第36話
夏休みが終わり今日から心機一転2学期が始まったのだが旅行部は絶賛通常営業とのことだ。
今は始業式後のホームルームを終えて俺の後ろの奴とお喋りをしていたところだったのだ。
「城野くん聞いたよ。また旅行部面白い事してたんだってね。学校でキャンプって聞いたときは斬新過ぎてボクびっくりしちゃったよ」
そう、キャンプの噂は結構広がっているみたいで『また旅行部が~』といういつものフレーズがいろいろと聞こえてくるのだ。
そのキャンプの最後にどうやら俺は電池切れを起こしていたみたいで花火の途中だというのに眠ってしまっていたそうだ。
俺自身もまさか花火の途中で寝てしまうとは思わなくて、次の日テントの中で目覚めて自分の状況が分からずにパニックになってみんなに笑わたという、夏休み最後の思い出は恥ずかしいものになってしまったのだ。
俺の恥ずかしい部分の噂は今日の時点では聞こえてこなかったので、広まっていないようで一安心だったのだがまぁ旅行部メンバーには弄られた。当たり前だが。
今日もまた弄られるのかなと思っていたのだが美祢は積極的に絡んでこなかったので逆に怖くて警戒してしまう。
「城野くん部活いこー」
俺に美祢からお呼びがかかると俺の後ろの奴は『では邪魔者は消えるとしますか』というセリフを残して帰って行った。
そのまま俺は4組にベガを迎えに行こうとしたら美祢と二手に分かれる格好になってしまった。
「あれ? どこ行くの?」
「いや、ベガも一緒に行こうかと」
「そだねー」
美祢は早く部室に行きたかったのか、それともベガのことは頭になかったのか部室に直行しようとしていたらしい。
4組のホームルームが終わるまで待ち3人で部室に向かった。
「おつかれさまでーす」
「お疲れ様ですわ」
部室に行くと早速桃花先輩がテーブルを出して何かの準備をしていた。いつも桃花先輩って早くから部室に居ることが気になった。
「桃花先輩て結構学校に居る時は部室に来るの早いですよね? ホームルームちゃんと出てます?」
「失礼ですわね。ちゃんと出てますわよ。わたくしの準備が早いからすぐ来れるんですのよ。そんなことよりもお腹が空きません? みんなで昼食にしましょう」
そういいながら嬉しそうに出前のメニューを取り出す桃花先輩。先生に怒られた事を全然気にしてないのは流石だ。
「前怒られたのに大丈夫なんですか?」
「ピザじゃないから大丈夫ってことで。外に買いに行くのは面倒ですわ。ノブくんと彩耶乃が買って来てくれるのだらお任せしますけど」
「やだー外暑い……あれ? そういえば部室涼しい!」
美祢に言われて気が付いた。そういえばあのジメジメして蒸し風呂のような灼熱地獄の部室じゃなくなってる。
「彩耶乃さすがですわ。そうなのですわ、冷たい風が出る扇風機と除湿器を投入しましたのよ。これで旅行部の部室はジメジメもしないですし涼しい風が吹きますから以前よりは快適になりましてよ」
周りを見るとまた部室の中がごちゃついているのに気が付いた。これでまたスキー旅行みたいなことをすると確実に壊れそうなものがちらほらと増えている。
ゆかり先輩以外が全員集合し蕎麦屋の出前を頼み、到着を待つ間に桃花先輩が2学期のことを楽しそうに喋っている。
体育祭に生徒会選挙に文化祭と大きな行事も多くて旅行部創設1周年もあるそうだ。
正式に部になったのは今年の4月だが部が誕生したのは去年と桃花先輩は言い張っているからそういうことらしい。
「やっぱりメインは文化祭なんですか?」
俺とベガが釣られてしまった文化祭だ。やはりベガも気になるのだろう。
「何を言いますの? 体育祭も文化祭も同じように楽しみますわ! だってお祭りなんですのよ」
いきなり立ち上がってからの発言に、
「でもおねーちゃん体育祭って旅行部何かできるの?」
「何を言います? お祭りだから楽しみに決まってますわ!」
