第61話
美祢と部室で二人きりの時間。だが別段空気が重いとかそういうことはないのだが無言で見つめあったままだ。
相手が美祢だから特に気にすることはないはずなのだが、今はすごく気にしてしまう。いつも美祢と二人になることなんていくらでもあったのに今は心臓がバクバクいってるのが分かるくらいだ。
落ち着こう落ち着こうと思ってもそんなに簡単に自由自在に落ち着けるわけもなく、いつも通りを演じることで精いっぱいな状況だ。
とにかく何か喋ろうといろいろと頭で話題を考えてみた。今までこんなこと考えずになんとなく会話できてたはずなのに。ホントに昨日まで普通に会話できてたのに……とか考えていたら美祢が先に喋り始めてくれた。正直助かった。
「みんながね、いけいけってうるさいから。ホントに困っちゃうよね」
「まぁ昨日の今日だしな。それにみんな文化祭でテンション高いから」
「そうだよね」
淡白なやりとりで会話はあっけなく終了した。美祢自身もいつもと違うテンション? 喋り方? に感じる。
美祢までいつもと違うと調子狂ってしまう。もしかしたら美祢も俺がいつもと違うから調子狂ってるのかもしれないが、昨日のことが原因で変な感じになっているかもしれないからまずは謝っておこうと考えた。これだったら話題のチョイス的にも変じゃないだろう。変じゃないよね?
「昨日は勢いであんなこと……すまんな」
「べ、別に。私こそ……ありがと」
「そ、それだよそれ! なんだよあのメール」
「どれ? メールはホントのこと書いただけなんだけど」
「あぁ……まぁそうだよな。なんかすまん」
受け答えは普通の気がするのだが普通過ぎていつもの美祢っぽくない。そう普通過ぎていつもの美祢との会話じゃないんだ。もっとこうぶっ飛んでいるというか。
結局この会話もすぐに途切れてしまい無言の部室へ戻ってしまった。外の騒がしい音だけが聞こえる。
美祢といるときにこんなこと感じたことがなかったと思うほどこの時間がすごく長く感じられた。いつもの美祢は楽しかったり変な事をして笑わせてくれたりであっという間に時間が過ぎ去ってたからだ。
そんなことを考えていたら部室のドアが勢いよく音を鳴らして開いた。いろいろ考え事をしていたから思わず身体が跳ねるようにして驚いてしまった。
そんな俺を見て美祢は笑っていた。
そして勢いよく登場したのはベガだった。
「お、おはよー?」
どうして挨拶が疑問形なのかよくわからないがベガも何か変だ。今日はみんなどうしてしまったのか? やはり文化祭という魔法がみんなにかかっていて変なテンションになってしまっているのだろうか?
だが俺がベガに対して感じたぎこちなさを一気に吹き飛ばす勢いで美祢がベガにとびかかっていった。
「茶山さーーーーーーん」
そう。叫びながらとびかかっていった。いつもの美祢である。
美祢に飛びつかれて思わず倒れこんだベガ。
「おいおい。大丈夫か?」
「これを見て大丈夫と思うのなら城野の頭が心配だわ。あっ」
いつものベガだなと思っていたら、突然ベガが変な声を漏らした。
「ちょっと! どさくさに紛れて何掴んでるのよ! アンタは!」
何事かと思ったがすぐに俺にも状況が理解できた。今俺の目の前には無言でベガの胸をわしづかみにする美祢が映し出されていた。
「すごいおっきい」
「ねぇ城野くん! 茶山さんのおっぱいすっごい大きいよ。思ったより大きい!」
美祢が大興奮で叫ぶように喋っている。
「思ったよりって何を思ってるんだよ」
俺自身も意味不明と思っていたがなぜか美祢はもじもじと照れ始めてしまった。
「なんで照れてるんだよ!」
俺が軽快に突っ込んだところで携帯電話が震えていることに気が付いた。連絡してきている人物は簡単に想像がついた。
画面を確認するとやはり『桃花先輩』の文字。
ベガと合流したことを伝えようと電話に出ると、
「いつまで待たせるおつもりですの? もう烏丸先輩と二人きりはつらいですわ。早く来てくださらないかしら?」
「どうして私と二人だとつらいのよ」
電話口で二人が言い争っているように聞こえたが俺は無言で電話を切った。そして俺は気が付いた。桃花先輩と通話を終了した携帯電話の画面を見るとすでに3度も不在着信があったことを。
とりあえず桃花先輩のところへ向かうべく行動に移す。
「桃花先輩が早く来ないと烏丸先輩と二人きりじゃ辛いってよ。それに二人何か言い争ってたぞ。いつも通りかもしれないけど早くいこーぜ」
「昨日も大変だったんだから」
ベガの暗くて低い独り言のようなものが聞こえた。
そうだった。昨日はベガもあの二人と一緒に居たのだった。俺があの二人と一緒にいることを想像しただけで変な汗が出てきた。やはりベガも辛い目にあったのだろう。とりあえずこの事には触れないようにしておこう。
部室の方に近づいて行くと遠目から見ても怪しい二人組が居るのがすぐに分かった。そしてその二人組のうちの一人が俺に向かって叫びながら大きく手を振っていた。間違いなく桃花先輩だ。
「ようやく来ましたわね!!」
ものすごく高いテンションで声をかけてきたのだがそれどころではなかった。
桃花先輩の格好が真っ赤なカラータイツにサロペット。そしてオレンジのパーカーというカジュアルなファッションだが真っ赤なタイツの足がスラリと伸びていて特に目立っている。
こんな格好アリなのだろうかと思ったのだが桃花先輩の隣でもじもじとしているのはもしかしなくても烏丸先輩だ。
こちらは水色のタイツに不思議の国のアリスさながらのチェックのフワフワのドレス。袖はタイツと同じ水色になっている。髪も金髪のツインテールになっているのでウィッグだよな?
