第46話
午前中の授業をなんとか乗りきって昼飯の時間。いつもの三人で食堂へ向かっている。
今日、桃花先輩は友人と昼食をとるらしいので集まらないということらしい。らしいというのは俺に直接連絡が来たわけではなくて美祢に連絡が行っているからだ。それに桃花先輩が友人と食事というのはわりとあることなので別に驚くこともない。
そういうことなのだが、旅行部メンバーが集まっても集まらなくても俺たち三人はとりあえずいつも食堂に行っている。あとは集合場所に行くか食堂で食べるかという違いなだけだ。
いつもどおりに何でもない会話をしながら食堂に向かっている途中に1枚のポスターが目に入った。そしてそのポスターの文字を読んだ瞬間に俺は棒立ちとなってしまった。
「城野くん何? 凹んでるの? 私が毎日かまってなかったからかな?」
美祢がまた変なことを言いながら不思議そうに俺の顔を覗きこんでいる。
「いや、それで凹むことはない」
俺は体が反射的に反応するのと同じように頭で考える前に言葉が出ていた。
俺の即答を浴びると体をクネクネさせながら隣に居たベガに抱きついている。そんな美祢に言葉もでない。
抱きつかれたベガも急に抱きつかれて困っている。前までだったら美祢が変な行動を取るとベガも飛んでいったり口の中に手を突っ込んだりして対抗? してたみたいだけど諦めたのか今はされるがまま抱きつかれている。
「城野くん知ってる~? 茶山さんってすっごく抱き心地がいいんだよ。落ち着くんだ」
そんな事を言いながら美祢は抱きついたまましゃがんでいき、顔を太もものあたりでスリスリし始めたところでベガに飛ばされてしまった。
美祢は見事に飛ばされてひっくり返ってしまいスカートがめくりあがる。そしてありがたくもない下着やら白い太ももが丸見えになっている。
「で、生徒会長選挙がどうしたの? あの会長が変わるってだけでしょ? あんた言葉には……出してたか。やっぱりそんなにあの会長のこと嫌い?」
「いや、そういうことじゃなくて個人的にちょっと……」
美祢のことなんて何事も無いように話すベガ。そして必死にスカートを抑えて周りをキョロキョロと確認する美祢。
「えっ? 個人的にってことは会長と個人的に何かあったの?」
いやちょっとベガさん突然何言い出すんですか怖い。美祢は自分のことでいっぱいいっぱいのようでこちらの話は聞いちゃいないな。
生徒会長選挙のポスターで思い出した内容はペラペラと喋ることじゃないからどうしようと考えた。
ポスターを見て思い出したのはゆかり先輩。そう、生徒会長に旅行部の誰かがなればどうにかできるかもっていうのをファミレスで話し合っていた。そしてそれをずっと桃花先輩に相談しようと考えていた。そしてこの間桃花先輩とふたりっきりになってたのに、なぜ美祢の話ばかりしていたんだろうと自分を責めてしまう。
その時何か忘れているような気がしていたのは事実だけどしっかりばっちり大事な、一番大事なことを忘れていて情けなくなってしまっている。
俺が凹み直しているとおいていかれていた。
どうやら復活した美祢がベガの手を引っ張り食堂へ向かっているようだ。ベガがこちらを見ているのが見えた。
本日も毎日、通常営業で1年2組の教室に集まってくる旅行部メンバー。今日は久しぶりの日田先輩の姿もある。
最近小森江先輩を見ないのだけれどどうしたのかな? 小森江先輩は何か忙しいのだろうか?