即答でその自信満々の答えでこのセリフである。答えには全くと言っていいほどなっていない。
俺はてっきり『部活対抗リレーで優勝しますわ』くら言うのかと思ったのだがそうではなくてただお祭りだから楽しむという理由らしい。俺にはお祭りだから楽しみというのはよくわからないのだが桃花先輩はそういう理由で楽しみなのだろう。
「文化祭では何するんですか?」
「それはもう去年よりもっと美味しい焼きそばとインチキなジュースを売りますわよ!」
これまた即答であったがこちらはもう頭の中で何をするか決まっているらしい。
「インチキなジュースって何?」
ベガも俺と同じところが気になったらしい。去年の文化祭で焼きそばは見たのだがインチキなジュースなんて売ってたかな? と頭の中の記憶を探るが残念ながらほとんど記憶が残っていなくて取り出せなかった。俺の脳のキャパシティだからしょうがない。
「粉を溶かして作るジュースですわ。あれはびっくりするほど変な味がするんですの」
ドヤ顔であんなこと言ってるがそんなものを平気で売っていいのだろうか? まぁお祭りだからみんなノリで買っていくのだろうが。
美祢も変なお菓子を探すと張り切り始めてしまった。
桃花先輩がみんなと楽しみたいからみんなでアイディアを出しましょうと言ったところで部室のドアがノックされるた。出前が来たのかな?
「はいですわー」
桃花先輩も同じことを考えたのか財布をもって出前を出迎える体制の様だ。
「ワーンパークーオジョーーーー」
しかし扉の外から現れたのは前回の出前の時と同じく先生だった。まぁやっぱりそうなるよな。
「出前を頼んだらダメだって言ったでしょ?」
先生は桃花先輩を怒りつつもちゃんと出前は持ってきてくれていた。
桃花先輩はワンパクオジョーと言われたことが恥ずかしかったのか先生を怒りつつもテーブルを整え先生はテーブルの上に食事を置いていく。
みんなの食事が並ぶと先生はため息をつきながら部室を後にしていく姿を見て、先生も大変だなと。
食事を始めるといきなり桃花先輩の口撃が始まった。
「そうそう、ノブくん花火しながら寝ちゃうんですもの。あの時はびっくりしましたわ。わたくしノブくんが気分でも悪くなって倒れたのかと思いましたわ」
今日全く触れられていなくてすっかり忘れていたがここで弄られるのか。
「そうそう、私が話しかけても何も言わないからいつもみたいに無視してるのかと思ったんだから」
それはどうなんだ美祢。俺、そんなに美祢を無視して……いるときもあるかもしれないな。今度からはなるべく相手してやらないとな。
キャンプの日は早く目覚めてたしきっと俺も眠かったのだろう。あんな感じに眠くなったのは初めてかもしれないし、それだけにとっても恥ずかしかった。それに次の日テントから出るのが特に恥ずかしかったし、テントから出るとみんなにクスクス笑われる始末だったし。
こうしてみんなのキャンプの思い出、主に俺をいじっているのだが俺自身も意外と楽しい思い出だったことを実感する。
キャンプの話で盛り上がっていると再びドアがノックされた。出前の残りでもあったのかな? と思って俺がドアを開けるとそこには知らない女子が3人とゆかり先輩が居たが、ゆかり先輩はずっと下を向いたままで表情がよく見えなかった。だがあまりいいようには見えないので何かあったのだろうかと考えた。
「失礼します旅行部さん。私は3年1組で生徒会長の烏丸です。旅行部さんに警告に参りました」
「これは生徒会長さんがわざわざ旅行部に何のようですか?」
俺が生徒会長と会話を始めた時に桃花先輩はすでに立ち上がっていたのが目に入った。
「まずは旅行部の皆さんに質問です。あなたたちは今年正式な部活に承認されてから何かしましたか?」
生徒会長の質問で言いたいことがなんとなくわかってきた。これは不味いことになるのか?
