表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/73

第54話

「ねぇねぇ、文化祭って何するの何するのー?」


 今日の部活は美祢の待ちきれない間抜けな言葉で始まった。

 予め桃花先輩から今日は文化祭について話しますとのことだった。だがフライングした美祢の言葉で桃花先輩の調子はすでに狂っているようだ。

 ちなみに今日はゆかり先輩と小森江先輩がまさしく文化祭の準備で欠席だ。あの二人は運営側の準備らしいのだが美祢はいいのか? そして烏丸先輩もいいのか?

 なぜ烏丸先輩が出るのかというと3年生は先日の生徒会長選挙をもって生徒会を引退すると思っていたのだが、文化祭までは旧生徒会がお手伝いという形で残るらしいのだ。これは烏丸先輩から聞いた話だから間違いないと思うのだが、最近烏丸先輩も冗談を言ったりすることが多くてやや怪しんでいる。

「では文化祭計画を始めますわ! と言いましてもすでにわたくしの方で動き始めているので最初はある程度の説明になってしまいますわ」

「どうして旅行部はあなたの勝手で物事が進んでいるの? 旅行部はあなたのものではないですよ?」

 桃花先輩の言葉にすぐさま烏丸先輩が食って掛かる。今日もさっそく話が進まなくなった。まだ開始1分くらいだと思う。

 このやり取りもすでに旅行部の通常風景となりつつあるのだが。もう本当にこの二人は仲が悪いというか相性が悪いというか考え方が違うというかとにかく合わない。もう本当に水と油みたいだ。

「もう! 二人とも違うよ! 文化祭を楽しむんだからここでケンカしてる場合じゃないよ! 私たちも楽しまないといけないんだよ! 私たちが楽しくなかったらお客さんも楽しくないよ! 私も楽しくないよ!」

 最近この二人のやり取りを止める役目になりつつあるのが美祢だ。仲良く仲良くとしか言わないが美祢しか言えない。新入部員だけど最上級生となってしまってる烏丸先輩にはみんなあまり意見しにくいなというのがあるのだが美祢だけは全く躊躇しないし遠慮も一切ない。まぁ美祢の遠慮も躊躇もないのは桃花先輩も含めて全員に対してなんだけど。

 でもそれ以上に今までにない部分も美祢に出始めている。生徒会に入ってからやけに張り切ってるというかしっかりしてるようにも見えなくはない。立場が人をなんとやらじゃないけれどゆかり先輩と小森江先輩が居ない状況で美祢が烏丸先輩と桃花先輩にしっかりとブレーキをかけている。

 俺も驚いているが隣にいるベガも信じられないというような表情を毎回浮かべているので同じようなことを考えているのかな。

「ねぇ、城野、私が今見てる美祢って美祢よね?」

「あぁ美祢だな。間違いなく美祢だ」

 変な会話だと思うだろうが俺たちがそれだけ驚いているし戸惑っているという証拠だ。

「じゃあ改めて始めますわよ」

 桃花先輩がいろいろと横槍が入ってしまったので仕切りなおした。

 すると桃花先輩が話し始める前に美祢がお茶をみんなに出し始めた。

 その温かいお茶を当たり前のように飲む烏丸先輩。最初はどうしてこんなのものがここにあるんですか! とやりやっていたのがもうずいぶん昔のように感じられるのだが、実際にはそんなに日時はたっていない。

 烏丸先輩も適応能力が高いのかそれとも諦めてしまったのか俺にはわからないけど、どちらにしろ染まってるよな旅行部に。

 桃花先輩は旅行部では飲食店を出すこと、美味しいメニューと美味しくないメニューを出したいこと、さらに屋台などの設備が必要な場合はすべて用意できるということを話してくれた。

 そして今日はその美味しいメニューと美味しくないメニューについて考えたいとのことだった。

「美味しくないメニューってどういうことですか?」

 今までの食って掛かる口撃ではなくて真顔で質問している。ちゃんと話し合いとしての質問だ。トーンが明らかに違うので意地悪な質問ではないようだ。

 こんな変な内容のこともきちんと考えるってやっぱり烏丸先輩居る場所を間違えてないですかね? これっておふざけメニューを考えるってことなんじゃないですかね?

「美味しくない……そうですわね。ただ純粋に美味しくないということではなくて……そう! 罰ゲームで食べるような食事をイメージしたかったのですわ」

 烏丸先輩からの質問を一度自分なりに考えて真剣に答える。

 その桃花先輩の返答を受けてさらに真剣に考える烏丸先輩。

「罰ゲームの食事……ロシアンたこ焼きみたいなものかしら?」

 今この二人はものすごい真剣な顔をして意見交換をしてるけど、現実は文化祭の美味しくないメニューを考えてるんだ。

 なんだこの風景。そう思うのも無理はないだろう。だってあの前生徒会長がこんな意味不明な議題を真剣に考えてるなんておかしな状況だ。生徒会長って真面目なんじゃないのか? 廃部の時はすごく難しそうなことをいろいろと言ってた気がするんだけど違うのか?

「美味しくない方のメニューで良いアイディアが出ないのなら美味しいメニューをどうするか考えよう!」

「とりあえず美味しい方は食べたいものでも言っていく?」

 あれ? 俺来る部室間違えてないよな? どうしてこんなにまじめに話し合いができてるんだ? 今まで

話し合いどころかまとまりすらほとんどなかったというのに。本を読んでたり寝てたり……俺は入り口隅の方にちらっと目を向けると気持ちよさそうに眠っている日田先輩を確認してなぜかホッとしてしまった。それと同時に間違いなくこの空間は旅行部だということも確認した。


「あー分かった! 炭酸コーヒー!!」

 

 俺がここは旅行部なのかという不安に襲われていると突然美祢が大きな声で叫んだので体ごとビクッと反応してしまった。

 急に大きな声を出すとビックリする。ほらみんなビックリしてるじゃないか。

 そして落ち着きを取り戻すと同時に炭酸コーヒーの悪夢を思い出してしまった。烏丸先輩以外は同じことを思い出したのか皆顔がゲッソリしてるように見える。

 烏丸先輩だけは不思議そうな顔をして周りをキョロキョロ見ている。

「美祢! あんたバカなの? あんな不味いもの出してどうするのよ!」

 ベガに怒られる美祢。これに俺も便乗する。ゆかり先輩には悪いがあんな不味いものはもうごめんだ。

「俺もベガの意見に同意だ。なんでわざわざあんな美味しくないものを出すんだよ」

「だからだよ! おねーちゃんが言った美味しくない方のメニューで出すんだよ!」

 いつもえへへとかヘラヘラしてるだけの美祢じゃない。ベガと俺が言ったことに対してちゃんと反論した。美祢の言うことは納得できるのだが目の前に立っているのは本当に美祢なのか? 俺と恋人設定なんて意味不明なことを言ってる美祢彩耶乃なのか?」

「素晴らしいですわ! さすが彩耶乃ですわ。美味しくないメニューの飲み物は炭酸コーヒーにしますわ! どうせなら美味しいメニューのコースと美味しくないメニューのコース料理にしましょうかしら?」

 それからどんどんアイディアを出し合って話し合いが進む。本当に文化祭の準備をしてるのだ。

 今までの旅行部で一番部活やってる感じになってる! 旅行全然関係ないけど……

読んでいただいてありがとうございます。

文化祭まだまだ続きますのでよろしかったらお付き合い下さい

ではまた次回。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