第2話
入学2日目にしていきなりのテスト地獄。学校側はもうちょっと春休み明けの学生のことを考えて欲しいものだ。徐々にペースアップしていくようなことはなく、いきなり全開で1日びっちりとテストをぶちこんできた。
そんな朝からずっとテストテストテストの時間が終わり、ようやく解放され体育館に向かう新入生。
体育館に行く足取りが幽霊みたいになってる奴や、抜け殻になってる奴、ゾンビみたいになってる奴もいる。俺はというと、もうそれどころではなかった。頭の中は部活動紹介のことでいっぱいだ。テスト中の記憶なんてほとんどないほどワクワクしている。
俺が待ちに待っていた部活動紹介の時間だ。これで旅行部がどこで活動しているか、先輩達がどんな人達なのかを確認できる。そして俺は放課後旅行部の部室に向かうのだ。
野球部、バスケ部、テニス部と運動部から、吹奏楽部、美術部、茶道部と文化系の部活の紹介へと移っていく。俺の心の中のワクワクがどんどん高まっていく。
そして科学研究同窓会の紹介になったときに俺の中で疑問が浮かんだ。
その疑問はどんどん大きくなったがあまり気にはならなかった。が、疑問ではなく不安の方は大きくなっていった。
旅行部って無くなったとかいうオチはないだろうな。
自分の中で思い出してみた。旅行部を知った季節は秋。文化祭に遊びに来ていて、旅行部の出し物というものを目撃して気になって気になって仕方がなく、そこから頑張って勉強したことを思い出した。
旅行部が出していた出し物はお化け屋敷屋の入口で焼きそばを売っていて、出口のところで飲み物を売っていた。
今、思い返してみれば変なことやってるな……大丈夫かな?
そんなことを頭の中で思い出していたら同窓会の紹介も終わっていた。
そもそも旅行部って名前なのに焼きそばと飲み物?
俺が平和通学園の入学を目指したきっかけを思い出していると部活動及び同好会の紹介が終わっていた。
えっ? 終わり? 旅行部は? 俺の高校生活の楽しみは?
俺の頭真っ白になっていたところで後ろの奴に声をかけられた。こいつ名前なんだっけ? 昨日俺が一緒に旅行部の部活を見学に行こうと誘って断った奴だ。
「ねぇ、城野くんってどの部活の見学に行きたかったの?」
なぜ今、このタイミングで聞いてくるんだ? こいつは生まれつき、間の悪さでも持ち合わせてるのか? あと、俺の名前覚えてくれてたんだ。その部分では良い奴そうだから俺もこいつの名前覚えなきゃ悪いな。今度ちゃんと確認しよう。挨拶はしたはずなのに俺もコイツの話聞いてなかった。悪かったな。
無視するのも悪かったから、俺は開き直って答えた。
「旅行部だよ、知らない?」
「りょ、旅行部? そんな部活があったの? でも今、紹介に……なかったよね?」
やはり部の存在自体が怪しくなってきた。
それと同時に俺の高校生活で期待してたものがほとんど崩れ落ちそうだ。
俺は何のためにこの学校に入学したのかと頭を抱えていた。
「すみません! 旅行部の紹介って無いんですか?」
俺じゃないぞ! 俺はそんなこと出来ない。全校生徒居る中でそんな発言出来る奴はどんなやつだと思ったら俺と同じクラスだった。
俺の前方に立ち上がり、ちゃんと手を挙げて発言してる。よく通る綺麗な声。その女の子は後ろ姿しか見えないが背はあまり大きくなかった。俺の後ろの奴といいそういうとこはちゃんとするんだ。
体育館の中がざわつきだした。そりゃそうだ、全校生徒の前であんな発言する奴が現れたんだから。
しかし先輩達は新入生側とはざわつきの仕方がどうも違うようだ。何か期待するような騒ぎ方となってる。いったいどうなってるんだ?
「ねぇねぇ、城野くん! 美祢さんも旅行部に興味があるみたいだね」
また俺の後ろの良い奴が背中をチョンチョンと突っつきながら喋りかけてきた。
こいつまさか、もうクラス全員の名前を覚えているんじゃないだろうな? きっと美祢って子は今発言した奴の名前だろう。
一応旅行部のことを知ってるっぽいので名前は覚えておこう。入部すれば関わることになるだろうし……関わる? この場で発言できるような心臓に毛が生えてそうなやつと?
そんな頭を抱えようとしている俺はステージの袖でなにやら揉めている光景が見えた。
「ねぇねぇ、城野くん、あれなにやってるんだろうね?」
後ろの良い奴がいちいち背中を突っつきながら話しかけてきた。
さっきまでいろんな部活動や同好会が紹介していたステージの端っこで昨日見た生徒会の方々と、これまた昨日見た校門でビラを渡そうとしてた人たちだ。
俺はすぐにピンときた。と同時に変な汗が溢れ出てきていた。
昨日と同じ感じの変な汗だ。そう背中とか額のあの感じ……
「我々にも紹介させてもらう権利はあるはずだ!」
「だからあななたちはまだ同好会としても認められていないでしょ!ねぇゆか」
俺が昨日下校時に聞いたことと同じことを今度はステージ上で繰り広げていたが、先生が間にはいり、どうやら紹介の許可が下りたようだ」
「私たちは! 旅行部です! 先輩方すみません。お見苦しいところをお見せしました。受験勉強で辛かったら卒業まで旅行部に入部してみませんか? きっとストレス解消になると思います!」
なんかナチュラルに部の紹介を始めた。部じゃないみたいだけど。
2年生の一部生徒は「いいぞー」とか「もっとやれー」とか声援? が飛んでいる。
先程まで喋っていた先輩が一つ咳払いをして再び喋り始めた。
「新入生諸君、入学おめでとう! そして先ほど旅行部の紹介を促してくれた方、ありがとう。今、私たち4人で活動している旅行部。興味を持ったら是非運動部の部室の一番奥の部室が我々に与えられたスペースなので見学に来て欲しい。そして入部して欲しい! なぜならあと1人入らないと同好会にすら認めてもらえないのだ!」
4人といいつつステージ上に上がっているのは3人。後の一人は欠席でもしているのかな? と俺が疑問に思っていたらステージ上の女性の先輩がステージの端に向かって声をかけていた。
「ゆかちゃん! ゆかちゃんもちゃんとこちらに立って! わたくしたちと同じこちらに来てください」
マイクに音が拾われていることに気がついていないのか、その言葉に体育館が笑いが起こる。
半ば無理矢理ステージに立たされた4人目のゆかちゃんと呼ばれていた先輩はずっとうつむいたままだった。そしてなぜか腕章に生徒会の文字が入っていた。
なんなんだこの部活。
「ねぇ、城野くん。旅行部ってやばそうじゃない?」
後ろの奴は俺の心でも読んでいるのか。
「俺も今そう思ってたよ」
旅行部存在したけどどうしようかなと迷い始めていた。
「でも面白そうだね」
こいつの頭の中はどうなってるんだ? 壇上に上がっている先輩といい、さっきの旅行部の紹介を促した……美祢とかいうやつといい頭がぶっ飛んだやつらばっかりなのか。美祢はまだ入部するかどうかはわからないが……
俺がこの日旅行部の部室に行くことはなかった。