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第62話

 旅行部の店の前に集まったギャラリーはいったん収まった。それと同時に旅行部の噂が広まり始めた。


 今年の旅行部は本気だ!


 噂は1年2組にも伝わってきているようだ。俺と美祢はその噂の当人達。だからクラスメイトから質問攻めとなった。しかし、美祢の答えがどうも俺とずれているらしい。

 俺はゲテモノ飲料店だということを包み隠さず話しているが、美祢の話を聞いたクラスメイトは、メイド喫茶か何かと勘違いしてしまっているように聞こえる。

 ベガが可愛いとか、おねーちゃんが可愛いとか、会長がーとか言いふらかしてる。確かに間違ってはいない。だが、美祢が説明しているのは、ゲテモノ炭酸バーとは全く関係がない部分だけを説明している。現にメイド喫茶か何かと勘違いするクラスメイトが続出中だ。

 噂はこうやって違う風に違う風に広まっていくのだろう。今回の場合は発信源がすでに間違っている。まぁ俺の頭の中でも、さっきの3人の格好が頭の中から離れない。いつもと違う格好というのはこれ程までにインパクトを与え、頭の中に鮮明と残るのかと驚く。

 俺の意識が現実に戻ってくると、小さな疑問……というか違い? が気になった。

 美祢がいつも以上にテンション高くはしゃぎ回る姿が見える。毎日テンションが高く意味不明な行動をとる美祢なのだが今日はそれ以上にテンションだけ高いように見えるのだ。

 今朝からのメールや会話がやたら普通に感じたからいつも以上のテンションに見えるだけなのか、それとも緊張しているのか? 

「城野くん城野くん。ずっと美祢ちゃんのこと見てるけど……」

「えっ? あっ!」

 美祢の事を考えていたら、急に俺の後ろのやつから急に話しかけられて驚いてしまった。何と言ってた? 突然すぎてよくわからなかったし、大きな声が出てしまった。その大きな声でクラスメイトの注目を浴びてしまった。

「もーノブくんもはしゃいじゃって。あやのと一緒すぎるよ。あやのもはしゃぎすぎてどこか行っちゃうし。もう本番なのにね」

 そういいながらもクラスメイトの女子は楽しそうに笑っていた。やはり美祢だけじゃない。みんなテンションが高いのか。

「あっそうだ城野くん美祢ちゃん探してきてよ。今日はホントに美祢ちゃんったらフワフワしっぱなしなんだから。城野くん昨日美祢ちゃんに何したのよ。ほんとに」

「はいはーい!」

 俺は会話の途中で返事をして教室を出た。昨日の話題が出たからだ。別に何があったわけではなかったけど昨日のことを掘り返されたくなかった。

 勢いでとった行動とは言え、昨日の件以降完全に美祢を意識している。それに美祢を連れ出したことは自分で思い出しても恥ずかしい。

 美祢を探す為という口実でさっさと教室を出たのだが正直助かった。クラスメイトに昨日のことをいろいろといじられなくてすむ。そして一人で頭を冷やすこともできる。

 こうして始まったばかりの文化祭を一人でプラプラ……美祢を探し始めたのだった。



 美祢探しを始めたが、俺が一人で頭を冷やすとかそんな思惑をよそにあっさりと美祢を見つけてしまった。あまりにも早すぎる発見だったからしばらく泳がせることにした。

 だいたいこういう展開だと、主役が演劇の時間が近づくのに現れなくて、クラスメイトが焦りいよいよ時間ギリギリで幕を開あけ、出番ギリギリに主役を連れて登場するものではないのか?

