第40話
俺の部屋が荒らされてから1日。全然片付いてない部屋はそのままにして本日月曜日からまた長い1週間が始まっている。
そんな週の始まりのだるいだるい月曜日の午前中の授業を終えた俺たちいつもの3人組はいつもどおり昼ごはんを揃えに食堂に向かっている。
俺とベガは食堂の隣にある購買でパンを物色し美祢は定食を買いにそのままなれた感じで食堂の中へ入っていった。
購買でのパンの争奪戦なんて夢物語のようなことが起こることもなく、今日も食べるパンをじっくりと物色しているところだ。ベガも俺の隣でパンを選定している。俺との違いはすでに片手にフルーツパンを握り締めている。フルーツパンはいつも固定らしい。
照り焼きサンドはやはり外せないよな。食欲旺盛な男子高校生はやはりお肉が食べたいのだ。
なんて考えてたら美祢がお盆を持って購買の出口に立っていた。隣にいたはずのベガも現在購買のおばちゃんとお金のやり取りをしてるので俺が一番遅れているらしい。
「城野くんや城野くん。女の子を待たせるものではないのだよ」
一体何のキャラのつもりなのか美祢がふざけ口調で、ようするに早くしろと催促してくるので迷っていたが、結局照り焼きサンドとバーベキューソーセージサンドの2つを手に取り急いで会計を済ませて出口へ向かった。
「パン選ぶのになんでそんなに迷うのよ」
「俺はお前と違っていつもフルーツパン固定なんてしないからな」
「そういえば茶山さんっていつもフルーツパン食べるね。カロリー好きなの? クリームって甘いしカロリーも多いよね!」
美祢のとんちんかんな言葉にベガは見事に惑わされている。カロリーという言葉がやはり気になってしまうのか左手にある毎日食べているフルーツパンをじっと見つめていた。
いつもどおり部室に向かう途中にもベガはカロリー多いと太っちゃうかな? やっぱり太っちゃう? と俺と美祢にずっと聞いてきていた。
部室の前には手ぶらの日田先輩がニヤニヤしながら待っていたのでまた何か企んでいるのかと警戒すると同時に一つ大事なことを思い出した。俺が思い出した時にはすでにベガも気がついていたようだった。
俺たちは何度同じ過ちを犯しているのか。
「先輩なにやってるんですか? 早くご飯食べましょうよ」
定食仲間の美祢はのんきに日田先輩の方へ近づいていく。すでに笑いを堪えられていない日田先輩の方へと。
「おい美祢、お前部室もう使えないのになんで定食持ってきてるんだ?」
その言葉に両足が接着剤で地面にくっついてしまったように固まってしまった美祢は首だけ俺の方へ向いて、
「どうしよう城野くん」
体もこっちに向ければいいのにわざわざ涙目になった顔を見せるために首だけを振り向いてお盆の上の定食たちをカタカタと音を立てている今のお前の状態結構怖いぞ。
それにしても日田先輩がなぜここにいるのかはまだ警戒しなければならない。なぜなら日田先輩はこんな美祢にちょっかいをかけるためだけに食事と昼寝の時間を割いたり……今の日田先輩を見ると非常に楽しそうなのでそうなのかもしれないと思ってしまった。
「センパイハヒルゴハンドウスルンデスカ」
壊れた機械のような声を絞り出して喋る美祢の言葉に日田先輩は苦しそうに咳をしながら笑っている。
笑いを超えて最終的にはゴホゴホとむせ返るだけで何も喋れなくなって涙を流している。
「先輩は朝鍵を開けようと思って職員室に入る前に気がついたんですね?」
「おっ! お前見てたのか?」
先輩がオロオロと慌てだしたので本当にそうしたのだろう。実にわかりやすかった。もしかしたらそれが悔しくてここにいたのかもしれない。意外と先輩も子供っぽいことをするもんだな。
「本当にそうだとは思わなかったです!」
美祢は結果的に先輩にカマをかけた形になっていたのだがそのつもりが無かったことを正直にバラす形になっていた。この状況で美祢だけがまだよくわかってなくて『何々?』とベガに聞き倒している。
部室が使えなくなって最初の昼ご飯だったので俺もベガも飲み物を買っていない。いつも部室で飲み物が揃っていたから今日もそのつもりだったのでもちろん買ってないのだ。
美祢だけは食堂の水を入れてきているのだが、これもいつもの習慣で持ってきているようなものなので部室が使えないことなんて考えてないだろう。気がついていれば部室に食堂の定食を持ってくるなんてしないだろうし。
「で、先輩はどうしてここに居るんですか? 何もないのにここで先輩が待つ意味はないですよね?」
「おねーちゃんに何か頼まれたんでしょ?」
オロオロとしていた先輩にさらに口撃を仕掛ける女性陣。そしてどんどん劣勢になる日田先輩。
日田先輩っていつも落ち着いているように見えてたけど、考えてみればいつも寝てるだけだったのかな?
