私の好きな人は
窓の外からサッカー部が、「あざっしたー」とか「あっとーございやしたー」とか
なんとか叫んでいる声に混じって君の「ありがとうございました。」という凛とした声が聞こえてあぁ、も
うそんな時間なのかと今まで閉じていた瞼を擦った。
教室の窓から少し身を乗り出して君を見る。肩を組んで笑いあっている君の友人すらに嫉妬してしまうあたりどうしようもなく君が好きなんだと実感させられる。
気持ちの良い春風が私の腰まである地味な黒髪を揺らす。金髪に近い君の髪色とは大違いだ。ふと、ここで確か前にも同じような光景を見たことがあるな。と過去の記憶を遡っていると、この高校に入学したばかりのある日にたどり着いた。その日、私は図書委員の仕事が残っていて、ホチキスを留めては箱の中にいれ、留めてはいれという単純作業を四時間近く繰り返していた。最初のうちは一緒に仕事をしていたミカちゃんとブラック企業だ。なんだ、と愚痴をこぼしながら作業をしていたが、一時間程経ったときミカちゃんはかの有名なムンクの叫びのような顔と共に、マンドラゴラもびっくりな奇声をあげて椅子から立ち上がった。遂にこの単純作業に気でも狂ったかと救急車を呼ぶ準備をしていた私に真っ青な顔をしたミカちゃんは一言
「ピアノのレッスン忘れてた」とだけ残し止める暇もなく嵐のように去っていったのだ。その後私はぼっちで社畜となり凝る肩を揉みながら荷物を取りに、教室へ戻った。途中からミカちゃんの存在が記憶の半分を占めていて君の話をし忘れそうになった訳だけども、その時もちょうどサッカー部が終礼をしているところで、放課後まで残ることがあまりなかった私は興味本位で今と同じように窓から少し身を乗り出していた。
終礼とかたずけが終わると次々と帰っていく部員たちをよそに、シュートの練習をする君がひと際輝いて見えたのを今でも覚えている。思えばあれは世でいう一目惚れという奴だったのかもしれない。
それからというもの私はこうして放課後まで残って君の練習する姿を見つめている。今日みたいに途中で寝てしまう時がほとんどなのだけれども。私が君の練習姿を見るために放課後まで残っていて、あわよくば一緒に帰れたらいいな。なんて気持ちの悪い期待を抱いてると知ったら君はどんな顔をするだろう。
今更になって私のしている行為はストーカーにはいるのか?などと心配になってくる。
きっと君は私が君と同じクラスであることすら把握していないだろう。そりゃ、私だって何回か話しかけようとした、しかし君はいつもたくさんの人に囲まれていて話しかける隙も無かった。二年で同じクラスになれて、話しかけて仲良くなって告白しようなんて都合のいいプランは早くも打ち砕かれたのだ。
でも、もし仲良くなれたとしても私は多分告白なんてしないと思う。なんでかって?それは…そこまで考え
たとき、さっき君の肩を組んでいた人が呆れた声で叫んだ。
「まだ練習してたの。もうみんな帰ったよ」
ここ最近君とよく一緒に帰っているその人はどうやら君を迎えに来たらしい。一緒に帰れるなんて羨ましい限りだ。そのあとすぐに君のよく通る声が校庭に響く。
「ごめん、あと一球だけ。」
「一球だけって、今日部室のかぎ返しに行く当番っしょ?早くいかないと怒られるよ」
どうやら君は当番を忘れていたらしい。そういうおっちょこちょいな所も好きだったりする。
「あ、忘れてた。」
「ついでにゼッケンと部室においてある段ボールも持ってきてだってさ」
「はぁ?」
「人使い荒いから。」
「めんどくさ。」
「まぁまぁ、手伝ってあげるから」
そういいながら部室に戻っていく姿を見届けて、私もそろそろ帰ろうかと伸びをした。
教室の窓を閉めると不意にこうやって窓から君を眺められるのもあと一年しかないのかと少し寂しくなる。
廊下に出ると少し寒くて身震いをした。下駄箱に行こうと職員室の近くを通ったとき、君の声が聞こえた。
とっさに何故か隠れてしまう私。あぁ、こんなんだから私は…と再び自己嫌悪に陥ってしまう。
そんな私の気持ちとは裏腹に君の明るい声が近づいてくる。
「あぁ、重たいこれ何入ってるの。」
「さぁ?てかさ他に誰か持ってくれる人とかいないかな?」
その言葉が聞こえた時ある作戦が私の脳裏をよぎる。もし私がここで手伝ったら仲良くなれんじゃね?作戦だ。深呼吸をして一歩踏み出そうとしたとき
「いないでしょこんな時間だし。」
という君の声が聞こえて踏み出した足を戻してしまった
「だよねぇ」
といいながら隠れていた私の横を通り過ぎていく背中を見つめて何だか話しかけるチャンスは今を逃せばもうないんじゃないか。と思っただからタイミングを伺って話しかけようと⒉3歩進んだとき、君が急に叫んだのでビックリしてしまった
「あぁぁぁ!こういう時後輩いたらなぁ、なんでいないんだよ」
「まぁ、まぁ」
「はぁ……こんな時、手伝ってくれる男子がいたらなぁ」
……………………
「しょうがないよ、うち……女子校なんだし。」
その言葉を聞いた瞬間何だか悔しくなった。泣きたくなった。分ってることなのに。
「わかってるよ」
「何々?もしかして好きな人でもいるの?」
「うるさい」
あんなに好きだった君の声が今では私を責め立てる声に聞こえる。
気が付いたら君がいるのとは反対方向に走り出していた。
こんなことで泣くくらいじゃ告白なんてできない。分ってるのに涙が溢れて止まらなかった。
私の好きな人は END
こんにちは。作者の詩乃と申します。最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
この作品は私にとって処女作だったので読みにくく至らない所も沢山あったと思います。
直した方がよいところや、アドバイスなどがあれば是非お願いします。
また次作も出すと思うのでまたしょうもないもの書いてやがるー。的なノリで暇つぶしにでも読んでいただければ幸いです。
最後に。本当にありがとうございました
詩乃