第49話
まだまだ残暑が厳しい中で朝晩はようやく涼しい風が吹き始めた。辛くても辛くなくてもテストはやってきて終わるもので、厳しいのは暑さだけじゃなくてテストも厳しいものとなっているのだが。
テスト期間を挟んで行われている生徒会長選挙もいよいよラストスパートとなってきたようだ。
俺としてはどうして試験期間を挟んでいるのか意味がわからない。しかも試験が終わると生徒会長選挙クライマックスそっちのけで学園祭ムードが漂い始めているのだ。
そう、みんな学園祭が待ちきれないらしい。
桃花先輩曰く生徒会長選挙が終わると一気に学園祭ムードになるらしいのだが、すでに学園祭モードに入りつつあるように見えるので学園祭ムードがどんな感じなのかは今からとても楽しみでもある。
出遅れないためにも早く部活を復活させたいと試験が終わってからうるさいのもまた桃花先輩だ。
そんな桃花先輩は今日は何があったのか知らないがまた一段とめんどくさい雰囲気を漂わせている。ブツブツと誰かの文句を言っては頬を膨らませている。
頬を膨らませているのは小森江先輩が桃花先輩の愚痴っていることを肯定しなくて否定しているから。否定するたびに可愛らしい顔が膨らんでいる。
今もまた小森江先輩に否定されて頬を膨らませている真っ最中だ。そんな桃花先輩は頬を膨らませながら俺の方をチラチラと見ている。さっきからずっとだ。
俺が目をそらしても再び桃花先輩の方を見ると目が合ってしまう。何度もこちらを見ているのかこちらを見たままなのかはわからないが桃花先輩が俺にアピールしているのはわかる。もう隠そうともしていない。
何をアピールしているのかは言うまでもないだろう。
気がつかないフリももうできてないようで限界はとうに越えていた。
「なんかあったんですか?」
俺の言葉に目を輝かせて反応する桃花先輩。
そしてその隣でクスクスと、でも隠すつもりもない感じで笑っているベガ。きっとベガも分かっていたのだろう。まぁ誰が見てもわかっただろう。
「そうなんですわ。聞いてくださいます?」
今にも手を握ってきそうなくらいの勢いで前のめりになって話しかけてくる桃花先輩を横からベガがどうどうと落ち着かせている。
「やっぱりわたくし烏丸先輩はどうしても納得いがいきませんわ。廃部なんて意味がわかりませんわ。全然納得できませんわ。それにこの間もいろいろとお話したんですがわたくし上手にお話させてもらえませんでしたわ」
怒ったり落ち込んだり表情も豊かだが身振り手振りのジェスチャーまで追加してよっぽど悔しい話し合いだったのだろう。しかし桃花先輩が上手に話させてもらえない状況というのも見てみたい気はする。それに廃部して随分たってしまったのだがまだそういった話し合いをしている事実にもびっくりだ。普段は1年2組の教室でダラダラと喋っている元旅行部での姿と旅行部を復活させるために裏でいろいろとやっている桃花先輩。
そんな事を考えていたら桃花先輩がジト目で見ていることに気がついた。
「ノブくんったらきっと変なことを考えてますわ」
低めの声で抑揚のない感じでそんな事を急に言われたら普通にびっくりするのに今は的確に見抜かれているような発言で焦りを隠すのに必死になってしまう。冷静にいつもどおりに反応しないと。
しかしそう考えれば考えるほど普通通りじゃないのだろう。
「わかりやすっ」
ベガがぼそっとつぶやいて桃花先輩もニコニコしながらこちらをジッと見っぱなしだ。
「まぁまぁ、桃ちゃんそんなに城野くんにあたらないの。烏丸先輩が苦手なのはわかるけどあとちょっとじゃない。ゆかりんが生徒会長になってくれればいいんだけどね」
「に、苦手なんかじゃありませんわ! ちょっとお話しにくかっただけですわ」
「それを苦手っていうんじゃないの? それよりもゆかり先輩ってどうなの?」
ベガのどうなのというのはもちろん生徒会長になれそうかということだろう。俺も気になっていたことだ。
それからゆかり先輩の選挙の具合を小森江先輩が話し始めたのだが桃花先輩はまた頬を膨らませている。話が愚痴の話から選挙の話に話題が移っちゃったからだろう。
「生徒会長の選挙に生徒会から二人出ること自体が初めてらしいからね。今までは生徒会の中で誰を生徒会長にというのが決まってから生徒会長選挙スタートだったらしいからね」
「じゃあどうして今年はこんなことに……ってまぁそうか」
ベガは言ってる途中に一人で納得してしまった。まぁ冷静に考えて出馬した人、タイミング、状況を考えればすぐに答えが出てしまう。
「ゆかちゃんとノブくんがコソコソやってたからですわね」
ベガが一人で納得してたのに桃花先輩が余計なことを口にして思わずむせて咳き込んでしまった。確かにコソコソやってたから嘘は言ってないけどあまりにも大雑把に話しすぎだ。
まず今の言い方では何度も会ってたようにも聞こえなくないか? 1回しか会ってないぞ。というか何故知ってる?