今日も何の変哲もないただのおしゃべりと思っていたのだがどうやら今日は違うようだ。だから今日日田先輩の姿があるのかもしれない。
「さてさて、発表ですわ!」
突然立ち上がったと思ったらいきなり大きな声で喋り始める桃花先輩にクラスメイトも注目していた。
「最近喋っているだけで特に活動していない旅行部ですがそろそろ何か始めようと思いますわ。わたくしがとっても退屈ですわ!」
突然の発表はまさに思いつき発言だった。何をやるのかも決まってなくて、ただ退屈だから何かしたいという全く内容のない発言。しかし1年2組のクラスメイトはその内容の無い発表だが迫力に驚いてしまったのか数名が拍手をしている。やめろそんな事をすると桃花先輩は調子に乗ってしまうし、拍手をされるようなことは何も喋ってないぞ。
話の続きをみんなが注目していると違う方向から声が聞こえてくる。その人物は丁寧に手を挙げて発言をする。
「ねぇおねーちゃん。今日城野くんが生徒会長選挙のポスターの前で凹んでたよ。なんでだろう? もしかして生徒会長さんに浮気?」
美祢の言葉にざわつく教室。そして刺さる冷たい視線を浴び頭を抱えてしまう。
ちゃんとベガとの会話聞いてたんじゃないか。
桃花先輩は桃花先輩で嬉しそうにしているし。
「どういうお話か聞かせてもらえますかしら?」
明らかに楽しんでるようだが、実は桃花先輩だけに相談したいことを思い出したなんて正直には言えない。きっと桃花先輩は違う答えを期待してるんだろうけどその期待してる答えは無い。だって生徒会長と個人的に何かあったということは全く無いのだから。
いろいろと面倒くさいから喋っちゃえば簡単だけど二人っきりじゃない桃花先輩に話しても期待できないし。
「何々? 何か喋れないようなことが本当に会長と……? そういえばこの前は桃花先輩にどこか連れて行かれたみたいだしね」
普段はそうでもないのにどうしてこういう時に限って余計なことを言い出すんだ。ベガさんよ。確信犯だよね? あれ? それどころじゃなくて何か機嫌があまりよろしくないようですが俺何か変なことしました? ベガさん。
「ねぇ、私もその話詳しく聞きたいよ茶山さん」
「本人たち二人とも居るんだから詳しく聞いてみれば?」
ベガは意地悪するようにこちらと桃花先輩をチラチラと見ている。それに釣られて美祢もじっと俺の方と桃花先輩の方を交互に見ている。
「おねーちゃん城野くんとっちゃうの? おねーちゃんとも浮気するの城野くん」
美祢の発言はもういろいろと滅茶苦茶すぎてどこをどう訂正していいのやら……桃花先輩は何が面白いのかずっと嬉しそうにしている。まぁ俺がいじられているというか困っているのが面白いのだろうけれど。
もう全部がいろいろと面倒くさすぎる。全部が面倒くさいので何か一つでも話をしようと覚悟を決めた。この状況でやってしまうと後々面倒になりそうだけど面倒事が一つや二つ今更増えてもいっしょだからという勢いだ。
教室の外でゆかり先輩の言ってたことを聞こう。
前回とは逆の立場になるように俺は桃花先輩の手を引っ張り教室を出る。二人きりの状況を作って聞いてみようと思った。
「わたくしさらわれてますわー」
ふざけた口調で言ってる割にはすんなり教室の外までついてきてくれた。手を取っていたが引っ張るという形にはならなかったのがその証拠だ。
教室を出て階段のところまできて立ち止まる。時間的にまだ生徒がチラホラと残っていてこちらをチラチラと見てる生徒もいるが気にしない。
「で、何かしら?」
何かを見抜いているのだろう。桃花先輩が先に口を開いた。こんなに直球に聞かれると全てを見通されているように感じてさっきまでの勢いもしぼんでしまい決めていた覚悟も小さくなっていた。
それでもなんとかゆかり先輩と話したことを桃花先輩にも聞いて欲しかった。もう生徒会長選挙が始まってしまう。
「実は……旅行部復活のことなんですけど……」
俺が振り絞って出した言葉は驚く程小さな声だったけど桃花先輩には届いているようだ。
「そっか……」
その一言だけ言って黙ってしまった。
ここから桃花先輩の言葉を待つ長い時間が待つのかと思っていたら意外にもすぐに口が開いた。
「ゆかちゃん生徒会長に立候補しちゃってるよ」
「へ?」
桃花先輩の突然の言葉に間抜けな声が出てしまった。聞き間違いではないよね? 別に冗談を言ってるようには見えないし、どうして生徒会長の話がすぐに出たのだろう?
「だからね、始めて生徒会から二人立候補することになったって結構生徒会長選挙も盛り上がるよ!」
いやいや、盛り上がるとかそういうことじゃなくて俺が桃花先輩をここに手を引っ張ってきて面倒事を増やしてまで聞こうと思ってたのに答えが出てる? 出てたってこと? というか桃花先輩は旅行部から生徒会長が誕生すれば復活出来るってこと知ってたの?
「おーいノブくんどうしたんですの?」
俺の顔の前で手を振る先輩がいる。俺はいろんな疑問が頭の中をぐるぐるしてたけど結局もう何も聞けなかった。
こうして生徒会長選挙が始まるのだが俺は教室に戻った時のことを考えていたら胃が痛くなってきていた。
読んでいただいてありがとうございます。眠い目をこすりながら喜んでおります。
睡眠不足なのですが別に仕事が忙しいなんてことはないんです。遊んでるだけです。
さてさていよいよ生徒会長選挙が始まるのですがどう盛り上がるのでしょうか。旅行部メンバーも一緒に盛り上がるのでしょうか? それとも旅行部だけ勝手に盛り上がるのでしょうか。
ではまた来週。。。