「ちょっと待て。一気に喋るな。俺は美祢をおちょくりに来ただけじゃないから。ちゃんとお前らが言うように桃花の使いだよ」
その後仕切りなおしてその使命を果たす。
「桃花が別の場所とってるからそこで食おうぜってことだ。それと多分ここに来るだろうから待ってろって言われたら本当に来るもんだからさ、笑うしかないだろ」
日田先輩は笑っているが桃花先輩に行動を見通されていた事の方が何か手のひらの上で遊ばれているような感覚になって悔しく思ってしまう。
桃先輩ってたまに鋭いところを見せたりおちゃめなところを見せたりするので素というのがわからない。もしかしたら素を見せてないのかもしれない。
日田先輩に連れてこられたのはプール。もちろん学校のプールだ。
こんなところで何をするのだろうと思ったら普通に扉を開けて入っていった。勝手に入ってしまって大丈夫なのだろうかという不安が先に浮かんでしまう。
そして美祢は何の疑いもなく日田先輩について行ったのだが、先輩が入った場所男子更衣室。その場所に気がついたのかベガの足は止まっていた。
「ここって私入っちゃまずいでしょ?」
「というか何でプールに入れるんだ?」
俺とベガはそれぞれの疑問をお互いに呟いて足を止めていた。
更衣室に入ってこない俺とベガを迎えに来たのは桃花先輩だった。
「お二人共何をしてらっしゃるのですか? 手を繋いでデート気分ですかしら? 羨ましいですわ」
その言葉を聞いて美祢が飛び出して来た。先輩わかってやってるだろう。
「何々? 私もデートする!」
勢いよくやってきて何故かベガの方と手をつなぐ美祢。あんだけカップル設定言ってるんだから普通は俺と手を繋ぐものじゃないのか? 別にどうでもいいんだけど。
「先輩これってどういうことですか?」
「さすがに男子を女子更衣室に連れて行くわけには行きませんので男子更衣室でお食事ですわ」
またトラブルになりそうな原因を作っていることが気になった。女子が男子更衣室でも問題だろうと思ってしまった。
「またノブくんは心配性ですわね。もう終わってるんだからバレちゃってもどうってこと無いですわ。それにちゃんとゴミは片付けますし私物は置きませんわ」
桃花先輩には廃部になった反省とかないのだろうか? これは生徒会長の判断も間違いじゃないのかもと思ってしまった。
「もっといい場所なかったの?」
「それはあるにはあったんですがちょっと遠くて。まぁノブくんの家なんですけどね。トモちゃんはおいでって言ってくださってるんですけどお昼休みに行くのは遠すぎまして……」
「何で城野の家に行こうとしてるのよ! 学校の中でってことよ」
俺がいないところで桃花先輩と母親はそんな話をしていたのか。学校から家がちょっと距離があって助かったとこの時ばかりは思ってしまった。もしこれが徒歩5分とかだったらプールの更衣室に忍び込むことくらいやる人たちだから学校を出て俺の家に来るくらい普通にやりそうだ。ちなみに昼休みに学校から出ることはもちろん校則違反だ。
「それにノブくんの家だとヒメちゃん興奮しちゃうでしょ?」
「な、何でよ! 私がいつ城野の家で興奮した……の……よ」
顔に落書きをされて騒ぎ散らして俺に抱きついてきた事でも思い出したのか最後の言葉は尻つぼみとなりよく聞き取れなかった。
「茶山さんだけ興奮するのはずるーい! 私も興奮するー!」
そう言いながらベガにハイタッチを求め、勢いに負けて何故かハイタッチするベガ。俺の家でベガが騒いでしまったそもそもの原因はお前だろう。
「毎日この塩素臭い中で食事するのはあんまりよろしくないよね」
「それにここじゃちょっと寝にくいよな」
先輩たちがそれぞれ注文をつけているのだがそうじゃないだろう。
これって見つかっちゃうとどうなるのかと考えないのだろうか? 旅行部復活が永久にできなかったり停学や最悪退学なんてこともありえるのじゃないだろうかと考えてしまうのだ。
「ノブくんも何か不満顔ですわね。何かありますかしら? やっぱりお家が良かったのかしら?」
「そうじゃないですよ。黙ってここを使っているということのリスクって考えてますか?」
桃花先輩は溜息をついてしまった。
「本当にノブくんは心配性ですわね。さっきも言いましたが旅行部は無いのでもう潰されることはないですわ。だから大丈夫ですわ」
「俺が言いたいのはそこだけじゃないんですよ。無いものは無いんですけど復活もできなくなりますよ? 復活しなくても生徒会長が言ったとおり部活じゃなくてダラダラとただ遊びますか? それが嫌だったから復活させるものだと俺は思ってたんですけどね? 花火の時もそうでしたけどちょっとしたことで廃部ってことになったんじゃないですかね?」
俺は頭の中で思ってた心配ごとを考えをまとめずに言葉にだしてしまった。
ベガだけが俺の言葉に驚きを見せていたが他のメンバーには特に反応はなかった。もっと意見が出るかと思ったのだがそれも別になかった。美祢に至っては、
「おねーちゃんとだけ遊ぶの?」
なんてどこをどう切り取ったらそうなるのかわからない事を桃花先輩に聞いていたのだが桃花先輩も、
「そうよ。おねーちゃんとだけ遊ぶんですの。浮気ですわうふふ」
なんて事を言って美祢をおちょくっているから呆れてしまう。なんでいつもこう良い意味でも悪い意味でも通常運転なんだろう。
「それでもここだとパンも焼けませんし不便ですわね。早く対策は立てないといけませんわね」
桃花先輩のつぶやきに問題はそこじゃないんだけどそういうことでしか動かないのだろうと何度目かわからない諦めをするしかなかった。
今週も読んでいただいてありがとうございます。
今週はもう家に帰ってなかったので書ききれないかと思ってました。
そろそろ旅行部復活に向けて動かしていきたいですね。
秋の学校ってイベントがたくさんなので旅行部メンバーのイベントで暴れさせたいです(笑)
ではまた来週。。。




