(5)王女のいらだち
・サブタイトル追加(2008/10/31)
(5)
突然の公務が入ることは今回に限ったことではない。何がレミーの感情を逆撫でするかというと、使者が帰還した後の父王の態度だ。
隣国で公子の生誕記念パーティーが開催される。故に友好国であるグラジオン王国の国王とその王女に招待状が届けられた。かみ砕いてしまえばそれだけのことだ。話がそれだけであるならレミーもあきらめることができる。
そしてレミーは使者が帰還した後、自然な話題としてエスフェリオン公国の公子はどういう人なのかと聞いた。レミーはエスフェリオン公国の事はよく耳にするが、実際にその国を訪問したことはなくその公子がどのような人物であるかも知らなかった。
しかし、父王の答えは明瞭さを欠いていた。まるでその話題から逃れるように曖昧な言葉を並べるばかりではっきりとした事は何も言ってはくれなかった。
父上はいつもそうだ。何かと隠し事が多いくせにそれを隠すのはとことん苦手ときている。しかし、そうなってしまった父上からはそれ以上の真実を聞き出すことはできない。秘密を隠すことが苦手、だけどそれを最後まで隠し通すだけの気位を持つ。私に出来ることは納得できないままにあきらめることしかない。
・・・私は本当に難儀な父親を持ってしまったものだ。
「レミー?どうしたの?」
部屋の扉を開けようとしたレミーの背中に羽のような声が降り立った。
レミーははっとして振り向いた。
「なんだか難しい顔をしているよ・・・。」
たっていたのはユアだった。
胸にいくらかの書類を抱えた彼女は小首をかしげながら彼女の瞳をまっすぐと見つめていた。
その背後から照りつける夕日の光は、まるで彼女が光を背負った天使のような演出を担っていた。
直視するにはまぶしすぎるほどの美しさ、それでも目を背けてはいられないほどの美しさ。レミーは彼女の姿に心を奪われていた。
「お仕事はもう終わったの・・・?」
ユアはレミーよりも年上ではあるが、その背はレミーよりも低い。
「・・・ええ、そうね・・・。もう今日の仕事は終わったわ・・・。」
そんなユアに上目遣いで見つめられると同姓であってもぞくっとしてしまう。レミーは自分の心音を煩わしく思いながら答えた。
「・・・・?何かあったの・・・?・・・なんだか、レミー・・・元気ない・・・。」
ユアは人の感情の機微にとても敏感だ。そして、彼女を前にすると誰も嘘が言えなくなってしまう。
「何でもないわ・・・。つまらないことだから心配しないで・・・。」
それでもレミーは今は誰とも顔を合わせたくなかった。
彼女はきびすを返すと部屋の扉を開けて中に逃げ込もうとした。
しかし、ユアはそんなレミーをとがめるように無言で彼女の服の裾をつまんだ。それは本当に些細な力だったが、レミーはそれをふりほどくことが出来なかった。
「おじゃましてもいいかな・・・?」
彼女の声は儚かったが、レミーにそれを拒否する事を許さないような強みがあった。
「うん・・・、分かった・・。好きにして・・・。」
そしてレミーはそれを拒否する手段を知らなかった。
ユアはにっこりと笑うと、レミーの裾を解放した。
「お茶の準備をするから少し待っててね・・。」
と言うと、急ぎ足で来た道を引き返していった。
「本当に・・・、かなわないわね・・・ユアには・・・。」
パタパタという羽のように軽くて心地のいい足音を聞きながらレミーは不思議と心が安らいでいる事に気がついた。
「本当・・・かなわないわ・・・。」
差し込む夕日はいつしか夜の暗がりを予感させるような、穏やかな光へと変わっていた。