第65話
文化祭の打ち上げで、ゆかり先輩の水着姿が頭の中いっぱいになる中俺。そんな中一つ気になる映像を目撃してしまった。
別にえっちな映像と言うわけではない。そりゃ、美祢だってチラチラと健康的な太ももが見えてるし、ベガだって烏丸先輩だって桃花先輩だって基本的に今日は特別な衣装を着ているし、露出が高い。
これだと俺一人で盛り上がっているように見えるのだがちゃんとみんなで盛り上がっている。みんなで盛り上がっているからそこ気になる映像に気が付けたのかもしれない。
いつもなら一番騒いでる二人。美祢と桃花先輩が部室の隅で何やら話しているように見える。いつものように何か悪だくみを考えているようには見えない。
まぁカモフラージュしているのかもしれないが、桃花先輩が結構真面目な顔に見えたから悪だくみを考えているように見えないのだ。悪だくみを考えているときはニヤニヤが溢れて止まらない。表情に出ているから意外とすぐわかってしまうのだ。まぁ桃花先輩もそういう時は隠すつもりもないのかもしれない。
「気になるのか? 気になるのか?」
おそらく俺が二人を見過ぎていたのだろう。最近この人に良くそういうところを目撃されたり指摘されたりする。
「いや、なんかですね美祢が普通じゃないような感じで気になっちゃうんですよ」
「えぇ、そうね。あの子変だものね」
烏丸先輩がマジで言ってるのか冗談を言ってるのかよくわからない。桃花先輩とは対照的にそんなに表情を出すタイプではないし、旅行部に入ってまだ時間もそれほど立っていないから雰囲気でもよくわからないのだ。だから俺はマジで言っているものとして返答する。
「そういう普通じゃないっていうことじゃないですよ」
「大変にしているのはあなたなんだけどね」
またよくわからないことを言っている。会話になってないよね? これ。
俺はどう返答していいのか全く分からなかったのでしばらく烏丸先輩を見ていた。だがずっとニコニコしてるだけだ。
そのタイミングで桃花が美祢を連れて部室から出て行ってしまった。やはり何かあるのだろうか? 心配になってくる。
みんなもそれを見て部室の中が静まり返ってしまう。ベガもゆかり先輩も心配そうに部室のドアを見ている。ドアというよりはドアの向こうの美祢と桃花先輩が気になっているのだろう。
二人はお互いを見て頷いた。そのまま二人で部室を出ていく。後を追ったのだろう。ゆかり先輩はコートを着ていた。流石にあのままの格好では出ていけないよな。
それにしても美祢はやっぱり体調悪かったのかな? 昨日も明らかに悪かったからな。今日見る限りもいつもとは違う感じだったけど……そんなに体調が悪そうには見えなかったんだよな。まぁ俺も美祢の何がわかるってそんなすべてわかるわけじゃないから。といろいろ考えてしまう。
何の根拠もないのに俺がクラスのみんなに大丈夫って言ってしまったから……そんなこと言ったら今日体調がよくなくても無理して出てくるよな……。
俺が美祢のことを考えていたらすぐにベガとゆかり先輩が戻ってきた。
「やっぱり美祢体調悪いのか?」
さっきまで考えていたことを戻ってきたベガに聞いてみた。聞いてみたというよりも口から勝手に言葉が出ていた。
「体調? わかんない。とりあえず桃花先輩が戻れって。体調が悪いとかそういう風には見えなかったけど」
ベガの言葉を聞いても自分の中で消化できない。昨日だって美祢が体調悪そうだったのに誰も気が付かなかった。というよりもあいつは普通通りに見せてた。よく考えると今日だってアイツっぽくないところがいっぱいあった。やっぱりおかしいんだ。
俺はそう思って部室を出ようとして動き出そうとした。が、急に腕を掴まれて、立ち上がりかけてたのだがまたパイプ椅子に座ってしまう形になってしまった。
腕をつかんできた犯人を確認しようとして後ろを振り返る。
「あなたは行かない方がいいのかもしれない。とりあえず桃花に任せましょう」
烏丸先輩が首を振りながら答えた。何か知っているのか? どうして俺が行かない方がいいのか? わけがわからない。
「俺が行かない方がいいってどういうことですか?」
いろいろ考えすぎてたのと、烏丸先輩の言い方が俺をのけ者にしているように聞こえて思わず強く聞き返してしまった。
俺の言ったことに言葉を返せないのか、いつもならズバズバと答える烏丸先輩が困っている。やっぱり俺が行かない方がいいっていうのも憶測でしたかないのだ。
「ゆかりんやベガちゃんが追い返されてるからきっと城野くんが行っても追い返されるよ。桃花ちゃんああ見えてガンコだしね」
小森江先輩からの急な言葉でびっくりしてしまった。
びっくりしてそのまま納得した形になってしまった。だが、俺の気持ち的にはしぶしぶ納得した形。俺の言ったことに対しての答えになってない。
