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第38話

 部活の活動内容を提出してから数日、旅行部は生徒会の動きを気にしていたのだが、廃部宣言や部室を使用禁止になるようなこともなく何事もない日々が続いていた。

 本日も旅行部通常営業の普通のおしゃべり会を繰り広げていたところに部室のドアがノックされた。

 ノックされた瞬間部室に緊張が走る。そうこんな風にノックをする人は先生か生徒会長くらいしかいないからだ。

 そしてノックの犯人は残念ながら生徒会長だった。

 俺は生徒会長の顔を見るなり不安が色々と溢れ出してきた。別に忘れてたわけじゃない、そう部屋の掃除で言う見えないところに隠していた、つまり現実逃避していたところで現実を突きつけられて不安になってきたのだ。

「失礼しますね。遠賀さんは……いらっしゃいますね」

 生徒会長は言いながら周りを見渡す動作をして先輩を発見したようだ。明らかにわざとらしい。別に大きな広間に何十人もいる状況ではなくてこんな小さな部室だから入った瞬間先輩のことは目に入っていただろう。

「なんでしょうかしら?」

 きっと何の事を言われるか分かっていただろうが、桃花先輩もあきらかに一応という風な分かるトーンの口調で聞き返していた。

 そのあきらかな反応を見て淡々と会長が口を開く。

 部室の中は普段周りの音がうるさいくらい聞こえるこのショボイ作りのプレハブ小屋の部室だが、今は別世界に居るくらい静まり返っているような気がしていた。それだけ生徒会長の言葉に集中したいたのかもしれない。

「先日の部活動の報告を拝見させていただきました。そして生徒会で検討させていただきました結果、非常に申しにくいのですが旅行部は廃部ということになりました。この結果は先生たちの意見も含まれての結果となりますので正式に廃部ということになりました」

 非常に申しにくいと言いつつも会長はまるで暗記していたセリフのように淡々としゃべり続けたので全くと言っていいほど申し訳なさはコチラに伝わって来なかった。

 俺の頭は今言われたことをとりあえず言葉として理解しているだけのようで、感情も何も湧いてこなかった。かと言ってパニックになっているわけでもないと思う。

 ただ何も考えられない、頭が働いてない感じだ。

 みんなも俺と同じなのか黙ったまま立ち尽くしていたり俯いてたりただただ沈黙が部室を支配したままだ。

 そんな状況の中で桃花先輩が沈黙を破った。

「仕方ないですわね」

 何の感情も読み取れなくて、ただ一言だけ呟いた。

 その言葉に俺はがっかりして感情だけが先行し言葉だけが口から出ていった。

「先輩なんでそんなに普通に受け入れてるんですか? 旅行部なくなっちゃうんですよ? 困らないんですか? それでいいんですか?」

 何も考えずに出た……いや意識はしてなくても頭の中ではこういうことを考えていたかもしれない言葉は大きな声で強い口調になっていた。

「どうして廃部なんですか? 旅行部を承認したのも会長ですよね? 活動内容がこういう活動が主になるってわからなかったんですか? どうしてそれで承認したんですか? 承認しておいてやっぱり廃部ですか? どうしてですか?」

 ただ感情のまま会長にも強い口調で質問攻めをしていた。

 俺のただただ感情的な質問攻めにも表情を一つも変えなかった会長。

「この活動が当たり前というのはそちらの勝手な考え方なのではないですか? もっと他の活動のやり方もあったのではないですか? ほかの部活動も普段は練習をしてますけど目的の為に練習してます。その中で責任感を養ったり連帯感を身につけたり心身の鍛錬をはかったり高い技術の向上を目指すという目的があるんですよ。旅行部の活動で何か養われることがありますか? 学校の部活動なのですから、ただのお遊び活動であれば学校の外ででもできるでしょう? そう、旅行という活動だけならば部活動でなくて休日に勝手に好きなだけ行けばいいじゃないですか。私何かおかしな事言ってますか?」

