第25話
今回もいつもよりちょっぴり長いです。
24話くらい。
お付き合い下さい。
すごい勢いで駆け抜けた1学期がそろそろ終わりを迎えようとしている。
そう思えるのは充実していたからかもしれない。
そして1学期が終わるということは待ちに待った夏休みだ。
無駄に有り余った時間をダラダラと贅沢に使える時間だ。
懐かしいゲームをやったり意味もなく外をブラブラしたり興味のない映画をレンタルしてきてよくわからないまま見たりすることができるのが夏休みだ。
しかし夏休みに旅行部の活動がどうなるかも気になるところだ。
例えば、例えばだが桃花先輩の別荘なんかがあって、みんなでそこに行って海で泳いだりバーベキューをしたりして楽しんだりするのだろうかと考えて勝手に一人でワクワクする。
だがあまり期待はしない。なんて言っても旅行部だ。夏休みも通常営業お喋り部になることも考えられる。あまり期待しすぎると勝手に俺一人落胆することだってあり得るからだ。
そういえばまたゴールデンウィーク明けの時みたいな擬似旅行の計画を始めたのだった。ということはやはり桃花先輩の別荘に旅行とかはないのかな? まぁ桃花先輩の家に別荘があるかどうかもわからないのだが、ありそうじゃない? だってゴールデンウィークに学校休んでヨーロッパ行くくらいだし、よくあるお金持ちのレベルを超えてそうだし……そんな夏休みのワクワクばかり考えている俺も現実に戻らなければならない。
夏休み前のラスボスがいるのだ。
テストである。
俺は既に夏休み補習のピンチを迎えているのだ。どのくらいかというと一向聴、つまりリーチの一つ前まで来ていること言うことだ。
夏休みが補習になってしまうと無駄にダラダラと過ごせる時間が減ってしまうのは事実だし、一体この学校がどのくらいで補習から開放してくれるのかも未知数だ。だから俺が補習の実験台になるなんてまっぴらごめんということなのでなんとしても補習は回避したい。
期末テストを何とかしてやっつけないと、俺は中間テストで一度やられているのだ。
追い込まれているといえば追い込まれているが、絶望的といえばそうでもないと思う。挽回は可能な範囲にいる。
だが問題もある。挽回が可能といっても中間テストの時と同じことをしていれば高確率で同じような結果もしくはもっとひどい結果になってしまうだろう。
なんせ最初のテストの時よりも範囲が広い。
だから俺の試験対策のまず一つめは、勉強会という名目の旅行部の部室には行かない。
これでかなりの状況が変わると見ている。
なんせ勉強会という名目で桃花先輩あたりが息抜きしているだけだからだ。勉強をした記憶があまりないからだ。
次に誰かに教えてもらえればいいのだが、ここが厳しそうなところで、俺が頼りにできそうと思えるのがゆかり先輩と茶山さんくらいで、3人で勉強したらどうかなとも考えたが二人には二人の都合があるだろうし、二人共テストに不安がありそうだからあまり迷惑はかけられない。特にゆかり先輩は、後輩の俺や茶山さんがわからないと言ったら分かるところは教えてくれるだろう。そういう感じがするからだ。これでゆかり先輩が補習になってしまえばそれこそ迷惑になってしまうのでやはり難しそうだ。
テストの結果が良さそうだった桃花先輩と日田先輩は勉強にならなさそうという理由で頼りにならないのだ。あの二人がちゃんと教えてくれたら本当に頼りになると思うんだけどな。
そんなことを考えていたら俺の前に美祢が立っていて不思議そうな顔で俺を見ていた。
「どした? そんな顔して」
「いや、さっきから城野くんに話しかけてるのに全然反応がないから。私何かまた悪いことしたかなって」
またって。お前少しは自覚してるのかよ。
まぁ俺がテストのことで考え込んでいたから美祢が来たことに気がつかなかったし話しかけられていることも気が付けなかったようだ。
「悪い悪い。ちょっと考え事してたから」
「ふーんそうなんだ。じゃあ部室行こ!」
本当にこいつは深いところまで突っ込んでこないというか何も考えていないというか。こいつの距離感ってすっごく良いんだよな。設定の彼女とかなければすごい良い友達なんだけどな。
そして美祢は当たり前のように俺を部室に誘うが今は部活禁止期間だ。
そう! もう試験まで日が近いのだ。俺は中間試験の時の過ちを繰り返さないようにひとまず自宅に帰り勉強することを選ぶ。
「悪ぃな、俺帰って勉強するわ」
「えー部室で勉強会するからみんなでしようよー楽しいよ」
「楽しいじゃダメだろ。夏休みに補習出たくないから頑張らないといけないんだよ」
「だからおねーちゃんに教えてもらおうよ」
なかなか美祢が引き下がらなくて困る。美祢の言うとおりお前のおねーちゃんが教えてくれたらそれが一番ありがたいんだけどな、だが現実は楽しいよっていう単語が出てくるところでおかしいだろう。
「それはそうなんだがな。とりあえず一人で勉強してみるわ。すまんな」
「そっか。じゃあしょうがない! 茶山さんと行くからいいもーん」
