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第67話

 寒さも厳しさを増し、一層部室に行くこの廊下が辛くなってきた。風は冷たくなる一方で、心地いい風が吹いていたついこの間までの時期が懐かしい。

 寒い廊下を駆け足で駆け抜け部室にたどり着く。

 そのまま部室に飛び込んだ。

「お疲れ様でーっす」

 簡単に挨拶すると部屋の暖かい空気がお出迎えしてくれた。だが暖かいのは空気だけだったようだ。

「ノブくん遅いですわ!」

「今日って何かやる予定でしたっけ?」

 頭の中を働かせながらも部室を見渡す。見慣れないホワイトボードが存在感をいっぱいにして居座っていたので何かするのだろう。しかし桃花先輩以外は日田先輩しかいない。

 これで俺が遅刻とは納得いかないぞ。全然人数が足りない。

「もう! どうして誰も覚えてないのです? 文化祭の打ち上げの時に言いましたのに」

 一人で文句を言ってるが誰も覚えてないからこの惨状なわけか。しかし文化祭の時に何を言ってたのか必死で思いだそうとすると俺の胃が記憶をたどることを拒否している。

「はぁ。旅行の計画ですわ。け・い・か・く!」

 ため息をつきながら俺に説明をしてくれた。そういえばそんなこと言ってたような気がする。それよりも炭酸のインパクトが強すぎて旅行云々の記憶はきれいさっぱり消えさえってる。きっとみんなもそうだろう。そんなことを考えてたらまた胃が痛くなってきた。

「他のみんなはどうしたんですか?」

 俺の質問はため息で返された。どうやら先輩の思い描く展開にはなってないようだ。そして思い出したかのように怒り始めてしまった。

 怒るといっても怒り狂うというよりもイライラしてる? 違うな。焦ってる? うん。焦ってるが表現としてはマッチしてるように見える。

「なんですの? ノブくんニヤニヤして。それよりもヒメちゃんを早く呼んでもらますかしら?」

 やっぱり焦ってな。先輩ってわかりやすい。

「この後何か用事あるんですか? 急いでるみたいですけど」

「急いでますわ。烏丸先輩には今日部活は無しと言ってますので万が一部室に来てしまうと計画が台無しですわ。だから早く始めたいのですわ」

「どうして烏丸先輩は……」

 そこまで言って思い出した。烏丸先輩が旅行部の旅行システムを知らなくて混乱してた。知らないまま計画を立ててぶっつけ本番で困らせたいとかそんな考えなのだろう。前もそんな考えが見え隠れしてた記憶が蘇ってきた。

「だから烏丸先輩が居ない間に旅行の計画を立ててしまうんですのよ。烏丸先輩を困らせるのですわよ! 部室に来ちゃうといろいろと面倒ですわ。『今日部活は休みじゃなかったのかしら?』なんて言い出しかねませんわ」

 ぶっちゃけちゃったよこの先輩。包み隠さず全部本音言いましたよ。しかも烏丸先輩のモノマネ結構うまかったし烏丸先輩なら言いそうなセリフだ。

「とは言いつつまだ3人しか居ないんですけど」

「だからヒメちゃんを早く呼んでほしいのですわ。ゆかちゃんと彩耶乃は生徒会でこれませんわ。カツくんは遅れてくる連絡が来てますからあとはヒメちゃんだけなのですわ。ノブくん早く」

 だったら何で今日決めるのだという疑問はとりあえず飲み込む。

 俺に詰め寄って来てからを思いっきり揺らす。俺は無抵抗に身体を揺らされるまま。

「早くですわ。ノブくん遅いですわ」

「ベガを呼ぶって言ったって先輩が読んだ方がすぐ来るんじゃないですか? 別に俺が呼ばなくても」

 揺らされながら答えると。またため息。

「分かってませんわね」

 一言だけ言って首を大袈裟に降っている。

「ノブくんとヒメちゃんとっても仲がいいですわ。もしかしたら彩耶乃よりも仲がよくって……なんちゃって」

「ハイハイ。またそんなこと言って。じゃあ呼びますよ」

 精一杯素っ気なく答えたが心臓はドキドキしていた。ベガのことを意識したからだ。

「オイオイ。満更でもない戸惑い方すんなよ」

 いつも通り存在感を消すプロなのかと思うほど気配を消していた日田先輩に突っ込まれてしまった。この人会話にはあまり入ってこないけどよく見てるし会話を聞いてるんだよな。

 日田先輩から桃花先輩に顔を戻すと面白くなさそうな表情に見えた。てっきりこんな展開になって面白がってると思ったのに。もしかしたら桃花先輩は自分がおちょくれなかったからちょっと不満なのだろうか?

