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第8話

表現力がもっと欲しい。。。

 化学準備室に入った俺は先生からのお茶で歓迎された。

 漫画やアニメにありそうな、ビーカーにコーヒーを入れて出てくるようなことはなかった。

 先生曰くそんなものは汚いし、危ないじゃない! とのことだった。現実はやはり現実だった。ちょっとワクワクしたのに……

「それよりも先生! 生贄をはやくはやく!」

 俺が生贄になっているからなのか? 美祢お前覚えてろよ。張り切りすぎだ。

 俺じゃなくて美祢本人が生贄になっててもこいつはテンションを上げそうだな。そんな奴だ。

「生贄をはやくってなんだよ!」

 俺はごまかすために突っ込んだのだが先生には見抜かれているのか、ニコニコしながらこっちを見るだけだった。

 何をされるのかがわからないから緊張してきた。別に変なことをされるわけがないとわかっているけども不安になる。

 俺が不安か緊張か自分の状態がわからないまま勝手に一人でオロオロしているのをまだじっと見るだけの先生。本当に何がしたいんだ? わかるのはこの状況を楽しんでいるようだ。

「じゃ、はじめましょうか?」

 先生はそう言ったあとにゆっくりとお茶を一口。俺はその一言に心臓が跳ねた。

 ドキドキするとはこのことだ。一体今から何が始まるのか。

「な、何をするんでしょうか?」

 不安を隠すようにと吐き出したセリフ。ちらっと美祢の方を見ると、美祢も黙り込んで先生を見ていた。

「何をするって最初に言ったでしょ? 質問をするのよ」

 そういえば質問をするって言ってた。何を質問されるのだろう。先生が俺に質問をしてどうなるのか? 疑問ばかりが浮かんでくる。やはりおちょくるような質問をするのだろうか。まさか恥ずかしい質問攻めなんて……この先生ならありえそうだ。

 俺が先生の立場だとして何を質問する。

 相手の立場に立って考えてみる……俺はおそらく先生の立場になってもこんな状況にならないという結論に達してしまった。もっと考えろ。先生の立場……

「オーケー? いろいろ考えてるみたいだけど始めるわよ。ウフフ」

「は、はい。お願いします」

「が、がんばって!」

 美祢が緊張した声で応援してくれるが、その緊張した声がさらに俺の緊張を増大させる。いつもみたいに間抜けな感じでガンバッテー! くらいの方が今は嬉しかったんだけどな。

「じゃあハリキリボーイくんへの質問攻め。まずは一つ目。旅行部って何をやっているのかしら?」

「……?」

 俺の思考が停止してしまった。先生の質問を理解するのに時間がかかりそうだ。  

 旅行部が何をやっているのか?

 旅行部が……

「えっ? そんな質問?」

 思わず口から出てしまった。いろいろと考ようとしたが、質問が脳までこなかったようだ。それほど自分の中で想定していない質問が飛んできた。

「そんな質問とは何よ。いったいどんな質問を想像してたのよハリキリボーイくんは。もうこれじゃあムッツリボーイじゃない」

「ムッツリボーイとかほんとやめてください」

「プハハハハハハ」

 美祢、後で覚えてろよ。お前笑いすぎだぞ。

「プハハハハハハハハ」

「いい加減笑い終われよ!」

「ムッツリボーイだって。プハハハハハ」

 だめだこいつは。もう壊れてしまったようだ。あとは広められないようになんとかしなければ。とりあえず今笑われる分でおしまいにする方法は後から考えよう。

「美祢ちゃんそんなに面白かった? 私は美祢ちゃんのツボが全くわかんないわね。ウフフ。で、旅行部の活動よ」

 じっと見つめられるとプレッシャーをかけられているように感じる。

 旅行部の活動。いったい何やってたっけ? 部室でだべって昼飯を部室で食べて……そんなこと答えられないな。どうしよう。

「そんなに考えないといけないこと? そんなに何もしてないのかしら?」

 何もしてないから喋ることがなくて困っているのだ。まさに図星ってやつだ。

 さっきまでとは違う、急に真面目モードの先生。そう! 先生っぽい。

 このまま黙ったままだと顧問にはなってくれない。そもそも最初からなるつもりなんてないのかもしれなが、話を聞いてくれてるわけだからなんとかなるかもしれない。

 俺は何も活動をしてない旅行部の現状は話せないと判断した。そこで俺はこれから旅行部としてどんな活動をしたいのかをとりあえず話そうと頭を切り替えた。

 俺がやりたい旅行部。あれだけ旅行部にこだわってたんだ。

 今この状況の先生の前でも喋られるはずだ。なんせ旅行部に惹かれてこの学校を選んだんだから。

 しかし俺の頭の中はあまり働かなかった。俺は旅行部っていうフレーズだけで、どんなことをしてるんだろうという期待だけで入部したのだ。

 そうか俺は勝手に旅行部という幻想を追いかけてたということなのか?