そう言いながら変なスキップをしながら教室を出て行った。相変わらずテンション高いな。
実は俺も茶山さんを誘って図書室で勉強してみるかと思っていたのだがこれは本当に一人で家で勉強することになりそうだな。
俺、受験の時にどうやって勉強したっけ? そんなことを思い出しながら家に向かおうとしていたら今度は校門で桃花先輩に出くわす。
「あら? ノブくん部室にいかないのかしら? もうお帰り?」
「先輩こそこんなところで何やってるんですか? もしかして掃除のサボりとかですか?」
「うっ、うるさいですわよ。ノブくんはエスパーですの?」
どうやら図星だったらしい。適当な事を言ったのにまさか当たるとは思ってもなかった。掃除サボるとか小学生じゃないんですからもっとちゃんとしましょうよ先輩。
「勉強会するんですのよ! 勉強会! わたくしがちゃんと教えますのよ」
覚えていたのか。てっきり先輩のことだから先輩が勉強を教えるというのは冗談か忘れるものと思ってた。本当に教えるかどうかは置いておいて。
「すみません。今回はちょっとやばいので家でじっくり勉強しようと思ってますので。お疲れ様です」
桃花先輩ずるいですよ。そんなに悲しそうな顔をすると断りづらくなるじゃないですか。
「まぁそれならしょうがないですわ! でも困って泣きついてきて、桃花先輩お願いしますって頼み込んでほっぺにキスして頂けたらノブくんにはトクベツに教えてあげますわよ。でもノブくんが居ない勉強会は寂しいですわ」
とんでもない発言をしつつも寂しそうな顔をする桃花先輩。本当にこの先輩はずるい。
演技なのか本当なのかもわからない。
さっきまで本当に寂しそうに見えたのに、今は元気いっぱい俺に手を振って表情もコロコロかわるから本当のところなんてわからない。まぁ本当のところなんてわかってどうなるのかって言うんだけど。
そしてこの日は家に帰り思いっきりゲームをした。
あれ? 俺って家で一人で勉強できないタイプだなと再確認する。
明日どうしようかな……
次の日の放課後も部室に向かうことなく今度は図書室へ直行する。
自分の部屋だから勉強ができなかったのだ。自分の部屋には誘惑がいっぱいだからな。
そうやって誰に言い訳するわけでもなく自分に言い訳し、図書室であれば静かだし自分の部屋のように誘惑はないから勉強できるだろう。
図書館に行くと既に数名が勉強していた。俺もこの環境だったら一人でも勉強ができると思った。
テーブルの端っこは既に座られていたので真ん中に座って自分のノートを開く。
ふむ……ノートに文字は書いてある。
ノートを見てどうやって勉強するんだ? あれ? 勉強の仕方ってこんな感じだったよな。
しかもノートに書いてあることがよくわからない。別に字が汚い……お世辞にも綺麗じゃないが読めないという意味ではない。意味がわからない、そう! 呪文が書いているのだ。俺が書いたものなのだが。
自分で書いたはずのノートになぜか呪文が書かれていたのだ。
図書室の椅子に座りまだ5分ほどだろうか……とりあえず自分のノートでパニックになってしまうがまだ図書室には来たばかり。
ギブアップするには余りにも早すぎるだろう。
周りの目が気になりとりあえず呪文が書かれたノートをペラペラとめくり時間を計る。
相変わらず内容は頭に入って来なくて時間も立たない。永遠とも思える時間を耐えるが実質30分も経っていなかった。
「あっそういえば今日は早く帰らないといけなかったか」
小さな声で独り言を呟いて逃げるように図書室を後にした。
家に帰る間にこれはまずいということに気がついた。
部室にいるときと状況がほとんど変わっていない。いや、むしろ今回は何もしてないかもしれない。
いや、かもじゃない。何もしてない。
まだ家でゲームして呪文のように書かれたノートを眺めただけだ。
試験の日は確実に近づいてきているのに。
家に帰ってそのノートをもう一回見てみたがこの呪文が分かる訳もなく今日も1日ゲームをして終わってしまった。
日々夏休みに近づいているのに日々足取りは重くなって行くし気持ちも重くなっていく。
そんな試験前の昼休みの部室に入った瞬間にふとした光景が目に入った。
そこには既に当たり前のように茶山さんが昼ご飯前に部室に居て、お昼ご飯の仲間に加わっていて久しぶりに微笑ましく感じた。
なんだかんだ言いながらも茶山さんも旅行部に馴染んできたかな? と嬉しくなったのだ。
「ねぇここがわかんないって言ってるの。どうやったらこれがこうなるわけ?」
「だから……ここは教科書のこのページの問題の応用ですわ。そして、ここはここと同じですわ。そしてこっちはコレと同じですわ」
「おぉ! わかる」
部室に入ってすぐにはわからなかったのだがどうやら茶山さんは桃花先輩に勉強を教えてもらっていたらしい。
だが俺と美祢が来たから片付けてしまった。
もしかして桃花先輩ちゃんと勉強教えられるのか? とよぎったし心の中がちょっぴりざわついた。これはなんのドキドキだ? 焦り? 申し訳なさ?
