第29話
俺は今非常に混乱している。
先日の雪山旅行の影響がないとは言えない。あの旅行はとても酷かったし俺の体にも少なからずダメージが残っていると思う。
実際に今、非常に体が怠くて夏休みをあまり楽しめていない状態だ。
そんなことよりも今混乱しているというのは俺に届いた1通のメールだ。
『暇だから遊ぼう』
たった1行のメールが届いたのだ。
一応言っておくがこのメールはチェーンメールや出会い系ではなくて、ちゃんと俺の携帯電話に登録された人物から送られている。
いかにもな内容のメールを見て俺はため息しか出ない。
このメールに対してどう返信しようかと悩んでいたら再び携帯電話が震えメールが届いたことを知らせてきた。
『私からメールが来てドキドキした?』
真面目に返信を考えていた自分がアホらしくなって携帯電話を机の上に放置した。
その後も何度か携帯電話が震えていたがどうせ美祢だろうと思い無視することにした。どうせ大した内容じゃないだろうし、内容自体があんな内容だったしきっと美祢が暇だから勝手に遊んでいるんだろう。
読みかけの漫画の続きに手を伸ばしながらも美祢のことを考えてしまった自分が悔しい。
よく考えたら学校関係以外で美祢と喋ったことが無ければもちろん会ったこともないということが頭に浮かんだ。
一応学校の外で会ったことはあるが、あれは勉強という名目だったし試験前や補習の帰りや合間にファミレスに寄って勉強をしただけで、休日にわざわざ連絡しあってどこで待ち合わせしてどこで遊ぼうとかいうカップルがやってそうなことは一切やったことが無かった。
それと同時に美祢の私服って見たことがないことを思い出す。
そのことをきっかけにいろんなことを想像してしまった。
美祢と二人でどこかに遊びに行くこと。正直疲れそうだよな。アイツ普段から何考えてるのか全く分からないし。
次に美祢とイチャイチャする自分。うんないな。美祢とイチャイチャってどうやったらそんな状況になるのか教えてほしい。
いや、別に俺が美祢とイチャイチャしたいわけではない。それだけは断言できる。
だがカップルってみんなイチャイチャしてるもんだろ? そうじゃないのか?
さすが俺と美祢は設定カップルだなと、何かそんなことを考えていたら頭が痛くなって来たし寒気もする気がするのであまり考えるのは無しにする。きっと体も美祢とのそんなことを想像するなと言っているのだろう。
まぁ家で今日はゆっくりするとしよう。せっかくの夏休みだから全力疾走で楽しむ日もあればゆっくりする日があってもいいじゃないか。
俺はもっぱら全力疾走何てする日は無いのだけどね。
一人でクスクスと笑い再び読みかけの漫画のページをめくり始めた時にはもう美祢のことは頭にはなかった。
漫画を読んでいる途中に眠ってしまっていたのか連続で鳴らされるチャイムで飛び起きてしまった。
現在進行形で家のチャイムが鳴らされているのだが、家には誰も居ないのか仕方なく俺はチャイムを連続で鳴らしている犯人を確認する為に玄関に向かう。
「はいはい」
どうせ近所の小学生がイタズラでもしているんだろうと思い適当な返事で玄関のドアを開けると美祢が居た。
状況がわからずに一瞬でドアを閉めてしまったのだがあれは美祢だよな? なぜ美祢が俺の家に?
何かすげー可愛い服着てた女の人が家の前に立ってたけどどう考えてもあれは美祢だよな?
その前になぜ美祢は俺の家を知っているんだ?
「もーひどいよ城野くん。メール無視するなんて」
ドア越しの美祢の言葉でそういえば美祢からメールが来ていたことを思い出したし、あの後何度か携帯電話が震えていたこともついでに思い出した。
俺は冷静にはなっていなかったが、とりあえず閉めたドアを開けると美祢が律儀にドアの前で大人しく待っていてすぐに反応してくれた。
「見て見て、新しい服買ったんだよ! 見て見て城野くんに一番に見てほしかったんだ」
ちょっと美祢のセリフがカップルっぽいなと完全に他人事のように感じてしまうのは例の設定のせいなんだろう。
俺がそんなことを考えている間に美祢はくるりと一回転してスカートをひらひらさせていた。ひらひらしたスカートから覗く足がスラリと伸びていてドキっとしてしまったのは秘密だ。
「いや、お前の私服を今まで一回も見たことがないから今日初めてお前に私服見るんだけど……」
「あっ! そっかー。まあいいや、それよりも暇だから遊びに行こうよー」
あっそっかーがどういう意味の返事なのかがやっぱりわからなかったし強引に腕を引っ張られて外に連れ出されそうになる。
俺が美祢の姿にドキッとしてしまったことはたぶん美祢には伝わってないだろう。別にごまかすつもりはないのだが素直に美祢にドキッとした自分を認めるのも嫌だったし美祢に知られるのはもっと嫌だった。なんか負けた気がするんだ。何に負けたかはわからないのだが。
引っ張られると雪山旅行を思い出しそうで頭が痛くなる。ドア越しに引っ張られる行為は俺の体が悪夢を蘇らせてしまうようだ。
「ちょっと待て、いろいろ言いたいこととか聞きたいことがあるけどとりあえず腕を引っ張るな。俺はまだ服も着替えてないんだから」
そう言って強引にいっぱる美祢をいったん落ち着かせようと思ったがあまり効果は無いようで、
「それパジャマ? ねぇそれパジャマ?」
コイツのどこにテンションが上がるスイッチがあるのかが全く分からない。なぜパジャマでテンションが上がるのだろう?
