第43話
俺は現在進行形である相談をしているところだ。
別に秘密の相談というわけではないのだが、ファミレスにふたりっきりという形なので結果的に秘密の相談になってしまっている。
まぁなぜ秘密の相談という形になってしまったのかというと、俺の中で生まれた……いや生まれていたあるアイディアが強引というか無茶苦茶なアイディアだったのでとりあえず自分の中で保留にしていて今回相談する形になったということなのだ。
あるアイディアというのはもちろん旅行部復活についてのことだ。
実はそのアイディアについて相談する候補は前々から考えていたのは考えていたのだが相談するまでにならなかったのだ。ずっと最後の一歩を踏み出せない形だった。
その相談相手は桃花先輩とベガ。旅行部唯一の常識人同級生とたまにある真面目モードの時は頼りになってわりと喋りやすい先輩が候補だったのだが、俺の記憶の中ですっかり抜け落ちていたもう一人の常識人であり最も頼りになる可能性のある人物と先日話して候補に上がりそして今目の前に座っているということだ。結果的に最後の一人に対して最後の一歩がすんなり出た形となったわけだ。
目の前の相談相手は周りをキョロキョロと見渡しながら時折俯いて何度も自分の着ている服を見たり触ったり落ち着きが無い様子。こういう状況があまり慣れてないのかなと思ったのだが、俺もこういう状況に慣れていないので緊張していないといえば大嘘になるくらい緊張している。
なんせ女の子と二人でファミレスでデートみたいな状況今までなかったからだ。
え? 美祢? 美祢は勉強だしなんというか異性の対象という感じではあまり捉えられないというか認識していないというか……そんなことよりも相談の内容だ。つまりアイディアの内容について相談しているのだが、生徒会選挙に旅行部の先輩たちに出てもらって生徒会長になってもらおうということだ。
自分で考えて、あまりにも無謀であり安易でありそんな都合のいいこと出来るわけないだろうという考えがあったから一人でこのアイディアを抱え込んでいた。
普通に考えて生徒会がそんな権限を持っているのはどこかのお話の物語であって現実ではそんなことありえないと俺自身がわかっていたからだ。しかい俺の目の前に座っている人物はそのことを聞いてもちゃんと考えてくれている。
別にベガや桃花先輩に話しても笑われて終わりというようなことは考えなかったが今俺の目の前にいる人物はその組織の仕組みまでよくわかっているからストレートに相談しやすかったのだ。
「ノブくんね、それはね結論から言ってやっぱり難しいと思う」
顔をあげて結論を出したゆかり先輩と目があったが一瞬で目を逸らされた。ゆかり先輩はまた遠くの方をキョロキョロとしながら落ち着かない様子で目の前のドリンクに刺さったストローをしきりにかき混ぜている。何かいろいろと混ぜているのか変な色の飲み物になっている。
それから難しいとする理由を考えながら答えてくれた。
「あのね、新しい部活動ってね一応受付は生徒会が受け付けて人数とか変な内容の部活じゃなかったらOKはでるのね。旅行部も人数が揃ったからOKが出たわけだし。でもそれで部活結成っていうわけじゃないの。生徒会でOKが出たあとは学校側、つまり職員会議で一応その部活の創部について簡単にだけど話し合いがあってそれで創部っていう流れになるの」
そこまで聞いていると別に何の問題もなさそうに聞こえた。ゆかり先輩も俺の表情を読み取ってか説明を追加してくれる。
「ここまでだったらね多分大丈夫なの。今までも生徒会側で創部OKになって職員会議でNGになった事は記憶にないから。でもね廃部になった部活を再び創部するっていうことがどうなるのかが待ったく読めないの」
ここでゆかり先輩は目の前のちょっと変な色の飲み物に刺さったストローに口を付け飲み込んでいく。飲み終わると再び喋り始める。
「私が考えたのはね、一旦廃部になった部活、つまり旅行部を元旅行部のメンバーが生徒会長になりOKを出したからといって職員会議で簡単に創部OKつまり復活のOKが出るとは思えないの。廃部の時も一応職員会議で話し合いになったみたいなんだけどそこで先生達が旅行部に対してどういうイメージがあって廃部になったかがわからないし……だからどっちに転ぶかは全く読めないの」
ここまで話すと一旦大きく息を吐いて目の前のドリンクを飲み干すゆかり先輩。そのまま『ちょっとドリンク取ってくるね』と言って空になったコップを持ってドリンクバーに向かって行った。
ゆかり先輩をドリンクバーに見送った俺は考える。やはりネックになっている廃部ということだ。先生達側の印象次第ではなんとかなるかも知れないということもわかったが、なんせ前例があまり無いことみたいなのでゆかり先輩が読めないということは本当のことだと思うし、もしかしたらオブラートに包んで読めないという表現を使っているだけで現実的には最初に言ったとおり難しいのかもしれない。
普通に考えれば廃部になってすぐ復活っていうのも虫が良すぎる話だ。でもそれをやろうとしているんだから難しい事をしようとしているのは最初から理解してる。
戻ってきたゆかり先輩のコップには明らかにお茶っぽいのに泡がポコポコと発生している。おそらく炭酸だがあの色の飲み物の炭酸なんてあったっけ?