昼ご飯が終わりみんなゆっくりしている時に茶山さんに聞いてみた。
「もしかして勉強会ってちゃんとやってる?」
「まぁある程度はやってるわよ」
ある程度っていうところに本音がある気がするけど今回はある程度真面目にやってるのかな?
そして桃花先輩がドヤ顔してる。
分かりましたって。そんなに顔でアピールしなくてもさっきのシーン見れば。
「それに教え方上手いかも。ってそういえばなんでアンタは勉強会に来ないのよ」
「そーですわそーですわ! ノブくんが来ないからつまんないですわよー! 遊んでないですわよーだプンプン!」
プンプンって流行ってるのか? 桃花先輩が美祢みたいにして怒ってる。いや怒ってるように見えるだけで全然怒ってるようには感じない。
茶山さんが言うから本当なんだろう。さっきの光景見ても桃花先輩って教えるの上手っぽかったし。なにより今は自分で勉強できないから藁にもすがる思いだ。
「すみません。今日から参加しますのでお願いします」
俺が桃花先輩にお願いすると桃花先輩はにっこり笑って人差し指で自分のほっぺを2回ノックしてウインクた。
桃花先輩だからあれは冗談じゃないんだろうな。なんか胃がキリキリしてきた。
いつもならほっぺにチューしてって言葉で言うと思ったのになぜ合図だけだったんだろう? 面白がってるだけなのかな?
俺が苦笑いしてるのを見てみんなは不思議顔、桃花先輩だけ何故か満足そうだった。
放課後部室に向かう間は美祢からの質問攻めだ。
毎日美祢は誘ってくれてたけど毎日断ってたし思うところがあったのかもしれない。
「ねぇ? どうして急に勉強会来るようになったの?」
「もしかして行き詰まっちゃったの?」
「自分ひとりでわかんなかった?」
美祢の一人トークショーは部室に着くまで続いたが俺は正直に頷くだけだった。
美祢は鋭いところというか本当のところばかりだったし。
そして美祢はずっと何故か意味不明なドヤ顔だった。
部室のドアを開けると昼休みと同じように再び茶山さんが既に勉強をしていた。
これは前回の試験勉強とは大違いの雰囲気で、最初から部室に来ていれば良かったとちょっぴり……いや大いに後悔してしまった。
そして勉強会が始まると再び後悔してしまった。
桃花先輩はほっぺにチューしてくれたら教えてくれるなんて言ってたが別にしなくても教えてくれた。やっぱり冗談だったのかな? 昼休みのほっぺの仕草も冗談だったのかな?
そして教え方がこんなに上手だとは思わなかった。
ノートに書いていた呪文は教科書を使って解いてくれた。
充実の勉強会で久しぶりに焦りから解放されていた。それほど内容がある勉強会だった。
これは明日から少しでも挽回しなければ! そう思ったときに部室のドアが開いた。
「まーた! あなたたちは。部活禁止中は部室使っちゃダメって言ったでしょ? 不真面目にやっても、真面目にやっても部室使っちゃだめなの? 前にも言ったでしょ? わかった?」
挽回できるという希望の光が見えた瞬間に部室を追い出されてしまった。
俺の試験はどうなるんだ!!
全部読んでいただいてありがとうございます。
足元がスースーする寒い部屋で私は飛んで喜んでおります。
次の話からはいよいよ夏休み! は、ちゃんと来るのか。
そしてラブコメのタグを貼ってるけど恋に動きはあるのか
ではまた来週。。。