「城野って結構ゆかり先輩と会ったりしてるんだね。へーへー。そうなんだー」
ベガの喋り方が怖くて顔が見れない。それに全身から変な汗が溢れ出している。俺が何か悪いことしてるように思ってしまうけど何もしてないよな俺?
「姫ちゃんのヤキモチ可愛いですわ。わたくしが慰めてあげますからわたくしの愚痴も少し聞いて欲しいですわ。今ならノブくんもついてきますわよ」
「実はそんな先輩もヤキモチやいてたりしません?」
俺を勝手に特典にして、またベガを煽るように調子よく喋ってた先輩がピタリと止まってしまった。えっそこはいつものように軽い感じで返すんじゃないの? 何で先輩止まっちゃったの?
ベガも冗談で言ったつもりだったのに固まってしまった先輩を見て驚きを隠せない。というかベガも固まっちゃってる?
「そういえばね、前組合長が言ってたんだけど旅行部は多分新しい生徒会長になったらすぐに戻れるんじゃないのかなっていうのは言ってたね。元々職員会議では廃部じゃなくて休部でもって話だったみたいだし」
困惑だらけの中で一人冷静に話を続ける小森江先輩。こんな状態じゃ誰も話の内容は頭に入ってきてませんよ。
「まぁ!」
そんな中謎のフリーズから立ち直った桃花先輩が興奮気味に立ち上がる。本当に話を聞いてたんですかね?
小森江先輩になだめられて椅子に座りなおす桃花先輩。何か無理してないか? テンションがとっても変だ。
「それにね、烏丸先輩だけが何かにこだわってただけみたいらしいよ。それとは別に生徒会に新入部員の動きがあるらしいよ。こんな時期に珍しいよね」
生徒会に入るなんて考える人がやっぱり居るんだな。まぁゆかり先輩もそうなんだけど、普通はそういうことみんな嫌がるし。
そんなこと考えてたら桃花先輩がまた立ち上がり叫びだしたのでびっくりしてしまった。
「カツくんもわたくしを喋らせてくれませんわー!!」
「旅行部の為に立候補したゆかちゃんはどうなるんですの? あの恥ずかしがり屋で目立つことが苦手なゆかちゃんがですわよ。あのゆかちゃんが頑張って生徒会長に立候補したんですのよ! もしかしてゆかちゃんが立候補しなくても旅行部は元に戻れたんですの? そういうことなんですの?」
かなり感情的に小森江先輩にグイグイと詰め寄っている。一つ一つ確認するように言ってるが声の圧力は横で見ていても押しつぶされそうなくらいの迫力だ。
小森江先輩はというとさっきまで喋っていた表情と全く変えずに『うん』と桃花先輩の言葉ひとつひとつに頷いている。
「でもどうして会長は旅行部を廃部にしたんですか? 個人的な理由だけじゃそれこそ組合が動いたんじゃないですか?」
以前ゆかり先輩から聞いた学校の仕組みがあれば廃部になんてならなかったんじゃないかなと思ってしまった。そういう組織だったよね?
「そうなんだよね。ただ学校側も考える理由があったらしいんだよ。前組合長は知ってるっぽかったけど教えてくれなかったんだ。明確な理由があったという事は教えてくれたけどその理由の内容までは教えてくれなかったんだ」
「個人的な理由だけじゃなくてちゃんとした理由もあったと?」
確認するように聞くと小森江先輩は無言で頷いた。
学校も組合も廃部じゃなくてもっていう状況から廃部になったくらいだからよっぽどの理由なんだろうし話し合いもしたのだろう。
ただここで一つ疑問が浮かぶ。小森江先輩の言うとおり会長が何かしらの原因があって廃部にしたのであると、会長が変わればじゃあ旅行部戻しましょうってことに本当になるのだろうか?
学校も廃部にしたからにはそう簡単には戻せないだろう。廃部後即創部なんてことは前例としては良い前例にはならないだろう。
頭の中でいろいろと巡らせてみると廃部ということがいかに大きなことだったということが今更ながらに実感した。
それなのにあんなにいつもいつものんびりしてても大丈夫なのかと不安になったがそれもそれで旅行部なのかなと考えてしまった。
そんな事を考えてたら肩を叩かれてビクッとしてしまった。
「ノブくんノブくん。姫ちゃんを起こしてあげないと固まったままですわ。ここは固まってることですしキスでもしてあげるといいんじゃないですの?」
その言葉を聞いたベガは意識が戻ったのか顔を真っ赤にしたまま桃花先輩に飛びかかっていた。
あぁ久しぶりの光景だなと小森江先輩と二人でベガと桃花先輩がじゃれあってるところを眺めていた。
みなさま蒸し暑い中読んでいただいてありがとうございます。
今週もマイペースに書かせていただきました。
次もマイペースに行こうと思います。
ではまた来週。。。




