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第58話

「最近彩耶乃と城野がちょっと仲良すぎじゃない? あの二人やらたベタベタしてるようだし……どうにかならないの? ホント見てるこっちが恥ずかしいんだから」

「何々? 姫ちゃんヤキモチ?」


 ちょうど部室の前に到着したときに中から盛り上がった感じで漏れてきた会話。

 よく隣のテニス部から怒られているだけあるな。そう、隣によく怒られているということは外に声が漏れているということだけれど思ったよりも聞こえる。これでは怒られるのも仕方がないといったところか。

 さて、ずいぶんと部室に入りにくい会話を聞いてしまって俺の足はピタリと止まったまま動けなくなってしまった。別に盗み聞ぎをするつもりなんてないのだが聞こえてしまうと気になってしまう。

 それに聞こえなかったフリをして入ってもボロがでそうな気がしてならないし、桃花先輩の鋭さには勝てる気がしない。かといってベガが鈍感というわけではないのだけれど。

 そんなことを考えていたら会話が途切れているようだ。タイミング的にはこのタイミングで知らんぷりして入ることはできそうだ。ただそのあと知らんぷりを貫く自信は全くない。『今の会話聞こえてた?』なんて聞かれて、一瞬でも取り乱したりすると猛口撃を受けてしまうだろう。

 部室の前でそんなことを悩んでいる俺は完全に不審者になっていたのだが、そんな自分の状況には気が付かずに近づいてくる知った顔に俺は気が付いた。

 俺が気が付いて顔を上げると知った顔は駆け足に変わって近づいてくる。その近づいてくる知った顔、ゆかり先輩がどういう行動をとるかということを考えて2パターンのことが頭に浮かんだ。

 1つは恥ずかしながら近づいてくる。そして小さな声でちょっと会話をする。このパターンだとその流れで一緒に部室に入ってしまえば大丈夫だ。

 だがもう一つ浮かんだ行動パターンは近づいてきながら大きな声で声をかけてくる。こっちだときっと部室の中のメンバーにもゆかり先輩の声が聞こえてしまうだろう。そして中のメンバーが扉を開けた瞬間に俺が居たら会話の件を聞かれるかもしれない。そして追及されると会話を盗み聞ぎしてたようになるかもしれない。

 故意に盗み聞ぎしたわけではい。たまたまそういう会話が聞こえてしまったのだが、桃花先輩は事を面倒くさい方に持っていくだろう。そしてきっと面白がるんだろう。だからもう聞いてないことにするしかないのだ。俺は追い詰められているのだ。

 さらにゆかり先輩は俺が考えたパターン以外の行動をとることも十分に考えられる。旅行部唯一の常識人と思っているのだがたまに突拍子もないことを繰り出してくるからだ。

 ここは先手を打っておこう。考えた瞬間に俺はゆかり先輩の方へ駆け出した。

「どうしたの? ノブくん。部室入らないの?」

 ゆかり先輩には俺が部室に入ろうとしているように見えていたのだろう。当たり前だ。部室の前に立っていたのだから。その俺が部室とは反対のゆかり先輩に向かってきたので理解しにくい行動に見えたのだろう。そんなことをごまかすわけじゃないけれど先に俺が質問する形をとる。

「今日、美祢は一緒じゃないんですか?」

 ゆかり先輩は少し首をかしげた後に答える。

「美祢ちゃん生徒会終わって慌てて出て行ったから来てると思ってたけど来てないの?」

「えぇ来てないみたいですけど……」

 ゆかり先輩は首を傾げたまま不思議そうにしている。俺も美祢はどこ行ったのだろうという疑問が浮かんだのだがまたどこかでウロウロしてるのだろう。基本的にじっとしてられない奴だしな。美祢の事を気にしだしたらきりがない。

「入らないの?」

 ゆかり先輩に声をかけられて再び部室前にやってくる。俺はまたさっきに桃花先輩とベガの会話が頭に浮かんだのだがゆかり先輩はそんなことは全くわかるわけもなく当たり前のように部室のドアを開け入っていく。

 部室のドアが開かれると桃花先輩とベガが慌てているように見えた。やっぱり聞かれたく内容の話をまだやってたのかな? と想像してしまう。

 そんな慌てた感じのベガが早口で、

「今日はゆかり先輩ですか。そーですか。いろんな女の子を隣に連れて歩きますね」

 言葉だけだと嫌味に聞こえるけれど、聞こえる感じとしては拗ねているような感じに聞こえた。いや実際拗ねているのかもしれない。だってずっと桃花先輩がベガの事をニヤニヤと嬉しそうに眺めているからだ。

 だが桃花先輩の弄る矛先がすぐにベガから俺に変わった。

「本当にノブくんは隅に置けませんわね」

 俺への言葉だったのだが俺以上に大きく反応してしまったのがゆかり先輩だった。

 あの怯えているようなおろおろあわあわなゆかり先輩は健在だ。生徒会長になったといっても人は急にそんなに変われるものではない。

 俺は俺でちゃんとぼけておかないといけない。

「どういうことですか?」

 こう言って桃花先輩が言ってることがあんまりわかってないことにしておいてもそんなに効果はないだろうけどせめてもの抵抗だ。

「彩耶乃という存在が居ながらいろんな女の子とイチャイチャしてますわ!」

「いちゃいちゃ!?」

 桃花先輩の俺への口撃はゆかり先輩が一人で舞い上がり今も顔を真っ赤にして顔を手で覆って右に左に大きく体を振っているという状況でかき消されてしまっている。

 これはチャンスとばかりに俺は話題を変えてしまう。

「それよりも文化祭の準備って大丈夫なんですか? 日が近いのに最近準備も何もしてない気がするんですけどもしかして先輩飽きちゃいました?」

「そ、そんなことないですわ! もう準備はばっちりですので余裕ですわ余裕おほほほほ」

 そうやって無理に笑う桃花先輩は紅茶を口に入れすぎたのかむせてしまった。

 その光景をさっきの仕返しと言わんばかりに冷たい目線で何やってんだかという感じで見下ろすベガと大丈夫? と心配してテーブルを拭くゆかり先輩が対照的だ。

「そういえば彩耶乃は今日来ないの?」

「どうして俺に聞くんだ?」

 俺がそう答えると3人そろってのため息が聞こえた。みんなそろいもそろってわけわかんないな。どうやら俺の発言がそのため息の原因らしいけど知らないものは知らないし、なぜ俺に聞くのかも意味が分からない。