このやり取りでまた部室の空気が重くなった。旅行部でこんなことになったことなんて記憶にない。何も考えずにただワイワイしてるくらいの感じだったのにどうしてこうなってしまったんだ。
そしてまたいろいろと考えようとしていたところで烏丸先輩が盛大なため息をついたあとに、
「打ち上げでしょ? 打ち上げ。あの二人が戻ってきたときには楽しそうにしていないと。楽しくしましょ?」
急に何を言い出すかと思ったら。今はそれどころじゃ……って烏丸先輩の行動に唖然としてしまう。
取り出したのは今日大活躍したあの機械。
ゲテモノ炭酸生成器
自分でも頭に血が上っていたのがわかるくらいだったのに、今度はそんなこと考えられなくなるくらいのことが目の前に起こっていて唖然とするしかなかった。それは他のみんなも同じで部室の中にいる烏丸先輩以外全員が固まってしまった。
「さぁ、ゲテモノ炭酸でパーティーするわよ」
一言だけ静かに言っていきなり最強である牛乳炭酸を作り始めてしまった。
各々で思考を巡らせていたのだろう。止まっていた烏丸先輩以外全員がいきなり慌て始めた。もちろん俺もだ。
「ちょっと何やってるんですか!」
まず一番に言葉を放ったのは以外にも日田先輩。きっと炭酸牛乳に嫌な思い出があるのだろう。反射的に言葉を出して既に止めに入っていた。
いつものんびり昼寝ばかりしているイメージの日田先輩だが機敏に動けるのだとこういう状況なのに感心してしまった。そういえば桃花先輩の教室から旅行部の道具を運ぶ時もテキパキと動いていたことを思い出した。
「もちろん先輩自分で飲むんですよね?」
今度は小森江先輩が確認した。
その言葉を聞いた烏丸先輩は黙って牛乳炭酸を飲み干した。
そしてそのまま見たこともない笑顔で、
「もちろん私が飲んだのだからあなたたちが断れると思ってるの?」
そう言って後は黙ったまま炭酸牛乳を空の紙コップに注いでいく。
俺の目にはそれが凶器にしか見えなかった。いや俺の目だけじゃないだろう。
「早く、飲んでいいのよ。遠慮せずに」
そう言って再び炭酸牛乳を作り始めた。一体どうなってるんだ? 本当に烏丸先輩だよな? いつもの烏丸先輩の行動とは違いすぎていたのでじっと見て確認してしまったが間違いなく烏丸先輩だ。
「あら? 城野くん。私の顔をじっと見てどうしたの? さぁあなたも遠慮せずに飲みなさい」
俺にそう言ってる間も炭酸牛乳を日田先輩に渡している最中だった。
いつもマイペースの日田先輩が、まさに蛇に睨まれた蛙状態になっている。
そのまま無言で見つめられ続ける日田先輩。
日田先輩の目に力がなくなりだんだん死んでいった。
そのまま目を閉じ黙ったまま一気に炭酸牛乳を飲み干す。
「いい飲みっぷりじゃない。ほら、あなたたちも遠慮せずに飲んでいいのよ」
今度は明らかに俺とベガを順番に見ながら言った。烏丸先輩の鋭い目が俺を見た後にベガに行った。その目線につられるようにベガの方を向くとベガもこちらを見ていた。顔を見合わせる形になっていた。ベガは助けを求めるような顔になってた。きっと俺もそんな顔をしてるんだろうな。だって俺も助けを求めてベガの方を向いてるんだし。
「先輩、そんなキャラじゃないですよね?」
「キャラとかじゃないでしょ? これが旅行部なんじゃないの?」
俺の苦し紛れのわけのわからない言葉も間髪入れない一言でねじ伏せられた。何も言わせない圧力。
誰か烏丸先輩の暴走を止めてくれと願う。一番止めてくれそうなのは桃花先輩と美祢な気がするが今は居ない。
誰か止めてくれと願いながらベガの方を見るとちょうど弱々しく炭酸牛乳を飲み始めていた。
「ほらほら、城野くん。ベガちゃんだけに飲ませるつもり? それに小森江君も」
俺は覚悟を決めて一気に炭酸牛乳を飲み干した。小森江先輩もやけくそ気味に飲んでいた。
「次は炭酸コーヒーも出来上がるわよ」
悪夢でしかなかった。
部室の中はまさにゲテモノ炭酸パーティーとなっていた。みんな何も考えずに烏丸先輩の注ぐゲテモノ炭酸をやけくそで飲んでいた。
そんな中一人嬉しそうに炭酸を飲むゆかり先輩が居た。なんだかいろいろおかしく思えてきた。みんなもおかしなテンションでゲテモノ炭酸打ち上げパーティーは続いた。
そして俺は一人願っていた。
桃花先輩、早く戻ってきてくださいよと。
読んでいただいてありがとうございます。
久しぶりに誘惑が多くて執筆時間が取れていなかったのですが書き始めると楽しいのです。
話的にはちょっと暗めのノブがウジウジした感じの話になっているので次の話もすぐに書いてしまいたいなと思ってます。
まぁいろいろ考えるお年頃の子たちなのでってことで。そこも楽しんでいただければと思います。
ではまた次回。。。




