第23話
退屈な授業がさらに長く感じるお昼ご飯前の授業。
授業が終わると美祢が一目散にやってきて昼飯の催促をする。
俺もそのつもりだったのだが一つ言いたいことがあった。
「美祢、お前今日は2限目が終わった後に弁当食べてただろ?」
それはそれは美味しそうに脇目も振らずにものすごい勢いで弁当箱から口へと箸を運んでいた。
「美祢さんものすごい勢いで食べてたよね。ボクも食堂行くから一緒に行こ」
いつものように俺の後ろの奴も一緒に食堂へ駄弁りながら向かう。
「そんなに食ってたら太らないか?」
「あのね城野くん。女の子に太るとかいう話をするのは失礼だよ」
確かにそうだったかもしれない。これはデリケートな話だったか。
「いくら彼女と言ってもその言い方はダメだよ城野くん」
後ろの奴にも後押しされて美祢がそーだそーだと調子に乗り始めた。
彼女と言っても設定ですけどね。
「それにね、あれは朝ごはんだから大丈夫。本当は1限目の終わりにご飯食べたかったんだけど体育の後だから時間なかったんだよ。それに今日、私はまだあと2回ご飯を食べる権利があるんだからね!」
俺は美祢の言っていることがさっぱりわからなかった。2回ご飯を食べる権利がある? 食事ってそういうことじゃないだろう。
そんなことを考えていると一人でフラフラと歩いてる知った顔を発見した。最近よく会うあの子だ。
「おぉあれはクラスに馴染んでないということで有名な茶山さんだね」
「え? そうなの?」
俺は茶山さんの意外な真実を聞いてしまった。本当かどうかはわからないがそういうことらしい。
しかし馴染んでないってどういうことだ? イジメられてるとかそういうことだったら力になれることがあれば協力したいと思うのだが。
「うん。4組の人が困ってるみたい。織姫ちゃんはどっちかというとお姫様というよりもお嬢様だね。昔から人見知りだし」
「相変わらずいろんなことに詳しいね! さっすが!」
美祢が後ろの奴のことを褒めて後ろの奴はちゃんと照れてる。なんだこのやり取り。
昔からっていう所が気になったがすぐに答えはわかった。
「織姫ちゃんとは中学校が一緒だったからね。中学生の時からずっと口調がきつかったから。それで友達は居なかったみたい。ボクが知る限りではね」
茶山さんが人見知りで口調がきつい? そうなのかな? 俺はそういう風には感じなかったけど。
詳しいことは分かんないけどいじめとかではなさそうなのかな。まぁ今声をかけない理由はないからと思ったら美祢がすでに動き始めていた。
「おーい茶山さーーーーーん! 愛しの城野くんが迎えに来たよーーーー」
手を振って大きな声で叫んだ美祢に気が付いたと思ったら茶山さんが全速力でこちらに向かい、そして飛び蹴りの一撃をかます形になっていた。
「あんたこの前の話の意味わかってないの? バカなの? ホント信じられない!!!」
血相を変えて真剣に美祢が怒られている。茶山さんが本気だし確かに口調がきついかもしれないがそれは美祢がいらんことを言ったからだろう。
美祢は美祢で体を揺らされながらもとぼけているが顔がにやけてるぞ。
「茶山さん。お怒りのところあれなんだけどお昼一緒に行かない?」
美祢に馬乗りになり怒っていた体がピタリと止まる。と同時に揺らされてた美祢も止まりってもにやりと笑っている。だから美祢、その笑い方気持ち悪いぞ。
「しょ、しょうがないわね。そんなに言うんだったら一緒に行ってあげましょ。お弁当とってくるからちょっと待ってて」
言い終わる前に体は教室に向かっていた。そんなに焦らなくても大丈夫なのに。
「別にそんなに誘ってるわけじゃないから先に食堂行ってるねー」
本当に食堂に行こうとしている美祢の首根っこを掴むと、苦しかったのか美祢の口から変な声が出ていた。
美祢の声が聞こえたのかさらに慌てて教室に戻っていく茶山さん。教室の入り口で同じクラスの人とぶつかった。
「お前があんなこと言うから茶山さんぶつかっちゃったじゃないか」
「やっぱり城野くんって茶山さんには優しいなーあー優しいなー」
半ばやけくその棒読みになってる美祢はほっとこうと思ったら思わぬ援護射撃が。
「彼女のことも大切にしないとね。城野君は」
そーだそーだと美祢が調子に乗る。またこのパターンか。
だから設定でしょ?