「どうして……ノブくんは彩耶乃のことは本当に無関心ですわね。仮にもカップルなんですわよ」

「いや……仮というか、仮でもなんでもないですよ。設定なんですから」

 呆れて思わず言葉が出てこなかったが何とか思考を停止した脳を動かして言葉を見つけ出した。否定するところはしっかりと否定しないとな。

「最近そういう割には仲がいいじゃない」

 俺の思考停止された脳を動かして振り絞って出した言葉を一瞬で打ち砕いたベガの言葉。そりゃ、最近ちょっと仲がいいような感じはするけど……。

「そういえばノブくんどうして今日美祢ちゃん来ていないってわかったの?」

「へ?」

 ゆかり先輩の言葉に思わず変な声が出てしまった。この声は脳が不意打ちをくらって反射的に出た言葉だ。一生懸命働かせてもゆかり先輩が何を言ってるのかよくわからなかった。

「いや、部室のところで美祢ちゃん来てないって言ってたから……」

「そ、そんなこと言いましたっけ?」

 背中に大きな汗が流れたのが分かった。とにかく冷静を装うのに必死な状態なので言葉が出ない。

「ねぇ、ノブくん部室入ってきてないのにどうして彩耶乃が来てないことがわかるのかな?」

「城野、彩耶乃が部室にいないってわかってたの? それとも分かったの?」

 二人の言葉が攻撃的に聞こえてしまうのは盗み聞ぎのことが気になるからだろうか。俺は精一杯の抵抗を見せようと頑張った。

「な、なんで。俺がそんなこと分かるわけないじゃん」

 我ながら苦しい。だが俺が勝手に気にしてるだけと思いたい。

「ゆかちゃんはノブくんが彩耶乃は部室に居ないこと分かってたことを言ってましたわ」

 やはり俺は二人に口撃されているということを確認した。俺を見てゆかり先輩があわあわと取り乱している。椅子から立ち上がったり俺の方を見て桃花先輩を見てベガを見てそしてまたおろおろしてと繰り返しているのだ。

「なんだかんだでノブくんはやっぱり彩耶乃のこと分かってるんですわ。だって来ないってちゃんと聞いてるんですから。今日はどこかに行くっていうのを知ってるのですわ。きっとそうですわ」

 この桃花先輩の言葉を聞いてもしかして盗み聞ぎの事とかじゃなくてただ単にいじられてるだけ? よく考えなくても俺が外で盗み聞ぎしてたことなんてわかるわけないよな? 普通に俺が放課後美祢が帰るって聞いてたら美祢が来ないことは部室の中をのぞかなくてもわかることだし……考えすぎてたのかな?

 そう考えるとちょっと楽になった。そうだよ。桃花先輩もベガも鋭いけどエスパーじゃないんだから何でも感でもわかるはずなんてありえないし、逆にわかってたら俺はすでに盗み聞ぎした内容のことを問い詰められてると思う。

「もしかして姫ちゃんがヤキモチ妬いてたこととか聞いてました?」

「ちょっと! 何突然言っちゃってるのよ!」

 桃花先輩の言葉にベガが顔を真っ赤にして反論している。何度見てもベガが桃花先輩におちょくられるのを見るといつも新鮮に見えてベガが初々しく見える。

「まぁ別にベタベタするのは今に始まったことじゃないと思うけどね」

 確かに最近はやたらとベタベタされてるけど今に始まったことじゃないしな。そんなにムキにならなくても、とは思ってしまう。

 そんなことを考えていると俺の目の前の状況がおかしいことに気が付いた。

 俺の発言を聞いた二人が動きを止めて、そして顔だけをこちらに向けて俺をじっと見る。

 一体二人ともどうしたんだろう? それと同時に俺の心臓がバクバクと大きく脈を打ち始めるのに気が付いた。

「ねぇ、私城野の前でベタベタしてるっていうようなこと言ったっけ? 言ってないと思うんだけど……」

 ベガが抑揚のない声で淡々と話す。それはそれは俺には冷たく聞こえた。

「ねぇ、ノブくん? どういうことかな?」

 それに桃花先輩も続いてくる。桃花先輩は満面の笑みだ。俺にはその笑顔が恐怖の笑顔にしか見えない。本当はとっても素敵な笑顔なはずなのに。

 俺はどこで墓穴を掘った? 掘ってるからこうなってるのか? それとも誘導尋問か何かに引っかかったのか?

 それから俺は二人の口撃に圧倒された。そしてその間ずっと取り乱してあわあわと右に左に動くゆかり先輩を眺めてずっと現実逃避してたのは内緒だ。



 


読んでいただいてありがとうございます。

またまたしばらく間が空いてしまいました。

まぁのんびりマイペースで書かかせていただいてますのでのんびりとお付き合いいただければと思います。

まだ文化祭始まらないのかよという声が聞こえてきそうです。次のお話では文化祭のこと書くつもりです。つもり。。。

ではまた次回。。。

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