 もう一度桃花先輩と目があった。やっぱりまた面白くなさそうな表情をする。

 なんでだ? 俺はわけがわからなかったが、面白くなさそうな表情じゃないのか。早く呼べってことだな。そう考えると自分の中で解決できた。

 さて、先輩がまたため息をつく前にベガを呼ぶことにしよう。そう思いケータイを手に取ると部室のドアが開く。だいたいこんなもんだ。

「あー寒い寒い。もうどうしてこんなにここは風が強いのよほんとに」

「もーどうして来ちゃうんですの!」

「えっ? 何々? 何かまた悪巧みやってたの?」

 さっきまで早く早くと急かしてたのに本人が来ると全く反対のことを言い始めたぞこの先輩。

「悪巧みじゃないですわ。ヒメちゃんは喜ぶことですわ。でももう駄目ですわ。遅いですわ」

「何なのよ。もう来たとか遅いとかわけわかんないんだけど。ねぇ城野どうなってんの?」

「さぁ? 俺にもわからん」

「ノブくんがヒメちゃんと電話してるとこ見たかったですわ。そしてノブくんから電話もらってやってくるヒメちゃんの表情とか見たかったですわ」

 今日は本当にどうしたんだ? 本音をぶっちゃけすぎだろ。変なものでも食べたのか? いや、先日変なものは飲んだか。それでおかしくなってしまったか。来年の出店は別のもの考えないといけないな。そうじゃなくても別のものを考えるのだけれど。

「何なのそれ? 私が城野から電話もらってどうなるっての?」

「おい、茶山。お前声のトーンが変わりまくってるぞ」

 今日の日田先輩の突っ込みは鋭いな。こういう日なのか?

「な、そんなことないもん。別に城野から電話もらっても嬉しくないし」

「嬉しいとか嬉しくないとか何も言ってないぞ。でも茶山は城野から電話もらうと嬉しいのか」

 ベガは部室に入ってきてまだ数分なのに先輩たちの猛攻撃を受けている。

「始めないんですか?」

 ベガを助けるつもりもあったが今日はなんだか早く切り上げたよさそうだ。

「そうですわ! 早く始めますわ」

「何を? 私いきなりわけがわからない状況なんだけど? まだ何かやるの?」

「まだじゃないですわ! まだ何も始まってませんわ。今から始めますわよ!」

 そう言ってようやく旅行の計画が始まった。

 


 旅行の計画はあっさりと決まってしまった。美祢言ってたオーロラをベースに順序良く決まっていき、途中小森江先輩がやってきて話をまとめていく。

 資料はまたしても小森江先輩が集めるとのことだった。毎度毎度ありがたい。

 小森江先輩が来るまで真っ白だったホワイトボードに文字がたくさん連なっていった。

 そしてテストが終わった後にオーロラ旅行ということになった。

 最初から小森江先輩を待って計画を立てた方がよかったのじゃないか? 俺はそんな疑問を浮かべた。

「何ですのノブくん」

「いや、先輩どうしてホワイトボードがあるのにノートに書いてたのかなって」

「う、うるさいですわ。使い慣れてないだけですわ。それに4人しか居ないから別にノートでも見えますし。一人はほとんど会話に参加してませんし……」

 本を読みながらも会話は聞いてるようで日田先輩は本を読む体制は変えずに本を持ったままの手で器用にピースして見せた。

 もしかして日田先輩っていつも部室で寝てるときも会話を聞いてるわけ……あるわけないな。そんなことを考える自分があほらしい。

「あら?」

 部室のドアが開いて疑問形の声が聞こえた。声の主は知っている。今、部室には本日欠席の2名をのぞいて4人。そして残り2名のうちの1人声だ。なお1名は途中から来てすでに帰宅した小森江先輩。