「そういえば試験明けの最初の日って茶山さん何かあったの?」
戻ってきた茶山さんに試験明けの日のことを聞いてみた。結構俺楽しみにしてたんだけどな。
「あー。んーとちょっとね」
そう言いながら茶山さんの手は美祢の口の中に突っ込まれている。いつか見た光景と同じ様だ。
この二人何かあったのか、仲良くなってる気がする。二人とっても楽しそうで何よりだ。
「あーもう茶山さん苦しいってば。こんな私でも怒っちゃうぞ! プンプン!」
バカはほっといて先に行こう。
「何で無視するのよ! 突っ込んでよ! 恥ずかしいじゃない!」
美祢にも恥ずかしいという気持ちがあったことが分かっただけでも収穫だ。
「美祢さんがかわいそうだぞー」
後ろの奴結構いい奴だな。律儀に突っ込んでいるが美祢はそうじゃないと一人で騒いでいる。突っ込んでもらえただけありがたいと思え。
美祢がいつものように騒いでいるとあっという間に食堂に到着する。
俺たちは慣れた感じで食堂に向かうが茶山さんはキョロキョロと周りを見渡している。
食堂で1年生はあまり見かけないから緊張してしまうよな。俺も美祢が居なかったら先輩ばかりの食堂に行くということはなかなか難しかったかもしれない。
美祢は慣れた手つきで食券を買い、俺と後ろの奴は売店でパンを真剣に選ぶ。
「じゃあボクはこの辺でー」
そういいながら後ろの奴はパンを買うといつものように消えてしまった。あいつはいつも食堂までは一緒だが誰と食事をしているのだろう。本当にいろいろと不思議だ。
食堂の一番奥からニコニコ顔の美祢がC定食をお盆に載せてやってきている。
「先輩たちが多くて落ち着かないね。席あまり空いてないけどどうするの?」
茶山さんがいつもより小さくて、控えめな声で聞いてきた。結構不安そうな声だった。
そこで気が付く俺。
部室で食べるって言ってなかったことを思い出した。
「ご飯はね、部室で食べるんだよ。ここよりは落ち着くと……思う?」
落ち着くという言葉を選んでしまい自信がなくなって疑問形になってしまった。桃花先輩と美祢が騒ぎ散らす可能性があるから落ち着くというとウソになってしまう。
「え? 部室?」
そういって首を傾げる。
「そうそう部室! レッツゴーレッツゴー。おねーちゃんも待ってるよ」
美祢の言葉を聞いてさらに首を傾げる茶山さん。
「いやいや、レッツゴーってあんた定食どうするの?」
「どうするって食べるしかないじゃん」
「そうじゃなくて!」
美祢に質問の意図が伝わらずにイライラしてるのが見てとれる。そうだよな。こいつ会話のキャッチボール下手だもんな。いつも何考えてるかわからないし。
茶山さんが質問の仕方を変えようと頭の中で考えているのだろう。いろいろと考えて唸っている。
「美祢、それどこで食べるかってことだよ」
俺の言葉に茶山さんがソレソレ! とテンションが上がってピョンピョンと飛び跳ねる。なんだこの可愛い仕草は……やばいぞこれ。なんかドキドキしてしまった。
「城野君まで何言ってんの? いつも通り持っていくに決まってるじゃん」
茶山さんは混乱している。きっと食堂の定食を食堂の外に持っていくことに混乱しているのだろう。俺も最初はそうだった。
そして定食をもって堂々と部室に向かう美祢をいまだ不思議そうに見ている茶山さん。部室には少し外を歩く。今日は雨が降っていてより一層美祢が変な状況に見えるだろう。
それでも慣れというものは怖くてここに居る3人の中で違和感を持っているのは残念ながら茶山さんだけだったし、茶山さんが部室についてまた驚いたのは言うまでもないだろう。
1年生チームのお話です。
美祢と織姫ちゃんいいコンビになってしまった?
振り回される織姫ちゃんを書いていると楽しいです。
さてさてついに今日は大晦日ですよ。
年の瀬に私なんかの作品を読んでいただいてありがとうございます。
私が泣いて喜んでおります。本当にありがとうございます
今年も終わりですが残念ながら私に仕事収めなどありません。
では皆様よいお年をそしてまた明日。。。