いろいろと気になるところがたくさんあるのだが一番大きな疑問は桃花先輩は烏丸先輩をどう納得させてこうなっているのかが非常に気になるところだ。
「うわー可愛い!ナニコレナニコレナニコレ!おねーちゃん達だけずるい!」
先輩二人を見て美祢が大興奮ではしゃぎだした。どんな風にはしゃいでいるかというともう飛び跳ねまわっている。
「彩耶乃は昨日居なかったから衣装は無しですわ。昨日頑張った3人だけのご褒美ですわ」
「えーなにそれ! ずるいずるい!」
烏丸先輩の顔色を見る限りご褒美とは思え……そうでもないのか? 意外と烏丸先輩嬉しそう? に見えるのは気のせいだろうか。
3人ということは最後の一人ベガの顔色を窺おうと思ったらすでに着替えに向かっているようで後ろ姿しか拝めなかった。ベガまでもが素直に従っているということなのだが一体昨日本当に何があったのだろう。
「ではひめちゃんも着替えてきてくださってよ」
「私は? 私は?」
「彩耶乃は昨日来てないからお洋服準備してないんですわよ」
「そういいながらもおねーちゃんなら準備してるんでしょ?」
「しょうがないですわね」
桃花先輩が美祢におねだりされてどこかに電話をしている。ということは本当に準備してなかったのだろうが、今から準備するのか?
桃花先輩がどこかへ電話している間、美祢の目がキラキラと期待に満ちて輝いていた。
俺たち旅行部の周りにはたくさんのギャラリーができていた。そりゃこれだけ派手な格好をした可愛い女の子が居れば男子と言わず女子も集まって来るだろう。
烏丸先輩がこういう格好をしているというギャップもあるのかもしれない。だって元生徒会長だし。
桃花先輩は準備と言いながら俺を呼び出しはしたものの、ゲテモノ炭酸バーには特に準備することもなく昨日の話を桃花先輩、烏丸先輩双方から聞かされるのがメインになっていた。俺は一体ここに何しに来たのだろう?
そんなやり取りをしていたら俺たちの周りのギャラリーがざわつきだした。
騒がしくなり始めた方に目をやるととんでもない格好をした人物がこちらへ向かって歩いてきていた。
間違いなくベガなのだがこれまたすごい格好をしている。
短めの着物でその下には赤いフワフワのミニスカートを内側に着ている。巫女さんのような服を短くしている感じだが色は赤と黒。そしてなんと肩を出しているので非常に目のやり場に困ってしまう。
さっき美祢が部室で言ってことが頭をよぎり胸元にも目が行ってしまう。だって胸元も少し見えている。もう困った困った。自分でもわかるくらい目が泳いでいるだろう。
服が和だというのに靴はロックなブーツというところも目を引くポイントだ。
そしてベガも髪型をツインテールにしているのだが髪先に鈴をつけているし、色は黒髪なので烏丸先輩とはまた感じが全然違う。
「ずるいずるいずるい! 私も早く着替えたい!!」
ベガを見た美祢が再び騒ぎ始めた。
桃花先輩、烏丸先輩、そしてベガと3人そろってここは一体何をする店だったのだろうと俺は考えこんでしまった。
読んでいただいてありがとうございます。
今回初めての表現をしてみました。今まであまり格好の表現をしていなかったのでなかなか言葉で表すのは難しかったですがどんどん書いていこうと思います。
さてさて次は文化祭いよいよ本格スタートの予定です。
ではまた次回。。。