俺がコップをマジマジと見ていたからだろうか、ゆかり先輩はちょっと恥ずかしそうに一口だけ謎の飲み物を飲み再び喋り始める。
「次の問題はね、誰が立候補するかということ。生徒会長に進んで……しかも旅行部の為に立候補してくれる人なんて居ないだろうし生徒会長が変わったからと言って生徒会のメンバーが総入れ替えするわけじゃないの。だって生徒会も部活みたいなものだから。そこで旅行部のメンバーである桃ちゃんとか日田くんが立候補しても難しいと思うの。創部前、つまりノブくんたちが入学する前はいろいろとやらかしてたし……」
そこで俺の中でなぜこの二人しか名前が出なかったのかが分からずにもうひとりの候補の名前を出した。俺の中ではこの二人よりは生徒会長っていうのが似合うとも思ってたからだ。
「小森江先輩はどうなんですか?」
「えっと、カツくんはね生徒組合っていう生徒の意見をまとめる組織にいるから生徒会長っていう形に立候補はしないと思うの」
俺はゆかり先輩の生徒組合っていう言葉に混乱した。確かに何か聞きなれない組織があるなという程度に認識していたが一体どんな組織だったっけと思い出そうとしたがゆかり先輩がどんどん話を進めていた。
「それこそこの間の旅行部を廃部にするって生徒会が決めた時には生徒組合の意見として警告も無しにいきなり廃部にまでする必要があるのか? 厳しすぎないかということで生徒会側に意見を提出させて旅行部の配布を阻止しようと動いていたの。結果はダメだったけど」
やっぱり小森江先輩は裏でいろいろと動いていたのか。そしてその生徒組合とは何なんだと疑問になる。そう、どういう組織か思い出せないから疑問にしかならない。
「つまり生徒組合って反生徒会みたいな組織になるんですか?」
俺の言葉を聞いてからゆかり先輩が謎の飲み物を飲みながら考えている。
「反生徒会というか対抗組織ではないの。基本的には生徒の学校に対する要望とか改善を個人では言いにくいこととかも学校に要求するために生徒組合という形で生徒会にまとめて意見してくれるの」
ゆかり先輩は唸りながらそして唇を何度も触りながらいろいろと考えてしゃべる言葉を探している。
「もちろんそれは生徒会が行き過ぎたことをしてても生徒会に意見を求めてくるし、先生や学校側が理不尽なことをした場合には学校側にも意見を求める組織なの」
生徒組合って何だか不思議な組織だなと思う一方でそんな組織で活動していた小森江先輩はやはり謎が多いというか掴めない。
「じゃあ生徒会は何をやってるのかと言ったら、生徒会は学校側の意見を生徒側に伝えるし生徒側の意見も学校側に伝える伝達役みたいなもの……なのかな? ちょっと上手に言えてないかも。どっちの味方でもあるしどっちの味方でもないの。生徒組合は完全に生徒側の味方だしね。生徒会は生徒会でちゃんと学校側にも生徒組合側にも意見するし学校の事を考える組織が3つあるみたいな感じかな。普通の学校とはちょっと違うよね」
目の前のお皿に乗っている冷め切ったフライドポテトを一つ掴みケチャップをつけて口に運ぶ。ニコニコしながら『おいしっ』っていうゆかり先輩は反則的に可愛いなと思ってしまった。
フライドポテトを飲み込んで話を続けてくれる。
「話を生徒会選挙に戻すとね、いつも生徒会選挙は出来レースに近いものがあるの。毎年生徒会長の立候補は生徒会から一人しか出ないのが理由だと思うの。たまに生徒会以外の立候補がある年があったみたいなんだけどその時も生徒会側が生徒会長になってるの」
生徒会選挙なんて選挙体験みたいなものだから儀式みたいなものなのだろうしほとんどの生徒は自分じゃなければいいやっていう感じだろうし。