 しゃべり続ける会長の口調があまりにも淡々としすぎていて威圧的に感じてきた。

 言ってることは分かるし、なんとか科学省とかの部活動要項みたいなことろに書いてそうな難しい言葉も並べられて何も言い返せない。

 こちら側は『じゃあ』とか、『なんで』とか? 『そんなかたいこと』とかいう具体性のないただの不満ばかりが募る。

 沈黙が続いたところを見計らい再び会長が口を開いた。先ほどと同じ口調のトーンで。

「それでは今週中に部室の物を片付けてくださいね。カギは最終的に志井先生に返却して頂ければわかるようになってますのでよろしくお願いしますね」

 そこまで言うと俺たちの反応すら見ず早々と部室を後にした。

 廃部の警告から結局1度も顔を出さなかったゆかり先輩が頭に浮かんだ。ゆかり先輩はこのまま旅行部辞めちゃうってことなのかな? バイトも忙しいだろうし……なんせ生徒会のメンバーだし。

「廃部宣告をされてしまいましたわね。そして部室も使えなくなりますわね。この荷物どうしようかしら」

 力なく笑いながら自虐のように言い始めた桃花先輩。まぁこの部室の荷物のほとんどは旅行部のために購入した桃花先輩の私物だ。

 無理に笑っているのが分かりきってて見ているこっちが辛くなる。いつもの強気な桃花先輩はどこに行っちゃったんですか?

「とりあえず片付けるか。外に運ぶんじゃなくて部室の中をとりあえず片付けようぜ」

 日田先輩もこの重い空気が耐えられなかったのかいつもは漫画ばかり読んでいるのだが喋ったり片付けようといろいろと動いている。

 そんな日田先輩を見てそれぞれが少しずつ動き始めたところで再び部室のドアがノックされみんなピクリと動きが止まり一瞬にして静まり返ってしまう。

 だが今回のノックはこちらの返事も待たずに勢いよく開いた。

「あら? あなたたちやけに素直に片付けてるのね。まぁ夏休みの花火がバレてしまった時点で相当厳しい状況だったし、私も始末書を書かされたんだけどね」

 先生も入ってきていきなり自虐をかましながら、そして笑いながら話し始めてしまった。どうしてみんなこんな時だけ自虐し無理に笑おうとするのだろう。無理に元気を見せようとしているのが見え見えなのが辛くなっていく。

「もう廃部宣告されましたからどうしようもありませんわ。先生の化学準備室でも使わせてもらおうかしら」

 桃花先輩も再び無理に笑わせようとしているようにしか思えない。言葉選びはいつもと同じようなのだが声のトーンが低くてまさに落ち込んでいるという風にしか聞こえない。

「それは難しいというか無理だから本当にやめて。それよりもワンパクオジョーがこんなにあっさりと諦めるとは思わなかったんだけど……」

「だからワンパクオジョーって言わないでくださいます?」

 いつものやりとりなのだが桃花先輩に全く力がなくて先生も複雑な表情を浮かべている。

 こんなに落ち込んでいる桃花先輩を初めて見てしまったので俺はどうしていいか全くわからない。なんとか方法がないかとあれこれ考えてみた。少し冷静さを取り戻した俺としてはこのまま廃部なんて納得いかないという気持ちがどんどん湧いてきているからだ。

「そういえば先輩、部室がなかったことろも旅行部はあった……というか活動はしてたんですよね? その状況に戻ったと思えば活動はできるんじゃないですか? そしてまた承認されるのを待つか俺たちが入る前のゲリラ的な旅行部でも旅行部がなくなるよりはいいと思いますよ」

 あまり目立ちたくない俺の気持ちとしてはゲリラ的な活動は勘弁なのだがなくなるんだったらそういう活動でもいい。だって俺はもう旅行部の人間だしなんだかんだ言ってこの空間が好きなのかもしれない。

 だがゲリラ的な活動の時もこの部室を使っていて、ゆかり先輩が使わせてくれていた事を教えてくれた。そしてあまりゆかり先輩に迷惑をかけれないことを桃花先輩が一つ一つ思い出を思い出すかのように説明してくれた。

 片付け始めたのはおそらくこの部室は使えなくなると思ったからだと話してくれた。

 そして俺やベガ、美祢が入って来たので先輩たちだけの旅行部じゃないという事を実は話しあってたらしくて、好き勝手にやる滅茶苦茶な旅行部は卒業したという事実を話してくれた。

