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第59話

 いよいよ文化祭本番を明日に控えた学校はいつもと違う雰囲気になっていた。学校全体がソワソワワクワクしたように感じる。

 雰囲気だけじゃなくて、教室の後ろや廊下に催し物の道具と思われる物がいくつも置かれているし、このごちゃごちゃした感じもお祭りっていう感じをかもしだしている。それが放課後、つまりこのあと授業がなければなおさらそのワクワクやソワソワは大きくなってくるのは自然なことだろう。

 旅行部は昨日も準備という名の炭酸パーティを部室で行い、ゆかり先輩以外がまた酷いことになってしまったのだ。特にひどかったのは前回の炭酸パーティの時に俺の部屋で寝ていた日田先輩。炭酸パーティ初体験は日田先輩のトラウマになってしまったようだ。さらに日田先輩は飲み物のインパクトが強すぎたのかもしれないが、基本的に旅行部の出し物のコンセプトをあまり理解してなかったこともトラウマを植え付ける原因になってしまったのだろう。

 さて昨日のことは置いといて現在進行形で1年2組の教室も他のクラス同様ごちゃついている。そしてクラスの出し物の追い込み作業として授業と授業の間の休み時間にもやったあと、この放課後が本当に最後の作業と言う状況なのだがその追い込み作業の中心で騒いでいるのはやっぱり美祢だ。

 昨日はクラスの出し物のリハーサルをやって散々騒いだ後に旅行部の炭酸パーティでもはしゃぎ回っていたのだが、今日も元気いっぱいはしゃぎ回っている。いったいあいつの体はどれだけエネルギーを作り出しているのだと純粋に気になってしまう。

 ちなみに1年2組の出し物なのだが、1年生は毎年恒例演劇をやることが伝統らしくそれにならって演劇をすることに。そしてその主役が美祢なのだ。

 出し物を決めるときに美祢が主役をやると自ら立候補し、そこからクラス全員がじゃあコメディチックな演目にしようということで順調に決まっていったわけだ。

 最初は美祢の相手役は俺しかいないだろうという意見で押し通されそうになって本当に焦った。美祢が主役をやる時点で絶対に言われるだろうとは思ったが本気で断らせてもらった。あまり人前に出ることとか得意ではない。むしろ避けたいくらいだ。

 俺が本気で嫌がっているのをクラスメイトも察してくれたのか演劇に出ること自体を回避できた。その代わりといっては変だが俺もしっかりと裏方の仕事はやった。

 そういえば朝、騒ぎまくっている美祢を見て俺の中の何かが引っかかっていた。それは説明はできないが何か変というか違和感というか……何か感じていたのだ。

 だが本当に何かが気になる程度なのでこの文化祭のソワソワした雰囲気で美祢もいつもとは違うテンションになっているんだろうと思うことにした。実際俺自身が文化祭を前日にして何をするわけでもないのにドキドキしたりワクワクが止まらなかったりするからだ。

 そんなはしゃいでる美祢を見てる場合ではないのだ。俺もセットのバランスや補強をみんなとチェックしていた真っ最中だった。そんな俺もみんなとはしゃぎながらチェックしているし、美祢も衣装のチェックをやっている。クラス全体がもうすでにお祭りモードなのだ。

「美祢ちゃーん! 最終チェックだからちゃんとやってよ! もう!」

「ごめんごめーん!」

 どうやら美祢がふざけているので衣装のチェックが上手にできないようだ。なぜか今日の美祢が気になるので美祢を呼ぶ声、美祢の喋り声がするたびに美祢を視界にいれてしまっている。

 俺の目に映っている美祢はやっぱりふざけてはしゃいでクラスメイトとじゃれあっているだけだ。どうして美祢が気になるのかは自分でもわからない。ちなみに今はその違和感はわからない。午前中に気になった気がしてから気にかけているのだが今は特に気にならない。自分でも何を思っているのかよくわからないのが正直なところだ。普通に気にしすぎなのはわかっている。

「城野くん城野くん。そんなに美祢ちゃん見てるけどどうしたの?」

 いきなり声をかけられて驚いてしまった。ちょっと美祢に夢中になりすぎていたようだ。

 気配を消したまま声をかけてきたのは俺の後ろの席のやつだ。

「急にびっくりするだろ」

 美祢が気になってたとかそんなこと全部吹っ飛んで、ただただびっくりしただけの返事を条件反射的に返していた。

 俺の後ろの席のやつは何故かポカーンとしたまま固まっている。そしてそんな俺と俺の後ろの席のやつ二人固まった状況を見てクラスメイトが大笑いしている。俺もわけもわからずとりあえず笑っておく。

「何か気になるんだよなー」

 一応俺の後ろの席のやつに向けて言ったつもりだったのだが、俺の気持ちは独り言だったので届かなかったらしくリアクションも何も返ってこなかった。

 そのあともしばらく美祢のことを観察していたのだがいつものようにふざけてお茶らけている美祢が教室の外に出ていくのが見えた。朝の違和感みたいなのはやはり気のせいかな? 真面目に考えているのがばからしくなるくらいいつもの美祢に見え始めていた。

