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第39話

 部室はややゴチャついていると思っていたのだが、やや(・・)ではなかったようだ。冷蔵庫に除湿機に謎の冷風を送る扇風機からトースターにふかふかの布団とここで生活できるんじゃないだろうかというほどの荷物が出てきたのだ。

 当たり前とは怖いものでそんな部室でお昼ご飯をしていた俺たちは片付けという行為をして改めて、これ部室だったんだよなと考えさせられてしまった。普通の部活動の部室にはそんな電化製品なんて絶対に置かれるわけがないのだ。

 そんな部室なので片付けをするのに1週間近くもかかってしまい昨日ようやく片付けを完了して鍵を先生に返却できた。その片付け期間中に生徒会から早くしろという最速は別になかった。

 ちなみに荷物のほとんどは業者のトラックが来て桃花先輩の家送りになったのだ。やはりというか納得の私物だったわけだ。

 この片付けを持っていよいよ廃部となり部室も使えなくなった。



 今日は土曜日で午前の授業が終わるといつもの1年生3人組で使えないはずの元部室に向かっていた。本当に何も考えずにだ。

 途中先輩たちと合流すると()旅行部のメンバー全員で当たり前のように部室に向かったのだ。

 途中で日田先輩が職員室に鍵を取りに行く。そして先に5人が部室に到着して現実を思い出さされた。

「本当に廃部になったのですね」

 その言葉の後に日田先輩が到着した。日田先輩は職員室に入る直前に廃部になったんだったと思い出し職員室に入ることは免れたそうだ。

「まぁあれだけ運び出したしね」

 小森江先輩の言葉もすでに思い出のように聞こえた。あれだけ一生懸命片付けて、業者まで来て運び出したというのが昨日の出来事だったのに。

 しんみりとした空気が漂い始めたがその空気を一気に吹き飛ばすのも桃花先輩だった。

「それでもこの場所を取り戻すために頑張りますわよ! 負けっぱなしは嫌ですわ。ということでちょっと待ってくださいます?」

 桃花先輩は何か案があるのかみんなを待つように言いどこかに電話をかけ始めた。

 その間にベガは旅行部の心配をして俺に話しかけてきたのだが美祢もその話に入ってきた。話に入ってきたのはいいのだが美祢の口調はベガとは対照的にまったく不安がなさそうに聞こえた。コイツ今どういう事態に置かれてるのかわかってるのかな?

 日田先輩と小森江先輩も今後の旅行部の心配をしている俺たちの会話に入ってきた。先輩二人はまぁなんとかなるというようなニュアンスで話してくれたのだが、先輩たちはゲリラ的な活動をやっていたから部室がなくても何とかなるのがわかっていてのことだろうと思ってしまった。

 そんな話をしていると桃花先輩の電話が終わったようで生き生きとしている。今度は何を始めるのやら。

「トモちゃんが家を使って良いって言ってますので今からレッツゴーですわ!」

 以前聞いたことがある『トモちゃん』という単語に俺は即座に反応しなければならなかった。

「先輩今誰と電話してたんですか? 俺の母親ですよね? 母親を下の名前で呼ぶのやめてくれませんか? というかなんで母親の電話番号を知ってるんですか」

 とにかく思っていることが口から流れるように出た。

「ノブくんが知らない間にわたくし遊びに行ってたりして……そしてノブくんがまだ寝ているお部屋に行って寝顔を見てたりして……」

 含み笑いをしながら俺の方をジロジロと見ている。遊びに来てはないだろうとは思うが桃花先輩ならやりかねないから怖い。

 美祢は元気良く『私も行くー』とはしゃいでいる。いつも思うが本当に人生楽しそうだな。

「彩耶乃何を言ってるんですの? みんなで行くんですのよ。レッツゴーですわ」



 たしかに俺の家は徒歩で行ける距離だがおかしい。なぜ俺の家なんだ。

 そんな事を考えていたら家についてしまった。

 そして盛大に元旅行部のメンバーを迎え入れる母親トモちゃんに俺は頭を抱えてしまい、そんな俺を哀れに見るベガと日田先輩だが慰めてもくれた。

 母親の歓迎中でもしっかりとカノジョ的な挨拶し、美祢はその後すぐに俺の部屋に直行。そしてすごい音が俺の部屋から聞こえる。いったい何をやってるんだ美祢は。

 音の正体はきっとベッドに飛び込んだ音だろう。美祢は俺のベッドの上に大の字になっている。

 桃花先輩だけは俺の部屋に来なくてリビングに一直線。また母親と遊ぶのか、本当に自由人だ。

 俺の部屋には取り残された元旅行部のメンバーが5人。俺が自分の机の椅子に、そして美祢とベガは俺のベッドに腰掛けて日田先輩と小森江先輩は地べたでくつろいでいる。残念ながら俺の部屋には座椅子はないしさすがに5人も部屋に入ると狭い。

