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第47話

 まだ信じられていない。

 実は桃花先輩から聞かされた、ゆかり先輩が生徒会長に立候補するということだ。別に桃花先輩が信じられないというわけではないのだが、冗談を言ったりドッキリでしたみたいなことを言う人でもあるけれど、それ以上にゆかり先輩は人前に出たり人前で喋ったりするのが苦手だからだ。あの人見知りっぷりは忘れもしない。


 しかしその疑いも目の前のポスターを見てしまっては受け入れないといけない。きちんとゆかり先輩の名前がポスターに書かれている。

 先日も食堂に向かう同じ場所で生徒会長選挙が始まることを知った場所のポスターだ。今は立候補者2人のポスターに変わっている。つまり生徒会長選挙はもう始まっているということだ。

 美祢とベガも本当に驚いている。

 二人も桃花先輩から聞かされていたのだがこの驚き方を見ていると俺と同じように信じきれない部分があったのだろう。



 いつものように食堂で他愛もない話をしながらの昼食。すでに美祢は食事を終わらせて話の中心となっている。相変わらずの早食いだ。

「ねぇねぇゆかちゃん先輩を応援したいんだけど何かできるかな?」

 急に美祢がそんな事を言い始めたので変なものでも食べたのかなと言葉を失うと同時に、たまにはまともな事も言うんだなと。左前に座って食事を取っているベガを見ると箸を持ったまま綺麗に固まっていた。

「何々? どうしたの2人とも黙っちゃって」

「アンタ熱でもあるの?」

 動きを取り戻したベガは美祢の額に手を当てて『熱は無いようね』と確認している。俺と同じようなことを考えていたようだ。

「どうしたの? 私は元気元気!」

 わざわざ立ち上がり、ベガに向かって何故かファイティングポーズを決める美祢に食堂にいる大勢の生徒が注目した。急に立ち上がれば思い思いに食事をしていた生徒たちも何事だと気になるものだ。そしてざわついていた食堂が一瞬静かになった。

「生徒会長に立候補している四辻ゆかりをどうぞよろしくお願いします!」

 突然何を言い始めるのかと思えばゆかり先輩のアピールを始めてしまった。よくこんなところでそんな事が出来ると感心してしまう。

 美祢の言葉のあとはまた食堂がざわつき始めたのでいつもの食堂に戻ったのかと思ったが聞こえてくる言葉がやけに耳に入る。

「旅行部か」

「あぁ旅行部の連中だな」

「なんだ……旅行部の連中か」

 何だかあまりいい感触のように聞こえないのは気のせいではないかも知れない。

「ねぇこれって逆効果でしょ? アンタ応援するって言ってもこういうのは時と場所があるでしょ」

 ベガも俺と同じことを感じたのだろう。

 ベガに強く言われて小さくなる美祢。俺が言ってもこんな感じになった記憶はないな。どうなってんだ?

 あまりに小さくなっている美祢を見かねてベガが慌ててフォローを入れる。

「ちゃんと私も応援するから。応援するから。ね? ちょっと城野アンタも美祢を慰めなさいよ」

 いきなり俺にも美祢を慰めろと言い始めたぞ。


「お邪魔しますわ!」


 美祢を慰める言葉を探しているとよく通る声が食堂の入口から聞こえてきた。顔は確認できてないが桃花先輩だろう。見なくてもわかる。

 俺たちは食事も終わりに向かっているところでの登場だけどどうしたのだろう? 今からお昼にしては時間が遅すぎる。食後のデザートか飲み物でも買いに来たのかな?


「あーーー」


 再び美祢が立ち上がり大声で叫び始める。さっきまで小さくなっていたはずなのに忙しいな。

 美祢の声に反応した桃花先輩もこちらを見つけて、


「あーーーーー」


 美祢に負けないくらい大きな声で反応する。

 そして周りは『また旅行部だ』なんてささやきが聞こえる。これはゆかり先輩厳しい選挙になりそうだ。

 桃花先輩がこちらに一直線で向かってくる。かなりの早足だ。

「ねぇ美祢、アンタ何か知ってる? 桃花先輩怒ってない?」

 ベガが美祢に質問したところで桃花先輩がこちらに到着する。

「どうして食べてるんですの? いくら待っても来ませんわ」

 どういうことかわからないが何となくわかってしまった。

「屋上でご飯食べるんだった。忘れてた」

「そういうことね。まぁしょうがないじゃない」

 そうベガが美祢を慰める。最近本当にこの2人仲が良い。というか桃花先輩じゃなくてベガが姉ちゃんなんじゃないかという感じに見えなくもないな。

「今から行こう!」

 そう美祢が言いつつベガの食べかけのトレイを持ち上げて立ち上がろうとするがすぐに止められた。

「ちょっとそれは恥ずかしいからやめて。城野、あんたはトレイを持って屋上に行くの? それだったら私は一人で食べてから屋上に行くけど」

 そんなの答えは決まってる。俺だってトレイを持って食堂を出るなんて恥ずかしいことできない。

 俺は座ったまま首を振り、そして残りの食事を再開する。これが俺の答えだ。ベガはわかってくれたようでトレイを奪い返し食事を再開した。

 桃花先輩の表情を見ても別に怒ってるわけでもなさそうなので大丈夫だろう。こんなことで怒るような先輩じゃないのはわかってる。

「茶山さんが行かないんだったら私も残るー」

 随分明るいテンションで言ってるけど俺じゃないんかい。もう設定はなくなったのかと突っ込む自分が何だか虚しいやら寂しいやら複雑だ。

「じゃあ屋上で待ってますわ。女の子に囲まれて羨ましいですわ」

 そんな事を言いながら食堂を出ていた桃花先輩。何やら周りの目線が冷たいのは気のせいではないだろう。



 食事が終わり屋上に行くとすでに日田先輩が気持ちよくお昼寝タイムを満喫していた。なぜ屋上に布団を敷いて寝ているんだ? この布団はどこから持ってきたのだろう? 日田先輩謎すぎる。