 俺のクラスでの出し物の役割はおおよそ片付いて明日の本番を待つだけ状態になっていたので一応旅行部の準備に向かう。足取りはものすごく重いけれど。

 教室ではまだ演劇のリハーサルをやっていたがそこは出演者に頑張ってもらう。さっき美祢が外に出て行ったのが見えたのでなかなかリハーサルが進まないようだがじきに帰ってくるだろう。美祢に落ち着きがないことなんて今に始まったことじゃないのはクラスのみんなもわかってるだろう。まぁそれで困っているんだろうけど。

 旅行部に行く足取りが重いのはさっきからずっと俺の携帯電話が震えているので仕方なく旅行部へ向かわないといけないのだ。

 今もまた俺の携帯電話が震えだしたので画面を見てみると桃花先輩の文字が。そのまま切れるまで待ち、さっきから震えまくっている原因を確認するとすべて桃花先輩のメールと不在着信の嵐だった。

 折り返しの電話もせず、メールの確認もせず携帯電話をポケットにしまいため息交じりで教室を出た。そのまま旅行部へ向かうべく顔を上げた瞬間に一人でえらくおとなしくしている美祢が見えた。

 この瞬間俺の中の朝の違和感が一気によみがえってきた。今は気のせいではない自信がある。相変わらず説明はつかないけど確信に近いものはある。

「おい美祢!」

 声をかけると同時に美祢の方へ駆け寄っていた。

 心の中の半分はいつも通りの面倒くさい反応が返ってくることを思っていたのだが今の美祢は全くと言っていいほど反応がなかった。

「えへへ、ちょっと疲れちゃったかな」

 そう弱々しい声で呟いてもたれかかってくる美祢。いつものべたべたする感じではない。本当に体重をこちらに預けているし体も熱く感じるから熱もあるのか?

「やっぱりどこか体調悪いのか?」

 確認のために聞いた。だいたいこういうときは否定されると思っていたが美祢は素直に頷いた。こんなに弱ってる美祢を始めて見たので俺の心はかなり動揺しているのかさっきから心臓のバクバクが止まらない。ついでに携帯電話の震えも止まらない。

「朝からだよな?」

「気が付いてたんだ。なんだかうれしいな」

 こういう時までどうしてそんなことを言うのか。いつもと一緒のようなことを言ってるのに全然違うように聞こえてくるから調子が狂ってしまう。

「みんなに心配かけたくなかったし、あとちょっとだから」

 美祢がそう言い終わる前に俺は強引に美祢の手を引いて教室に向かった。頭で考えて行動したわけでなくこの時は勝手に体が動いてたという方が正解かもしれない。

 勢いよく教室の扉を開けると教室は静まり返ってしまった。

 クラスメイトは俺が美祢を連れ戻してきてくれたと思い拍手喝采。しかし俺はそういう意味で美祢を連れてきたわけではない。

「ちょっと美祢を借りるな。すまんがこのまま帰るから美祢抜きでリハーサルなんとかやっといてくれ」

 そういいながら美祢の帰り支度をするが美祢自身も戸惑ってどうしていいかわからないという顔をしてる。さらに教室に残ってるクラスメイトも戸惑っている。俺が美祢を連れ戻してきたと思ってたからだろうから俺がまさか今から連れて帰るなんて言うと思ってもなかったからだろう。

「いやいや城野、美祢抜きでリハやるなんて無茶でしょ? 美祢主役よ?」

「そこを何とか頼む。美祢の部分は大丈夫だから」

 俺は何の根拠もないが今の状況を解決するにはクラスメイトにはそう言うしかなかった。 

 そして美祢には小声で、

「明日出れなかったらもっとみんなに迷惑かけるだろ? それともここで今お前が体調すごく悪いって言っていいのか? それこそみんな心配するだろ? みんなに心配かけたくないんだろ?」

「だってそれだと城野くんが悪者みたいに……」

「なんでそんなこと今気にするんだよ。いつもみたいな感じでべったりしてればいいだろ?」

 そういうと美祢は何も言わなかったけど握ったままの手を強く握り返してきた。

「みんなごめんね! 私城野君にお持ち帰りされまーす!」

 美祢がそう言ってから二人で教室を出た。そこまで言う必要はないだろうと思ったが今日はさすがに怒る気にはならなかったし別にいつもみたいに面倒だなとも思わなかった。

読んでいただいてありがとうございます。

えぇ文化祭始まらなくてすみません。

文化祭本番を書くつもりだったんですよ。ですがちょっとこういうベタなシチュエーションを思いついて書いちゃいました。

実は本来のプロットから脱線しまくってたのですが思いのほかこの話で展開できそうな風に書けたので自分でもワクワクしてます

ではまた次回。。。

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