 日田先輩はなぜ美祢を羨ましそうに見ているのだろうと疑問に思ったのだがすぐに気がついた。あぁベッドかと。先輩はどうしてそんなに眠りたいのですか。

 集まったのはいいけれど肝心の桃花先輩がこの場に居なくてどうしたらいいのだろうと考えてしまう。

 その時俺の部屋で旅行部の活動をしていくのかな? ということがふと頭をよぎった。

 俺の部屋で例のなんちゃって旅行をするということ……冷静に考えていると全身から変な汗が出始めた。

「城野どうしたの? あんた顔真っ青よ」

 俺は自分の意識を保つのに必死だった。あんな事を俺の部屋でやられたらたまったもんじゃない。部屋が滅茶苦茶になってしまう。そして俺のくつろぎの場もなくなってしまう。

「お飲み物をお持ちしましたわよ。ドアを開けてくださいます?」

 遠ざかる意識の中悪魔の……もとい桃花先輩の声が聞こえてきた。

 ドアの近くにいた日田先輩がドアを開けるとトレイを持って人数分の飲み物を持ってきた。両手がふさがっていたのでドアを開けられなかったようだ。

 俺の部屋にある小さなテーブルに人数分の飲み物を置き桃花先輩が手を叩いて、

「では始めますわよ」

 語尾に音符がつきそうなくらい楽しそうでウキウキな口調で始められたので即座に俺は口を出す。

「先輩、俺の部屋で旅行部の活動をするのはいいんですけど例のなんちゃって旅行は無理ですからね? 先に言っておきますよ!」

 俺の言葉に桃花先輩はすごく驚いた顔になった。まさに唖然という感じだ。

 そして唖然として言葉を失っている桃花先輩よりも先に美祢が反応をした。

「それ面白そうだからやろうやろう! 私プールがいい! プールプール!」

 ピュアに反応する美祢に俺は否定の言葉を投げつけなくてはならない。なぜなら俺はなんちゃって旅行は無理だと言ったからだ。

「なんでチョイスがプールなんだ、プールなら市民プールにでも行けよ。俺は今無理だって言っただろ? ニホンゴワカラナインデスカ?」

 最後はカタコトにしてふざけたのだが美祢には何の効果もなかった。

「冬なのにプールに入ることができるのが旅行部だよ」

 何の疑いもなく当たり前のように喋る美祢。どうやら夏休みにスキー……あれもスキーではないのだが、その体験をしたことで旅行部は何でもできると思ってしまっているのではないだろうか。

 そんな俺と美祢のやり取りを見ていた桃花先輩の表情が変わっていく。唖然としていた表情がだんだんと嬉しそうな顔に。そして俺は桃花先輩とは反対に不安になっていく。

「彩耶乃、素晴らしいですわ。その考えは全くなかったですわ。でもそうしてしまうと旅行部を復活させなくて良くなってしまいますわ。今日は旅行部復活の為にどうするかということを考えるためにトモちゃんに許可をもらって集まったんですのよ。彩耶乃の考えた楽しそうな事はまた今度にしますわ」

 俺の部屋なのに俺の許可は無しなのかよというツッコミは置いとくしかないのだろう。なぜならば桃花先輩はさもわたくしの家にようこそ状態でお招きしましたわ! という雰囲気で語っている。

 あと楽しそうな事はまた今度なんて恐ろしいことも言っている。これは全力で拒否しないといけない。

「そんな桃ちゃんは何かいいアイディアでもあるの?」

 俺からしたら桃花先輩のアイディアなんてほとんど恐ろしいものになってしまう。

「それをみんなで意見し合うのですわよ」

 その言葉に少しホッとする俺と桃花のアイディアだけでなく旅行部メンバーのアイディアなんてたいてい恐ろしいだろという俺がいた。

 桃花先輩がいきなり丸投げしたので部屋は沈黙となり意見を出し合おうと言った言いだしっぺは部屋から出ていく始末。

「わたくしが戻ってきた時になにか意見をお願いしますわ。わたくしも一応考えてますのよ」

 こんなセリフを残して再びトモちゃんこと俺の母親のもとへ旅立ってしまった。廊下を軽く走るタタタという音を立てながら。

 俺が呆れていると小森江先輩が沈黙を破ってくれた。

「まぁ桃ちゃんだからしょうがないよね。でも部を復活させることとなれば難しいよね。だって会長と学校側が一回廃部にした部をすぐに復活させるなんて普通に考えて難しいでしょ?」

