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第45話

 今の現状を正しく確認するためにとにかく落ち着こう。落ち着け俺。そう自分を落ち着かせようとしても右手が先輩の手の感触を思い出してまた胸がドキドキし始める。

 つい先日もこんなことがあったばかりだ。デジャヴなのか?

 混乱している俺とは対照的に、目の前に座る桃花先輩は当然のようにメニューを眺めている。

 学校の近くのファミレスということは必然的に俺の家の近くのファミレスということになる。こんなにここのファミレスを使うことになるとは思ってもみなかった。

 高校生になるとこんなにファミレスに入り浸ってお喋りをするものなのかと思って周りを見渡したがそんな事は無いようだ。今日はお世辞にもお客さんが多いとは言えない状況で制服を来た学生もほとんど居なければ店員さんも暇そうにしているように見える。

 俺がたまたまたファミレスを利用して喋る機会が続いたということにしておこう。そしてまたそういう機会があればここで喋ることにしよう。

 確か先日もゆかり先輩と一緒に……あの辺りの席で話したっけかな? 

「どうしたんですの? そんなにキョロキョロとして……」

 桃花先輩にそう言葉を掛けられて慌てて目を向けると先輩がテーブルに肘をついた状態で両手のてのひらでほっぺを覆い退屈そうに俺の方を眺めていた。

「ノブくんはわたくしというレディが目の前に居るというのに誰か別のコのことを考えているんじゃないですの? そうだとしたら許せませんわ」

 冗談と分かるくらい軽いトーンで言ったあとにほっぺを膨らまして不貞腐れてますの可愛いポーズをする先輩だったが俺は図星を突かれて言葉が出てこなかった。

「もう、なんですのその間は。まさか本当に別のコのことを考えてるなんて流石のわたくしでも怒っちゃいますわよ」

 先輩はまた冗談っぽく俺をからかってくる。

「そ、そんなわけあるわけないじゃないですか」

 慌てて取り繕うとしたのだが大根役者も真っ青なセリフでは効果は薄かった。いやむしろ逆効果になっているかもしれない。

「ノブくん早く決めてくださいます?」

「えっ? な、何を決めるんですか?」

 取り乱しっぱなしの俺は先輩の言ってることがよくわからない。何を決めるというんだ? 美祢という設定の彼女がいながらも正直ベガに少し心が動いたりゆかり先輩のことが気になってたりしてることまでも見抜かれているとでも言うのか?

 そんな俺を見る目線が何故か冷たい目線に変わるのを感じた。そして先輩は無言でメニューを指さした。

 あぁメニューね。ハハハ。ホントなに慌ててるんだ。完全に桃花先輩のペースじゃないか。というか桃花先輩と二人きりのときはいつも桃花先輩のペースなんだけどね。

 そうしてようやくメニューを決めるということに脳がたどり着き、メニューを手に取りめくろうとしてまだメニューを開いてすらいない状況に気がつき恐る恐る目の前の先輩を見る。本当は怖くて見たくもなかったんだけど。

 ジト目でこちらを見ている先輩と目が合った。先輩そんな表情もするんだ、なんて考える余裕はなかった。

 なぜなら俺と目があった瞬間に先輩は店員さんを呼ぶボタンを押してしまったのだ。

 すると店内の状況からして店員さんはすぐにやってきた。それはもう待ってましたと言わんばかりに飛んで来た。そんな俺にメニューを選ぶ時間はなかった。

「ドリンクバーが二つとバケツ盛りフライドポテトをお願いしますわ。以上ですわ」

 メニューが決まってなくて一人で慌てる俺をさておき慣れた感じで店員さんにメニューを伝える。そして俺はメニューを言う時間すら与えられることはなかった。

 店員さんは何の疑問も持たずにメニューを繰り返してキッチンの方へと下がっていった。まぁ『以上ですわ』って言われれば俺はメニューを頼まないと思われても不思議ではない。ちゃんとドリンクバーも2つ頼んでくれているし。

「ノブくんずっと心ここにあらずですわ。本当にどうしたんですの?」

 俺が一人で勝手に自爆して慌てているだけというのに先輩は俺の心配をしているようだ。しかし桃花先輩の言葉で俺がここに拉致された経緯も思い出した。

 そういえば相談がどうとか言って拉致されたのだった。

「先輩はどうしてわかったんですか?」

 やっぱり桃花先輩はいろんなところを見てるのかなと感心していた。それと同時にどうして気がついたのかなという疑問もあったので素直に聞いてみたのだ。やっぱり元気が無いように見えてたとかそんななのかな?