「パジャマじゃねーよ! まぁ部屋着だけど、ちょっと待ってろ」
俺は着替えてくるから待ってろっという意味で言って部屋に戻ろうとしたのだが、残念なことに美祢には全く通じていなかったのか当たり前のように俺の部屋に入って来た。
「なんで入って来ちゃったんだよ。待ってろって言っただろ」
「えーなんでカノジョが部屋に入ったらダメなの? 城野くんのいじわるー」
あぁ頭痛い……
とりあえず早くどこかへ行かないといけないな。コイツは家に居たら何をしでかすか予想もつかないからな。
そう思って着替え始めたのだが物凄く視線を感じる。こんなこと初めてなのだが人に見られてるっていうのを物凄く体感している。それくらい強い視線ってことだ。
ゆっくりと後ろを見ると美祢がなぜか正座してじっと俺を見ていた。もうそれはものすごい直視! まさに直視という形で一直線で俺しか見てなかった。ちょっと怖いぞ美祢。
視線の犯人は一人しか居ないのでわかっていたが、何故そんなにじっと見ているんだ? そして何故正座しているのだ? やっぱりわからん。こいつが何を考えて行動しているのかも。
美祢と目が合うと俯いた。目線を逸らしたとかではなく明らかに俯いた。
「見ないから。絶対見ないから!」
いや、お前見てただろ? っていうかそのセリフって男が女の子の部屋に入って言うセリフだろ……と思ったがそうでもないな。だって着替えてる人の部屋に入ることは無いだろう。
着替え終わりさっさと家の外に出たのだがいきなり腕を取られ組まされた。
まだ俺の家の近所だから結構これは恥ずかしいのだけれどな。ご近所さんとかに見られてたら家族とかにも何か言われたら面倒だなとか考えてしまう。
この状況はどう考えてもカップルだけど実際は設定っていうだけで別にカップルってわけじゃないんです! なんて言って説明しても『あぁ何恥ずかしがってんのこの子は』とかうちの母親は言いそうだ。頭痛いわ。
それからずっと何も考えずにただひたすら歩いていたのでそろそろどこに行くのかを確認しないとな。
ゴールが見えないというのは結構精神的に疲れるものだしな。
何故か美祢はずっと黙ってしまうし……
「いったい俺たちはどこに向かってるんだ?」
「私をどこに連れて行ってくれるの? なんちゃって」
「…………」
何もセリフが出てこなかった。
ちょっと可愛らしいポーズなんてとっているが全く効果なんてなくて、むしろ逆効果だ。イラっとしかしない。それは美祢のキャラもあるのだが普段のお前はそんなことの欠片もしないのにな。
しかもよくそういうセリフが即答で出てくるなと本当に感心してしまう。コイツと居る時に細かいことを怒ったり気にしたりしたらきりがないので、すべての事をひっくるめて美祢だと思い込むしかないのだ。それが一番ストレスにならない方法なのだ。
「美祢って普段の休み何やってるんだ?」
無言で歩くのも何だったので普通に気になった美祢の普段の休日のこととか聞いてやろうと思ったのだ。以外に美祢のこと何にも知らないしな。
「えーどうしたの城野くん。私に興味津々だね!」
ため息が出てしまった。会話にならないのわわかっている。怒ったら負けだ。美祢はそういう奴だ、とわかっていてもやっぱりため息くらいは出るもんだ。
なんだかんだで美祢と二人で初めて休日に楽しく遊んだ。
美祢って面白いし不思議な奴だなと改めて思ったし、休日の美祢がちょっと可愛いなと思ってしまった自分がすごく悔しかった。
いや、ちょっとじゃなくて美祢の私服はめっちゃ可愛いんだから。
今週も寒い中読んでいただいてありがとうございます。
きっと飛行機の中で眠りながら喜んでおります。
きっと投稿された時間は飛行機に乗ってると思います。そしていつものごとく寝てます。
飛行機の中でも移動中は基本的にどこでも寝ます。
いや、移動中でなくても時間があって座るところがあれば寝れます。
さてさて、またまた美祢とノブのふたりっきりでした。
美祢の私服をもっと細かく表現したかったのですが書きすぎるとあまり上手に表現できそうになかったのでもう可愛いとにかく可愛いということで。
でもリアルに美祢みたいな子が居たら大変だろうなと思いながら書いてたりもします(笑)
来週は織姫ちゃんもちゃんと登場しますよ(笑)
ではまた来週。。。