 僕が会長だったらそんなことできないしと続けた。言葉だけを聞くと無理としか聞こえなかったが、口調は諦めているとかそんな感じは無い気がした。

「ということは旅行部復活は無理ってこと?」

 ベガが直球で小森江先輩に聞き返し話し合いっぽくなってきた。

「旅行部ならね?」

「それはどういうことです?」

 やはり小森江先輩には何か考えがありそうだ。思わずすぐに聞き返してしまったが。

「旅行部じゃないとやだー」

 結構真面目な話し合いになってきそうだったが美祢の間抜けな言葉で空気が一気に崩れたような気がした。

 俺が聞き返し美祢が間抜けな言葉を発して慌て出す先輩。

「待って待って。ちょっといっぺんに言わないでよ」

 一旦俺たちの言葉を止めて再び話し始める。きっと小森江先輩の中ではもう何かしっかりとした案があるのだろう。

「えっとね、旅行部が無理なら別の部にしちゃえってこともあるんじゃないかなと。つまり旅行部を無理やり復活させようってことでなくて|今と同じようなこと《》・・・・・・・・・ができればいいんじゃないかということ」

 俺はなんとなく理解できたのだが美祢とベガは首をかしげていた。しかも二人共同じ方向にかしげていたので思わず笑ってしまった。そして俺は別のことが頭をよぎった。

「もしかして承認される前までのゲリラ的な活動って小森江先輩の主導ですか?」

「秘密だよ城野くん」

 なんでそこを隠すのかはわからなかったが、隠すことを楽しんでいるようにも思えたので深くは追求しない。それよりも美祢とベガが小森江先輩の言ってることがわかってないようなので二人で説明していった。

 それでも美祢は旅行部じゃないっていうところの意味がわかってないのかやたらと旅行部にこだわっていた。

「私は旅行部じゃないとやだよ。だって私旅行部だもん!」

 さっきからずっとこれだ。ベガはわりと理解したようで何度も頷いて俺たち側に回り美祢の説得に協力している。

「違うの! だってそれだったら今と同じだよ。新しくなった何とか部もきっと同じようなことになっちゃうっていうこと!」

 どうやら美祢は伝えたい事を上手く言えないようだが今の言葉でなんとなくわかった。それは小森江先輩も同じようだ。

 美祢はたまに鋭いことを指摘する。テストでは赤点だらけのくせに。

「開けてくださいます?」

 せっかく話し合いが白熱していたのに桃花先輩が戻ってきて中断される。

 再び桃花先輩がトレイにお昼ご飯とコーヒーを持ってきた。食事を見てお腹が減ってきた。

 人間の感覚なんていい加減だよなと思ってしまう。さっきまで話し合いに白熱しててお腹が減ってることなんて忘れていたのに見ると空腹を思い出すんだもんな。

 それよりもさっきから桃花先輩がいろいろと持ってきているがここって俺の家だよな? なんで桃花先輩がいろいろと振舞っているんだ?

「さてさて、何か案が出ましたかしら? わたくしは旅行部復活が難しければ名前を変えてしまえば」

 桃花先輩が言い終わる前に美祢が興奮気味に割り込んでいった。

「おねーちゃんさっきの話し聞いてなかったの? それじゃダメって言ってたじゃない」

 突然美祢に割り込まれて混乱している桃花先輩。そりゃそうだ桃花先輩はさっきまでの話を聞いてなかったんだから。

「桃花先輩はさっきまでいなかっただろ」

「あれ? あれ? あっ! そっか! でも。あれ? なんで?」

 美祢は納得しつつも混乱している。全く同じアイディアを出してきたのだから美祢がそう言いたくなるのもわからなくもない。

 この人たちはどうして揃いも揃ってこう言う考え方が出るのだろう? もしかしてゲリラ的な活動って小森江先輩主導だけじゃなかったりするのかな?

 結局部の名前を変えるということ以外のたいした案が出ずにご飯を食べてしまった元旅行部の面々はだらだらと過ごしいつもの旅行部の活動みたいだったんだけど、さっきから日田先輩が全く動かないし存在感も無い。ずっと静かだったから目を開けたまま寝てるのかなと思ったら目すら開いてなかった。


読んでいただいてありがとうございます。

ようやく時間を取ってしっかり書くことができました。

旅行部復活への道が始まりますがまぁ旅行部は旅行部です。

旅行部は旅行部らしく復活するのでしょうか。

のんびりとのんびりと。ではまた来週。。。

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