(11)それぞれの想い
サブタイトル追加(2008/11/09)
(11)
レミーは黄昏に染まる回廊を眺めそっとため息をついた。
彼女の脳裏にさきほどの話がぐるぐると渦巻いていた。
「・・・・エスフェリオン王国か・・・。」
何度目になるか分らないため息が彼女の口から吐き出される。
いつの間にか彼女は自分の部屋の扉の前にたどり着いていた。
「レミー・・・。」
ふと、暗がりの中から誰かの声が響いた。
「だれ?ミリオン?」
レミーは必死に目をこらした。
「話は聞いた。急な話らしいな。」
しかし、彼の表情を読むことはできない。
レミーは恐怖にも似た不安を隠せなかった。
「ええ・・・。」
父王が彼女を呼んだ理由。それはエスフェリオン王国から届いた一つの手紙に起因される。
「ねえ。ミリオン。私はどうすればいいのかな?」
それは、グラジオン王家の王女であるレミーとエスフェリオン王国の皇太子とを婚約させたいという話だった。
「私は君にどうしろとは言う事は出来ない。私にはそのような資格はない。」
「そんな・・・。」
ミリオンの突き放すような口調にレミーは心を痛めた。
「だが・・・君がどのような決意をしようとも、どのような明日を望もうとも、私は君について行く。だから・・・、君は自分のやりたいことをやるんだ。自分の意志で・・・。」
「ミリオン・・・。」
「私はこの王国の騎士だ。だが、私はそれ以上に君の騎士だ。そのことを忘れずにいてほしい。」
ミリオンは踵を返した。
「ミリオン・・・待って・・・。」
レミーは去っていくミリオンを追い留めようと手をかざした。しかし、その手は彼の背に届くことはなかった。
「自分の意志・・・。」
レミーは行き場を失った自らの手をきつく握りしめた。
「私がやりたいこと・・・。」
黄昏が過ぎ去り、夜のとばりが辺りを覆い尽くすまで彼女はその場に佇んでいた。
「自分の意志で・・・か。私も人のことを言えたものではないな。」
ミリオンは回廊を歩きながらそっと呟いた。静まりかえった回廊には自分自身の足音だけが妙に響き渡る。
「・・・・ミリオン・・・。」
ふと、廊下の隅から誰かの声が彼の耳に届いた。
「誰だ?」
ミリオンは立ち止まり周りを見回した。
「・・・ここだよ・・・。」
ミリオンの後ろに立っていたのはユアだった。
「ユアか・・・聞いていたのだな。」
「ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったの。」
「そうか・・・。」
沈黙が二人の間を駆けめぐる。
「あの・・・。」
その沈黙の鍵を破ったのはユアだった。
「何だ?」
ユアは儚い。まるで少しでも目をそらせば霧と共に消えてしまいそうだった。ミリオンは彼女の側に駆け寄ってただ無言で抱きしめてやりたいという想いにかられた。
「ミリオンが言ったこと・・・。それは・・・私のことでもあるの・・・。」
しかし、今はそんなことでごまかしてはならない。
「君のこと・・・?」
「うん。」
薄い闇の中、ユアは確かに頷いた。
「ミリオンがレミーについて行くといったように、私も・・・ミリオンについて行く。・・・どこまでも一緒・・・・一緒にいたいよ。」
寂しいのは、もう・・いやなの・・・。とユアは声に出さずに呟いた。
「そうか・・・君がいれば心強い。」
「ありがとう・・・そういってもらえるとうれしいよ・・・。」
二人はただ向き合ってお互いの瞳を見つめ合った。何のこともない、言葉を交わさずとも二人はこれだけで心を通わすことができる。
ミリオンはユアの、ユアはミリオンの、その瞳に映った思いを確かめ合った。
「私・・・もう行くね。」
「ああ。ありがとう、君のおかげで救われた。」
二人は名残惜しそうに別れを告げた。
「私は・・・みんなと一緒にいれたら・・・他には何もいらない。」
その呟きは夜に飲み込まれていった。