「今日、部活無いんじゃなかったの?」

 これは桃花先輩のモノマネではなく本物だ。

「無いですわよ。おほほほほ。それよりも寒いからドアを閉めていただけませんこと?」

 顔は烏丸先輩を向けたままでも不自然に右手でホワイトボードを触る桃花先輩。先輩、後ろが壁になってるから回転させるのは片手じゃ無理です。それに明らかに不自然です。

「ねぇ城野、なに? どうなってんの?」

 ベガもわけがわからないのだろう。色々と察して俺に小声で聞いてきた。

「じゃあどうしてみんな部室にいるのかしらね? ノ・ブ・く・ん」

「な、なんででしょうねー。いつもの習慣で来ちゃったんでしょうねー」

 烏丸先輩に言われたこともない呼ばれ方をして焦ってしまう。焦っていたし背中がゾクゾクと恐怖を感じるようだった。いや、現に恐怖を感じている。でもどうして俺に話を振ってくるんだやめてくれ本当に。

「旅行の計画でしょ? 先輩こそ遅かったですね」

 さらっとベガが言って俺に何やら伝えようとこちらを見ている。なんだ? 俺を助けてくれたのか? 全然助けれてないけどベガは事情を知らない。桃花先輩が烏丸先輩に内緒で旅行の計画を立てようとしてたことを。

 桃花先輩は『あー』とか『うー』とか言いながら騒いでいる。駄目だこれは。誤魔化そうとしてるのか? 全く何をしたいのか意味不明だ。

「旅行の計画? 今日は部活無いって聞いてたのだけれど? どうして私は呼ばれてないのかしらね? 私が日にち間違えちゃったのかしら?」

 笑いながら怒るってこういうことなのか。顔はめっちゃ笑顔なのに声のトーンはすごく怒ってるようにしか聞こえない。そしてその言葉を聞いて口に手をやるベガ。自分が犯した過ちに気が付いたらしい。

「どうして私は呼ばれてないんでしょうね? 知ってる? ノ・ブ・く・ん」

 何で俺に迫ってくるんだ? どうして俺はこんなに追い詰められてるんだ。これって桃花先輩が追い詰められるんじゃないのか?

「黙ってちゃわからないんだけど? 知らないなら知らないって言っていいのよ。そうしたら隣のベ・ガ・ちゃ・んに聞くから」

「城野、あんた何か知ってるんでしょ? 早く言いなさい。何でもいいから言いなさい! 早く」

 ベガにまで責められ始めた。

 部室の扉にそびえたつ烏丸先輩は黙ったまま俺を見て、ホワイトボードの下にはチワワのように震えてる桃花先輩。そして俺の右では白状しなさいと問い詰めてくるベガ。本の向こうで表情は見えないが絶対笑ってるであろう日田先輩。肩が震えてますよ日田先輩。

「せ、先輩を驚かせるつもりだったんです」

 プッという噴き出した笑いが聞こえた。本の向こうから。

 俺も今自分自身の状況じゃなかったらそんな苦し紛れ無いわと思って噴き出して笑うと思う。だが苦し紛れしか言えない状況になってるのだ。それに驚かせるというのは嘘じゃないし。

 烏丸先輩は黙ったまま動かない。じっと俺を見たまま。

「そう。まぁそういうことにしておきましょ」

 そういうと部室から出ていくわけじゃなくて桃花先輩の隣に座ってしまった。

「えっ?」

「えって何よ。寒かったんだから暖かいお茶くらい飲ませてよ。も・も・かの入れた暖かいお茶が飲みたいわ」

 そのあと烏丸先輩が帰るまで生きた心地がしなかった。

 読んでいただいてありがとうございます。

 資格の勉強をしながらも喜んでおります。

 文化祭も終わりいつもの日常が旅行部に戻ってきた感じですが距離感は少し近づいた?感じを出せてたら嬉しいです。

 少しキャラクターを砕きすぎてしまったかという思いはありますがそれは私の技量不足ということで。

 烏丸先輩の疑似旅行初体験の前にあれを書くつもりです。学生さんのメインのイベントですね。

 あとがき書いてたらあーハロウィン書いてないな。桃花先輩がハロウィン無視するはずがないなぁなんて思いついちゃったなぁ。

 ではまた次回。。。

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