「部室で旅行をしてましたわ。とっても楽しいですわ」
やや早口で声はいつもより大きめで喋っていたのもあるけれどトゲトゲしく聞こえた。いや、攻撃的な口調なのは間違いないのだと思う。
しかし生徒会長は表情を全く変えることなく会話を続ける。
「それはよかったです。しかしただのお遊び部活ならば廃部とさせていただくことになりました。夏休みの件のこともありますし」
廃部という言葉が聞こえてとっさに俺は口を出してしまった。
「ちょっと待ってください! 廃部って俺たち普通に部活してるだけなんですけど廃部ってどういうことですか?」
美祢も『どういうこと? 何で?』と小さく呟いているが、それ以上にキレそうなベガの腕を掴んで止めているようにも見えた。
「普通に活動? まぁ今までたいした活動をしていなかったのはおおめに見るとしましても、今回の夏休みの件はちょっと普通じゃないですけれど? ね、四辻さん」
名前を言われて俯いたままのゆかり先輩が小さく頷いている。
「屋上で花火をしたという報告が上がってますし、そのゴミが放置されていて燃えかすが残っていて問題になっています。さらに夜の学校に忍び込んで」
「ちょっと待って下さいます? 夜の学校は許可をとってましたわ!」
桃花先輩はたまらず生徒会長の会話を遮り夜の学校の件を否定した。
生徒会長は顔色を変えずに咳払いを1回して再びゆっくりと喋り始める。
「許可はとっていたみたいですね。しかし教室に侵入することは許可されてないはずのようでしたが? それに特別教室が荒らされていて問題になりました。それに夜の学校は許可をとっていたようですが屋上の花火の件はどうなのですか?」
話の流れがスムーズ過ぎてわざと生徒会長がこういう方向に会話に持っていったように見えたし、生徒会長の言葉の圧力がすごくて旅行部のみんなは黙ってしまった。
「それに部になる前からここの部室をずっと使っていましたよね? まぁそこは私も見逃していたといえばそうなりますのであまり攻めるつもりはありませんが、今回の件は警告ですので改めてちゃんとした活動方針をまとめて提出していれば存続を認めようと思っていますので、来週の週末までに活動方針の提出をお願いします」
それだけ言うと生徒会の人々は部室を後にした。
最後に青ざめたゆかり先輩の口がゴメンナサイと言っているように見えた。
ゆかり先輩だけが悪いわけじゃないのだけれど生徒会長に質問攻めにあっていろいろと喋らされたのだろう。
生徒会が去ったあとにどうなるのかと思ったのだが桃花先輩が真っ先に喋り始めた。
「これは廃部の危機ですわね! そして生徒会長がこの旅行部のことが嫌いで廃部にしようというシチュエーションですわね!」
この空気でこの言葉はどういうことなのだろう? 重い空気を跳ね除けるためなのか、それとも本当にそう思っているのか、
「おねーちゃん私どうしたらいいの? あの会長さんやっつければいいの?」
美祢も混乱しているのか変なことを言い出した。いや、美祢が変なことをいうのはいつも通りか。「ねぇ、廃部になったら何か変わるの? 別にここに集まってダラダラ喋ってるだけだし部費だってもらってないんでしょ?」
「そうですわね。しかし廃部になると今までみたいにここを使えなくなるかもしれないですわ。目をつけられていたみたいですし、ゆかちゃんが使わせてくれていたのを問題にしてくるかもしれないですわ。ゆかちゃんには迷惑をかけられないですわ。まぁその時はノブくんの家にでも集まりますから大丈夫ですわ」
「なんで急に俺の家が出てくるんですか」
美祢が一人で喜び始めたのだが、あまり危機感を持っているように見えないし、本音を言えばさっきのベガの言葉じゃないけれど部費をもらってないみたいなので本当に廃部になんてなるんだろうか?
実は廃部という警告を受けたのだが旅行部自体あまりピンと来てないような気がしているのは俺だけが感じているわけではなさそうだった。
今回もちょっぴり長くなってしまいましたが読んでいただいてありがとうございます。
いろいろなことが始まる春です。
モータースポーツも野球も始まり個人的にいろいろと観戦が忙しくなります。
主にテレビでですが。。。
旅行部も廃部の危機なんてなってますが旅行部らしく?解決するのでしょうかね(笑)
ではまた来週。。。