 笑顔で手を振って出迎えてくれるのは小森江先輩。

「最近忙しいんですか?」

 久しぶりだったので率直に聞いてみた。ゆかり先輩から聞いて知ったことだが生徒組合という組織にも所属しているようで何げに旅行部でのんびり遊んでいるということではないことを知ってしまった。

「そうなんだよ。実は生徒組合って夏休みに入ると3年生が引退するんだけどそのタイミングで生徒組合の会長になっちゃってね。まぁ実際には先輩はまだ居るんだけどね。形式上は会長になっちゃったんだよ。2学期に入ってからあまり出れなくてごめんね」

 そんな事をさらっと言うが結構夏休みは旅行部の活動に出てたような……

「小森江先輩も会長なんですね! ゆかちゃん先輩も生徒会長になったら旅行部は会長が2人! ついでにおねーちゃんが部長だから長だらけ。アハハー!」

 今日はやけに美祢が鋭いところに気がついている。本当に熱でもあるんじゃないだろうかと疑ってしまう。だけど美祢の言うとおりまさか生徒会長と生徒組合長が一緒にいる部活ってすごいんだけど、よりによって問題児の集まりみたいに思われてる旅行部……しかも現在絶賛廃部中。一体どうなったらこんな状況になってしまうのか。まぁ日頃の活動の内容と夏休みの花火のせいなのだけれど。

 それにしても気になるのが美祢のドヤ顔だ。どうやら気がついたことを褒めて欲しいのか長がいっぱいを笑って欲しいのか全くわからないがずっとドヤ顔を決めている。

 桃花先輩が優しく『はいはいすごいですわ』と適当に褒めているがそれでも嬉しそうにしている。

「ゆかちゃん先輩が生徒会長になるために何ができるかな? みんなで応援しよう!」

 今度は張り切っての発言。食堂でもそんな話がでて直後の発言が逆効果になってしまったのはつい数十分前の出来事で忘れたくても忘れられない。それでもゆかり先輩を応援したいという気持ちは美祢と同じだ。

「何か出来る事ってありますかね? ほら、よくある応援演説みたいな」

 俺はよくありがちなことだったけど具体的なアイディアとして聞いてみたが小森江先輩は何故か苦笑い。ここの学校の生徒会長選挙はそういうことはしないのかな? 以前ゆかり先輩が普通の学校の生徒会長とは違うような事を言ってたし公約みたいなことは言わないのだろうか?

「応援ですわね……」

 桃花先輩がそうつぶやく。何か言葉を探しているのだろうか。

「応援といいますか手助け……正直に言いますわ。旅行部のイメージを連想させないことですわ。ゆかちゃんは生徒会のメンバーでもあるのですから。旅行部は問題のある部活らしいですわ!」

「問題のある部活なんて自分たちで威張って言うもんじゃないです」

 間髪入れずに突っ込んでしまった。もう反射的に。言われれば納得だけど自分たちのことなのでそんな簡単に納得したくも無い。

「つまりあれでしょ? 応援するということは何もしないってことになるんでしょ?」

「まぁそういうことだね」

 ベガの言葉を肯定する小森江先輩。小森江先輩もわかってたから苦笑いを浮かべてたということだ。

「さっきから何にもしないのが応援とかゆかちゃん先輩が可愛そうだよ! 何かできないのー?」

 美祢なりに何か手伝いたいのだろうなというのは伝わってくる。確かに何もしないのが応援ではかわいそうだし寂しいものだ。

「わかった! 今日の放課後ゆかちゃん先輩を部活に連れてくるからみんなで応援しよう! そうしよう!」

 そういうのが迷惑なんじゃないかな? わからないけど今って選挙のことでドタバタしてるんじゃないだろうか? それでも頑張ってと伝えるくらいなら時間も取らないだろうし1年2組の教室の中で元旅行部の連中が揃ってゆかり先輩を応援しても食堂であったような『あぁ旅行部か』みたいな反応はないだろう。

「今日はみんな集合ね! 小森江先輩も!」

「うん。わかった、大丈夫だよ」

 小森江先輩が優しい言葉で返事しているのに何故か美祢は駆け足で屋上をあとにしていた。

 美祢って本当にじっとしてられないな。ずっと動いてるか喋ってるかしてないといけない呪いでもかかってるのか?

「ホント落ち着きがないね」

 ベガも同じことを考えてたみたいだ。

 今日の放課後は久しぶりに旅行部全員揃いそうだ。

今週も読んでいただいてありがとうございます。

最近迷走気味ですが楽しんでもらえたのであればうれしい限りです。

生徒会選挙まだまだ続きますがおつきあいください。あとはサイドエピソードもゆかり先輩しかかけてないからベガのとことか美祢の話とか書きたい。

ではまた来週。。。

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