 どうにも先輩は旅行部を終わらせようとしているようにしか思えない。

 先輩は身近なところを片付けながらそして溜息をついて独り言のように喋る。

「廃部宣言をされたのに……部室の片付けをしているのに何か全くと言っていいほど現実味が無いように感じるわたくしはおかしいのかしら? 部屋の片付けまでし始めると現実味を帯びると思ったんでのにね……」

 桃花先輩は混乱しているのかぼそぼそと小さな声で独り言を呟くのだが部室が静まり返っているので聞こえてしまう。もしかしたら聞こえるように言ってるのかもしれない。

「それっておねーちゃんが廃部したと思ってないからじゃないの? おねーちゃんはどうしたいの? 私はみんなでもっと遊びたい!」

 その言葉を聞いた桃花先輩は美祢を強く睨んだ。姉妹の設定とか関係ない遠賀桃花と美祢彩耶乃という他人の、二人の見たことのない関係の風景だった。

 美祢なりに何かを伝えたかったのだろう。部活じゃなくて遊びたいという表現はいかにも美祢らしいなと思ったが。

 桃花先輩もぶつぶつうと小さな声で『遊ぶだけなら部活じゃなくてもって先程も生徒会長が~』とか『旅行部じゃなくても別に彩耶乃はノブくんと遊べばいいでしょ~』とか呪文のようにいろいろとつぶやいている。

「ねぇおねーちゃんこのまま私と遊べなくなったり、城野くんと遊べなくなったり、茶山さんと遊べなくなったりしたら寂しくないの? おねーちゃんの作った旅行部がなかったら出会ってなかったんだよ? 来年も1年生がまた入ってきたらもっと楽しくなるはずだよ?」

 美祢のいつになく真面目な言葉にみんなが聞き入り黙ってしまう。美祢って実は頭がいいのか? それともこう言う追い込まれた場面に強いのか? でもテストで追い込まれても赤点取るくらいだからな。入学して半年ほど経つが美祢彩耶乃っていう人物が未だによくわからない。

 そんな美祢の真面目な言葉なのか苦し紛れの言葉なのかはわからないが、その言葉を聞いた桃花先輩が机を両手で叩いた。大きな音がしたので力を入れて叩いたのだろう。

「そうですわよね! 旅行部はなくさせませんわ。なにか方法を……それにこのまま旅行部がなくなれば負けっぱなしですわ。そんなこと許されませんわ!」

 今までの力のない言葉ではなく、明らかに桃花先輩(・・・・)の言葉だった。

 その言葉に小森江先輩も反応した。

「またさ、承認されなかった時みたいにやろうよ。きっと城野くんたちも楽しくやってくれるよ。だってそれがももちゃんの作った旅行部だし」

 小森江先輩の言葉を聞いて美祢は桃花先輩と力強く盛り上がり、ベガはあの悪ノリが嫌なのかちょっと青ざめた表情に見える。正直言えば俺もあまり気乗りはしないけどこうなったらとことん旅行部で楽しむつもりでもある。

「ま、あなた達がまたあなた達らしく活動するのであれば応援するわ。元気出て良かったわ。私が顧問で旅行部潰れてワンパクオジョーが元気なくなったままじゃ後味悪いしね。じゃあ片付いたら鍵返しに来てね」

 先生はそう言ってドアノブを回して部室をあとにする。

「先生、ワンパクオジョーはやめてほしいですわ。それと、どこの顧問にもならないでいて欲しいですわ」

 そう言って、先生を一瞬引き止めた。先生はドアノブに手を置いたまま桃花先輩の方をを向いて、

「わかった。待ってるわ」

 それだけ言って先生は今度こそドアを開けて部室をあとにした。

 先生がドアを開けた時に誰かが物凄い勢いで走っていくのが見えた気がした。別に部室棟だからいろんな人がいるはずなのに何故か気になった。

読んでいただいてありがとうございます。

今回はあまりコメディチックではなく暗めなお話になってしまいました。

なるべく早く暗いお話は脱出しようと思ってますので宜しければお付き合いください。

ではまた来週。。。

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