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第7話

「また来ます!」

 職員室を出るときに言うセリフじゃないことは隣に居るこの俺が一番わかってる。

 美祢の職員室特攻3日目。先生たちも俺たちが職員室に入った途端に苦笑いでお出迎え。

 毎日通ってどうにかなるわけもないだろう。しかし何か思いつくまではとりあえず通おうと美祢が言っていた。

 正直俺はもうこの職員室特攻を辞めたい。

 全校生徒の間で毎日旅行部の1年が職員室に顧問を求めて特攻しているという噂が広まっている。

 噂じゃなくて事実なんだ。

 今日も職員室を出ると「ホントに居るよ」という言葉が聞こえてくる。野次馬まで発生してる始末だ。

「よしだいたいわかったわ」

「何が?」

 職員室を出た美祢が何か言い出した。またきっと変なところだろう。

「何がじゃないわよ。私だってバカじゃないんだから毎日ただ職員室に先生を勧誘しにいってたわけじゃないわよ。聞いて驚かないでね。3日間行って3日間とも席に座ってた先生は5人。その中で奥の一人は教頭先生だからきっと顧問にするのは難しいわ。ということで顧問になってもらえるかもしれない先生は残りの4人。その中で3人が3日間とも見る限りでは暇そうにしてたわ。もうひとりの先生は3日間ともいろんなことをしていたから忙しいのかもしれない。もう少し職員室に特攻して様子を見てからお願いしようかとおもってるの。どうかしら?」

 美祢お前すげえよ。凄すぎて言葉がでない。

「あれ? 城野くんどうしちゃったの?」

「美祢のことすげーなって関心してたんだよ」

「城野くんがそんなこと言うなんてウソっぽいわね。その言葉嬉しいけど」

 褒めると目線をそらして照れを誤魔化す仕草とかかわいいな。職員室に特攻してる時はいろんなものを見てると思えば、ちょっと褒めるとオロオロと落ち着きなく慌て出す。

 俺は正直もう職員室特攻をやめようと提案する思いだったが、目的があってやってるのならばもう少しだけ付き合ってもいいかなと考え直した。

 日課の職員室特攻を終え部室に向かってだらだらと歩いてた俺と美祢の前になんとなく覚えのある顔の先生? が歩いてた。白衣を着ているのでおそらく先生だとは思われる。

 完全に一致せず、なんとなくどこかでという感じだ。もうすぐそこまで出てきそうだったが、そこまでで出てこなかった。

 だが俺の記憶は正しく面識はあったようだ。何度も言うが思い出せなかっただけだ。

「あら? いつぞやのハリキリボーイくんじゃない。廊下で腕なんか組んでカップルアピールなんて羨ましいわね。ウフフ」

 ハリキリボーイ? なんだその変なあだ名は。俺はそんな名前で呼ばれたことなんてないぞ。しかもなんだハリキリボーイって。

「プププ。何? ハリキリボーイって。私もそう呼んでいい?」

「頼むからやめてくれ」

 俺たちのやり取りを見ながら先生? は笑っている。美祢も半分笑いながら聞いてきてる。笑ってないつもりかもしれないが、不自然にヘラヘラしてるぞ。笑うなら笑えよ。

「入学式の時はあんなに親しく話してくれたのにもう忘れちゃったのかな?」

 今の一言で思い出した。俺の記憶でどこか引っかかってた程度だがようやく思い出せた。

 入学式の時に教室に入ってきた先生だ。ついでに俺たちのクラスの入学式の案内人だ。

「ねぇねぇ? 先生と何かあったの? ハリキリボーイって何?」

「ハリキリボーイはやめろ」

「ハリキリボーイくんとの出会いはね」

「先生も言わなくていいですから」

「ハリキリボーイって何なのよ。私に隠し事するの?」

「本当にやめてください。お願いします」

 この人は本当に先生なのかっていうノリだ。先生っぽくないというか。

「先生お名前は? 私は1年2組の美祢 彩耶乃です!」

「そういえば1年生の授業には行ってないし、入学式の時に名前も名乗ってなかったわね。私は3年1組の担任と教科は化学を担当してるわ。志井しい 稔子みのりこよ。よろしくね、ウフフ」

 化学だから白衣を着てるのか? ベタなところを狙ってるのか?

「あら? ハリキリボーイくんは自己紹介が無いのかしら? 本当にずっとハリキリボーイくんって呼んじゃうわよ。来年以降私が授業の担当になったり担任になればきっと面白いことになるわね、ウフフ」

「や、やめてくださいよ本当に。俺は1年2組の城野 信玄です。お手柔らかにお願いします」

 ハリキリボーイを免れるために慌てて自己紹介をする。来年以降トラウマにならないためにもハリキリボーイは阻止しないといけない。

「先生! 旅行部の顧問になってください!」

 突然美祢がお願いに出た。こいつは場の空気とか全く無視か。本当に脈絡も何もない。

 特攻にも程があるだろ。お願いするときにはだいたい理由を説明したり……

「あなたたちだったのね。毎日職員室に旅行部の顧問になってくれってきてたのは。あなた達は職員室の有名人よ。ウフフ。私はほとんど職員室に居ないから職員室の有名人のウワサしか知らなかったんだけどね。ウフフ。面白そうね」

 俺たちやっぱりそんなに名が知れ渡ってたのか。どこでどう間違えたらこんなことになったのだろうと考える間もなく旅行部が原因で、美祢が原因だ。

 しかし先生がチラチラと俺を見ている。また何か変なことを考えてるのか?

「確かに入学式の時に困ったことがあったら言ってと言ったような記憶はあるんだけどね。美祢ちゃんからお願いはされたけどハリキリボーイくんからお願いされてないしどうしようかなー」

 入学式のときの会話でそんなことを言ってたことなんて全く覚えてないが、これはチャンスかもしれないので素直にお願いに出ることにする。

 顧問ができると、部としてちゃんと活動ができるし、念願の正式な旅行部のスタートになるわけだ。

「先生! 旅行部の顧問になってください。俺からもお願いします」

「えーどうしようかなー私忙しいのよね、ウフフ」

 完全に遊ばれてるじゃないか。最初から顧問になんてなる気はないのか?

「何か生贄が必要でしょうか?」

 美祢は何を聞いてるんだ。こいつの頭の中はどうなってるんだ? というかお前が会話に入るとろくなことにならない。

 こいつの積極性はすごいと思うが、紙一重のところでダメな方になってると思う。

「生贄ね。美祢ちゃん面白いわね。じゃあ生贄はハリキリボーイくんに質問することにしましょう」

 生贄は俺か! というか質問ってなんだ。この先生のことだからまた変なこと聞かれるのか? とりあえず頑張って答えるか。

「じゃあお願いします」

「ハリキリボーイくんが張り切ってるところ悪いけど化学準備室に行きましょ。私立ち話で疲れちゃった。化学準備室は私の部屋みたいなものだからどんなしてことも大丈夫なのよ。ウフフ」

「わー化学準備室! なんか化学の先生っぽい!」

 美祢の言葉はもうあんまり俺の耳に入ってこなかったが変なことを言ってるなっていうのはわかったぞ。

 化学準備室に向かう俺の足取りは重かった。気分も重かった。

 何をされるのかも想像つかない。俺は生きて帰れるのだろうか? まさに生贄の気分だった。

 不安な気持ちってこういうことを言うんだな。


スポーツの秋ですね

いろいろ見てます

今日は寝不足です

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