「何がですの?」

 さっきからずっと俺の方を見ながらの先輩はそのまま口を開いた。

 またまたとぼけたことを言い始める先輩である。それにしては目には一点の曇りもない。

「相談ですよ相談。先輩が俺を教室から連れ去ってここに連れてきたんじゃないですか」

 そう。教室にベガを置き去りにしたままここに連れ去られたのだ。きっとベガも状況がわかんなかっただろう。

 『はて?』なんて唇に指を当てて首を斜めに傾けて今思い出してますよ! なんて仕草をしている。

 たった数十分前の出来事でしょうと突っ込みたくなったが必死にその衝動を抑えた。

 そんな二人の変な空間に店員さんが現れた。二人の間にバケツ盛りのフライドポテトが置かれた。ドリンクバーを取りに行くよりも先にフライドポテトが持ってこられた。これ多すぎでしょう。なんだこのポテトの量は! と俺が一人で驚いていると店員さんはご丁寧に『ドリンクバーはセリフサービスとなっております。あちらにございます』と案内してくれた。

 そそくさと二人でドリンクバーを取りにく。まさに逃げるように席を離れた。

「もーわかってますわよ。彩耶乃のことで悩んでいるのでしょ? 相談しにくいでしょうけどお姉ちゃんであるわたくしがちゃんとその相談を聞いてあげますわよ!」

 今にもえっへんと言い出しそうなくらいドリンクバーの前で胸を貼る先輩。そしていろんな意味で開いた口がふさがらない状態だ。

「席でならまだしも何でドリンクバーのところでそんなに大きな声でなんて事言うんですか」

 いろいろと言いたいことが多すぎて意味がわからない言葉になったかもしれない。もしかしたら桃花先輩に上手に伝わってないかもしれないがしょうがない。どうして相談がそういうことになるのだとか姉妹は設定でしょとかいろいろ言いかけて寸前のところでブレーキをかけることに成功したのだから。

 家からも学校からも近いこのファミレスはまだまだ利用することが多そうなだけに変な人たちだななんて思われたくないのだ。

 現在進行形で数少ないお客さんや店員さんがチラチラとこちらを見ている。

 俺が周りの目を気にしている間に諸悪の根源である先輩は鼻歌でも歌ってそうなくらいごきげんな様子で紅茶セットを自分の席に運んでいた。確信犯なのか? さすがに紅茶セットを持ったままスキップはしていなかったのだけれど……。

 

 席に戻るとさっそく桃花先輩の相談タイムが始まったのだがずっと美祢のことを聞かされた。

 

 俺の知らないことが聞かされたのだ。

 

 別に俺が美祢の全部を知ってるなんてことはなく学校外ではほとんど交流は無いのだけれど、しらなかった事というのは最近の美祢の行動だったのだが、なぜ隠すようなことだったのかは相変わらず謎の内容なのだが気になってなかったといえば嘘になる。だけど気になっていると認めるのは何か悔しいのだ。

 なぜ隠していたのかはよくわからないのだが美祢はバイトを始めたらしいのだ。ゆかり先輩がバイトをしていることをあまり話したがらなかったり内緒にしていてくれと言われたりしているが美祢はそういうタイプには見えない。どちらかというと喋りたがるタイプと思ってたのだがそうじゃなかったのかな? うちの学校はバイトが許可制だから……まさか許可を取ってないとか……

 いろいろと美祢のことを考えて見たが前を見るとずっと先輩が俺のことを見ていることに今気がついた。いつからこっちをじっと観察していたのだろう。

 目線は外さないまま器用にニヤニヤと笑みを含みながら紅茶をすすっている。

 そして目線は外さないままもカップから唇を離した。

「許可はちゃんととってるらしいわよ」

 俺が美祢のことをいろいろと考えてることを見透かされてるのかと思うほどニヤニヤとしながらの言葉。

 俺は表情に出ているのかと不安になり自分のほっぺを触ってしまった。その様子を見てまた先輩はクスクスと笑っている。

 それにしても許可をっとってるらしい(・・・)というのが姉妹設定(・・)なんだって思い出させてくれる。

 


 桃花先輩は退屈だったからなのか、本当に気を使ってくれて相談にのったつもりだったのかはよくわからなかった。ただお喋りをしてポテトを少しだけ食べて挙句の果てには『もうお腹いっぱい』なんて言い出した始末だ。

 バケツ盛りポテトの後始末をちゃんとした頃にはもう何も食べられないくらいお腹いっぱいだったし結局時間を忘れるくらい先輩と喋ってい。外を見るとすっかり暗くなっていた。


「こういう時はね、相談した側が奢るものですわよ」


 そんな事を言いながらも会計のレシートをしっかり握り締める桃花先輩。

「今日は先輩ということでわたくしが出しておきますのでノブくんの出世払いってことでよろしくですわ」

 そんな冗談を言いながら全部会計をしようとしている桃花先輩に追いついて財布を出すと財布を取り上げられた。

 そして会計が終わると『だから出世払いでいいですわ』と言いながら財布を返してくれた。

 会計をしてくれた店員さんが俺をジロジロと見ている気がしたがきっと気のせいだろう。

 先輩とたくさんお喋りして楽しかったし、気になってた美祢のことも分かったし少し心が軽くなった気がした。


 やっぱ俺悩んでたんだな。


 何か忘れているような気がしていたが、思い出せないということは対して大事なことじゃないだろうと思い気にすることをやめてファミレスを後にした。

今週も読んでいただいてありがとうございます。

今週も楽しく書いてます。

最近ふたりっきりっていう場面が多くなってますが気にしないでください。

来週からはまたざわざわドタバタになると思います。ノブがもっと振り回されるように(笑)

そして美祢が暴れるように。

ではまた来週。。。


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