 美祢を尾行しているのだが、あいつ普通に文化祭楽しんでる。

 楽しんでいるところ悪いのがそろそろ連れ戻そう。演劇の時間までは十分に時間はあったが、それこそ何かあって時間ギリギリになるよりはいい。何事も余裕を持つことは大事だ。

 こうしてあたかも自然と美祢と合流したと見せかけて美祢を連れて体育館に連れて行った。

 タイミングよくうちのクラスの演劇の準備が始まっていたようだ。俺は美祢に精一杯いつも通りを装って声をかけた。

「美祢、いつも通り頑張れよ」

「うん」

 美祢が一言嬉しそうに言葉を返してきた。俺はその笑顔、言葉にいちいちドキドキしてしまう。今日の美祢はストレートな言葉が返ってくる。いつもだったら変な冗談や、最終的に何が言いたいのかよくわからない状況になる。だが今日の美祢は素直な、普通の言葉。

 そんな美祢を送り出し、自分達のクラスの演劇を見る。


 コメディ演劇のはずなのに俺の心は鼓動が早いまま。

 呼吸を忘れて苦しくなった。


 周りは終始楽しそうな笑い声が聞こえ大成功。そんな中俺はちっとも笑えなかった。

 ずっとドキドキが邪魔をして、演劇の内容も全く頭に入ってきていなかった。


 気が付けばずっと美祢を、必死に目で追いかけていた。


「城野くん大丈夫? ずっとすごい顔してみてたけどそういう演劇じゃないよ? 何かあった?」

「ん? そうだったか?」

 俺の後ろのやつにそう返す。今日は俺が俺じゃないみたいだからいつも通りの俺を必死で演じる。いつも通りいつも通り。そして逃げるように一人になる。


 いつも通りじゃない理由なんてわかってる。けれど俺自身が認めたくないのか何なのかが分からない。


 後ろのやつから逃げるように一人になった。その代償として片づけを放置してきてしまった。片づけを放置してしまった罪悪感が残る。だがそれ以上に今度こそ目的もなく一人でブラブラして考えようと切り替えた。

 今日は学校中みんなが楽しそうに見える。当たり前なのだろうが文化祭だからだろう。

 でも去年の文化祭は俺自身もものすごく楽しかったし刺激的だった。

 よく考えれば文化祭に来たから今の学校に来ようと決意したんだっけ。念願の旅行部を見つけたらまさかの旅行部。

 それでも旅行部は楽しいんだけど……

 そんなことを考えながら歩いていると知っている顔がこちらを睨んでいた。あんなに可愛らしい服を着ているのに台無しだ。そんなことを考えつつも睨んでいる理由がわかっているだけに焦ってしまう。

「ノーブーくん!」

 睨みつける先輩のもとへ行くと、お店の前には地獄絵図が広がる。

 嬉しそうに先輩から受け取った飲料を口に運び、一瞬でその飲料を口から噴き出す。その光景を見て周りで大笑いする人。笑う知人であろう人に無理やり飲ませ、飲まされた人は同じように口から飲料を噴き出す。中には地面に膝をつく人もいる。

 ゲテモノ飲料の犠牲者がこれほどまでに多いとは一体どういうことなんだ。

 桃花先輩がゆっくりと近づいてくる。

「もーどうして誰も来ないんですの? ヒメちゃんはすぐにどこかへ行ってしまいますし、彩耶乃もゆかちゃんもアッキーもカツくんも!! こんなに忙しいのに誰も手伝いに来てくれませんわ!」

 俺は桃花先輩の怒りを受け止める。と同時に心の中で、正直こんなに大盛況なんて考えもしなかったです。なんて口が裂けても言えない。それよりもこの大盛況って絶対桃花先輩と烏丸先輩の衣装のせいですよね? あんなに可愛い服着た先輩2人が接客してたらそりゃ誰だって買いますよね。

「そーろーそーろ。戻ってきてこちらを手伝ってくれない?」

 どうやら俺は桃花先輩の怒りを受け止めすぎていたようだ。今度は烏丸先輩からお声がかかる。

 最近この2人よく一緒にいる。犬猿の仲のような感じだったが少しは仲良くなってくれたのかな?