「そして生徒会の副会長である四条さんが生徒会長に立候補することが生徒会の中で決まってるの。つまり難しいというのは生徒会長になることがまず最大のハードルであり、そのハードルを越えてようやく職員会議という読めない賭けに挑むことができるということかなぁ」
ここまで一気に話したゆかり先輩は一つ大きく背伸びをして息を吐いた。
「ありがとうございます。それにしても先輩今日はたくさん喋ってくれますね」
俺は素直なお礼と、たくさん喋ってくれた先輩に冗談の感じで茶化した。ずっと真面目な話をしてたから少しでもリラックスしてもらおうと。
そしたら先輩は顔を真っ赤にして、だけど真剣な顔で呟いた。
「だってやっぱり旅行部好きだからなんとかしたいんだけど……ノブくんのアイディアも喋ってたら否定的な言葉ばっかり出てきて……なんかごめんね」
確かに難しいことばかりを話してくれたけどこれが現実ということが理解できたし、なんとなく学校の中の仕組みもわかった。それにゆかり先輩が旅行部好きだっていうのもちゃんと伝わった。
「俺も最初は思ってた旅行部と違うって戸惑いましたけど楽しく活動できてるしやっぱり愛着湧いてますから復活させたいと思ってます。今のままでも楽しいのは楽しいけど正式な部活として正々堂々と活動したい気持ちが強いですしね」
ゆかり先輩首を立てに何度も振ってくれた。
そのあとは普通の話でもと思って少し喋ってたのだが先程までの饒舌なゆかり先輩は何処へやら。いつもの恥ずかしがり屋な先輩に戻ってしまった。
そして先輩はバイトに行く時間らしく席を立とうとしたので、
「バイト前にすみません。今日はありがとうございます。一応このアイディアは立候補の問題はあるんですけど桃花先輩にも聞いて問題点の解決に努めてみようと思います」
「うん。桃ちゃんはね、みんなと居るときよりもふたりっきりの方が真面目な桃ちゃんだから」
そんな真面目な桃花先輩の状態になるアドバイスをくれたゆかり先輩は伝票を掴んで今度こそ席を立とうとする。
「じゃ、じゃあここは私が払っとくからね」
何故かそう言ったあと顔をトマトのように真っ赤にしていた。しかしこの状況で俺は固まるわけには行かなかった。だって今日は俺が相談を聞いてもらったので俺が払うべきだ。
「ダメですダメです。俺も払いますから。むしろ俺が払いますから」
「ダメダメ。私が払うから」
そう言って真っ赤な顔をものすごい勢いで横に振っている。
「もしかしてこういうのやってみたかったとか?」
冗談で言ったつもりだったんだけどどうやら図星だったようで横に振っていた顔がピタリと止まりさらに顔が赤くなっていく。
「ノブくんのバカ!」
そう小さく呟いて会計に走って行ってしまったので俺も慌てて追いかけてお金を払おうとする。二人でお金の払い合いをして店員さんは苦笑い。きっと『なんだこのバカップルは』なんて思ってたかもしれない。
結局ゆかり先輩が全部お金を払ってしまったので、
「じゃあ今度は俺がおごりますね」
そうカッコつけて言ってみたんだがそれじゃあ次も会いましょうと言ってるみたいだと気がついたから何かごまかすような言葉を探していると、
「うん。また今度ね」
ぎこちないけど手を振りながらお店を先に出ていくゆかり先輩が物凄く可愛くて心臓が飛び跳ねるようにドキドキしていた。
今週も読んでいただいてありがとうございます。
今週はちょっと会話多めな感じと連続でゆかり先輩のお話になりましたがどうでしたでしょうか?
さぁいよいよ旅行部復活劇へ向けて動き始めるのでしょうか(笑)
自分の中で時間に余裕のある時と無いときの内容の差があってダメだなぁなんて感じて反省してます。
ではまた来週。。。