「ちょ、ちょっとハリキリボーイくんどうしちゃった? そんなに悩んじゃうの?」

 長い沈黙に耐え切れなくなったのか、先生が取り乱しながらも、ややゆっくりな口調で沈黙を破った。

「べ、別に緊張しなくていいのよ? 生贄なんて言ったから変に考えてるのかしら? 旅行部が普段何やっているのか知りたかっただけなのよ」

「旅行部は普段部室で喋ったり部室でみんなで昼飯食べたりするだけです」

 俺は力なく言った。そう、事実を言ったのだ。どう考えてもこれ以外のことが出てこない。ギブアップだ。

「なんだ。最初からそういえばいいじゃない。別にこれは面接じゃないんだから。もうハリキリボーイくんがムッツリボーイくんって言い換えたこと怒ってるのかと思っちゃったじゃない」

 先生が焦ってたのってそこかよ! 俺はもう言葉が出てこなかった。

「でもね、それって旅行部じゃなくても別にできることなんじゃない? どうして旅行部っていう部にしようとしてるのかを知りたいの。これは真面目な話ね」

「それは……」

 桃花先輩が俺たちが入ってきてからもっと旅行部のことを考えてることを思い出したがこれは秘密にしておいてと言われたことだった。しかしよく考えるとそれまでは桃花先輩は特に何も考えてなかったってことだよな。たしかそんなこと言ってたっけ?

「それは、俺が旅行部目当てでこの学校を選んで入学を決めて、実際入部してもっと楽しい部活にしようと思ったからです」

 先生は黙ったまま俺を見つめる。じっと黙ったまま。

 よく見ると先生瞬きすらしてないぞ? どうしたんだ?

「せ、先生?」

 俺は先生の目の前で手を振る。そうすると先生はビクッと反応した。

 気絶でもしてたのか?

「先生どうしたんです? 急に固まっちゃって」

「うちの学校の旅行部ってそんなに有名なの? ねぇ、どうして外で旅行部のこと知ったの?」

 これって次の質問なのかな? 急に質問が食い気味というか早口で焦っているように感じる。

「それは文化祭で旅行部がおばけ屋敷の前で焼きそばとジュースを売ってて、旅行部ってなんだ? 面白そうと思って。まぁ俺がこの学校を目指したきっかけですけどね」

 さっきまで口に出せなかったことなのに今はスラスラと言える。なんだ、いろいろ言葉を選ばなくても良かったのかな? 俺は深く考えすぎてたのかな。

 しかし俺の言葉を聞いた先生はため息をついて頭を抱えブツブツと何か言い出した。

「ど、どうしたんです?」

「い、いや、気にしないで。取り乱してるだけだから」

 そのセリフがもうおかしいです先生。

 先生はひとつ咳払いをして落ち着こうとしている。

「じゃあ次の質問ね。ハリキリボーイくんはなぜ私に顧問をたのもうと思ったわけ?」

「そ、それはさっきの成り行きというか。入学式の約束といいますか」

 俺のちょっと自信のない回答はもしかしたら見破られているのかもしれない。

「本当に入学式の時にそんなこと言ったのかしら?」

 さらに先生は続けて畳み掛けてくる。

「成り行きと言ったけどハリキリボーイくんは私がどこの部活の顧問とか調べてるわけないよね? だって成り行きで声をかけたんでしょ?」

 そ、そういえば先生がすでにどこかの顧問とかいうことを全く想定してなかった。よく考えると化学準備室に個人的なスペースを持ってるくらいだから化学部の顧問ということは安易に想像できる。

「先生ってやっぱり科学部の顧問……なんです?」

「そんな自信なさげに聞いてこなくても顧問じゃないわよ。別にどこの顧問でもないわ。職員室が嫌いだからここにいるだけよ。ウフフ」

「……」

 じゃあさっきの質問は何だったのか? と考えたが俺が先生の都合を考えてなかったのは事実だ。

 美祢は毎日の職員室特攻と見せかけてちゃんと暇そうな先生をチェックしていたというのに。

「ハリキリボーイくんは真面目ね。いろいろ必要無いことまでいろいろ考えてるんじゃないの? もっと気楽でいいんじゃないの? じゃあ質問はこれでおしまい」

 笑顔で言い終わるとまたお茶を一口飲み、何かを見てるような仕草を察しその先を見た。

「プハハハハハ」

「お前まだ笑ってるのか! こっちに来い」

 そうやって化学準備室を出ようとしたところで先生が声をかけてくる。

「顧問の件、考えとくわ。ウフフ」

「ムッツリボーイ……プハハハハハ」

「お願いします」

 俺は手を振る先生に頭を下げながら、そして壊れた美祢を引っ張りながら化学準備室を出た。

「ムッツリ」

「ウルサイ!」

 この壊れて笑うことしかできなくなった人形をなんとかするべく、いつもとは反対の立場となり引っ張って部室まで連れて行こうとして一旦停止した。 

 このまま部室に行くと俺の名前はムッツリボーイだ。

 焼却炉にでも放り込むか。

「ゴメンナサイ。プハハハハハ」

 俺の心を読んだのか一旦は謝るが笑いは我慢できなかったようだ。はやりこいつは捨てるしかない。

「ハリキリムッツリ。プハハハハハ」

 美祢の我慢できてない笑い声がいつまでも漏れていた。

話題の映画を見に行きました。

物凄く好きな展開でした。

2回観てしまいました。

ではまた次回

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