 それよりも店の前で広がるこの光景を見て誰も怖気づかないのだろうか? まだまだゲテモノ炭酸バーは売れ行き絶好調という具合なので俺も手伝いに入る。

「で、彩耶乃はどこかしら?」

「さぁ? どこでしょうかね?」

「あなたたちって本当に付き合ってるの?」

 先輩二人が接客しながら、俺はジュースを作りながら喋る。

「別に付き合ってるっていうわけじゃ……美祢が作ったカップル設定ってだけですから」

「へー」

 烏丸先輩がお客さんとお金のやり取りをしながらも俺と会話する。実に器用だ。

「学校中でバカップルっていう噂よ」

「知ってますよその噂」

 俺が桃花先輩に牛乳炭酸を渡して次に炭酸コーヒーをカップに注ぎながら答える。

「設定ね。そう」

「何がそう。なんですか。気になるじゃないですか」

「別に。何でもないわ。ね、桃花さん」

 その言葉を聞いた桃花先輩がジュースを落とした。動きが悪いブリキのおもちゃのように動いている。取り乱してる? そして烏丸先輩は嬉しそうに接客に戻る。

「ど、どうして下の名前で呼ぶんですの! 背筋がぞくぞくしましたわ」

「あら? 下の名前で呼ばれたからぞくぞくしただけかしらね」

 そんなことを言いながら桃花先輩のこぼしたジュースのフォローをする烏丸先輩。

「な! もう! 彩耶乃早く手伝いに来てくれないかしらね。ノブくん。さっきの炭酸牛乳お願いしますわ」

 俺は炭酸牛乳をカップに注いで桃花先輩に渡しながら、

「だったら本人に電話してみたらいいんじゃないですか?」

 桃花先輩が炭酸牛乳をお客さんにお渡し、

「グッドアイディア。ナイスですわノブくん」

 そう言ってる向こう側でさっき受け取った炭酸牛乳を噴き出す光景が見えた。やはりこの店おかしい。それにこんなにも怖いもの知らずが集まってくるとは予想外だし大丈夫か?

 そそくさと電話をかける桃花先輩。電話をかける桃花先輩を見て何やら嬉しそうな笑みを浮かべる烏丸先輩。

 この二人一緒に居すぎておかしくなっちゃったのか? 見えない絆みたいなものが生まれたのか。

 「もしもし? 彩耶乃今大丈夫かしら?」「何やってるんですの?」「そちらはまだ終わりそうにないかしら?」「こちらはみんな集まらなくて全然旅行部っぽくないですわ」「早く来てほしいですわ」

 マシンガンのように美祢に喋りかける桃花先輩。

 「ノブくんがどうしたんですの?」「片づけてる?」「ノブくんに変わってほしくって? よろしくてよ」

 桃花先輩の会話で思い出してしまった。片づけを忘れていたことを思い出したのだ。

 そして桃花先輩に差し出される携帯電話。俺が話し始める前にすでに美祢が電話の向こうで何やら聞こえる。どうやらすでに喋っているようだ。

「もー城野くんが居なくなってから片付け大変なんだよ」

「すまん。すっかり忘れてて……」

「みんな結構どこか行っちゃって居なくなってるし」

 俺以外にも片づけを放棄したやつがいるのか。

「そ、そうか。じゃあ戻ろうか?」

「大丈夫。もうすぐ終わりそうだから。終わったらそっちに行くっておねーちゃんに言ってて! じゃあまた後で」

 一方的に通話を切られた。怒ってはなさそうだったし一体何だったんだろう。これはやはり戻って片づけを手伝った方がいいのか、それとも本当にもうすぐ片づけ終わるのか。

 でもそれ以上に、俺今美祢と普通に会話してた。

 今日普通を演じた俺じゃなくていつも通りの会話。

「ノブくん何ニヤニヤしてるのかしら? 気持ち悪いですわ。それと炭酸抹茶カフェラテをお願いしますわ」

「あら? 桃花さんはどうして怒ってるのかしらね? 怖い怖い」

 そう言ってる烏丸先輩が怖いです。それよりも誰か早く来て。この二人と一緒にいるのは大変すぎる。

 美祢、早く来てくれ。

あけましておめでとうございます。

今年初の更新となりました。

ずいぶんと間があいてしまいましたが読んでくださってありがとうございます。

マイペースで投稿させていただこうと思いますのでよろしくお願いします。

ではまた次回。。。

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