」

「ユアのことも守ってやってくれ。あいつは、お前が考えるほど強くはない。」

(俺が出来なかった分もな・・。)

 背を向けるベルディナの表情を伺うことは出来なかったが、ミリオンはその表情を知っているような気がしていた。

 それは、ユアとの交際を認めてもらうため、初めて彼の自室へと足を運んだ時に見た表情だ。

「それは既に誓ったはずだ。2年前のあの日に。」

 ベルディナはその日を良く覚えていた。人見知りしてまともに友人も作れなかったユアがある日連れてきた男。ユアとは全く正反対に見える男ははじめ彼女とは不釣り合いに思えたが、その人となりを知るにつれユアを任せることに安心を覚えたあの日。

 その時に見せた力強い眼は今でも変わらない輝きをもっている。今は無き古い友人を思い出す。彼はそう感じた。

「そうか・・。」

 ベルディナはそういうと振り向た。その表情には既にいつもの少年を思わせるいたずらっぽさが戻っていた。

 彼は、茶化すような眼を向けるとヤレヤレと肩をすくめると、

「それにしても。若い奴の愚痴を聞いて暇を潰すようになるとは、俺も歳かね。」

 とおどけるように呟いた。

「三百年前を知る人間が今更何を言うのだ。」

「違ぇねえ。」

 ベルディナはすれ違いざまに彼の肩をぽんぽんと叩くと、そのまま用意していたテーブルを浮かせながら廊下を歩いていった。



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