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第21話

 最近よく見る光景が俺の目の前に広がっている。

 美祢と茶山さんの言い争いで、最近二人セットでよく見るので、実は二人仲がいいんじゃないかと思ってしまっている。

 それに今日は茶山さんが俺と美祢をいつも通り引き離した後に、美祢を引っ張って離れたところに行ってしまった。

 俺は一人ぼっち……と言っても数歩離れたところに二人が居るわけだが。

「ねぇ美祢、ちょっとだけ城野と二人っきりにさせてくれない?」

 数歩離れているくらいの距離なので会話は聞こえてしまった。

 心臓の鼓動が早くなる。

 あれ? この会話どういうことだ?

 冷静に考えられないがそういうことなのか? だから俺の遠くで話してるのか?

 美祢がチラチラとこちらを見ながら、茶山さんもこちらをチラチラと見ているように見える。

 会話が聞こえてしまって、俺がそういう風に考えているからそう見えるのかもしれないが……

「やだよー。だって茶山さん城野くんのこと!?!?」

 喋っている途中に茶山さんが美祢に飛びかかっていき、喋れないように口の中に手を入れていた。

 とんでもない光景が俺の前に広がっている。そして美祢はモゴモゴと苦しそうにもがいている。

 いったい茶山さんが俺のことどうなんだ? 重要なことの前に美祢が邪魔されたということはやはりそういうことなのか。全部そういう風に考えてしまう。

 自然と俺の顔が緩んでいく。



 俺にも春が来るのか。



 俺の隣にはいつも美祢が居て恋人ごっことかしているし、それが学校一有名なバカップルというレベルでの認知度であるから、もう高校生活で甘酸っぱい恋愛なんてできないと思っていたからな。

 俺がそんなことを考えていると茶山さんの声が聞こえてきた。

「あんた、そういうことをほんとに何のためらいもなく言おうとするわね! 信じられない!」

 茶山さんは焦っているのか興奮しているのか、はたまた怒っているのか、それで自然と声が大きくなったのだろう。ばっちり俺の方まで聞こえている。

 茶山さんをこっそり見ようと思ったら俺の方に向かって一直線で歩いてきている。歩数にして5歩ほどだ。

 歩いてくる間にバッチリと目が合ってしまいどうしていいかわからずに目を逸らしてしまう。

 すると、茶山さんが俺の手をつかみ廊下の端まで引っ張っていく。俺は、目をそらした後に手をつかまれたことに驚き、連れ去られる間はこけないようにすることで精いっぱいだった。

 人気(ひとけ)のない階段の踊り場に連れてこられて見つめあう。

 漫画やドラマで見たことあるシーンだ。

 実際に俺がこんなシーンに直面するとは思ってもみなかった。

 俺の心臓は相変わらず飛び跳ねるように動いている。これはきっとここまで引っ張られて連れて来られたという理由だけではないはずだ。

 俺はどういう受け答えをしたらいいかということを考えてさらにドキドキし始めていた。

 こういうものは簡単に『はい』って言っちゃうとダメとかあるのかな?

 誰でもよかったのかよ! とか思われちゃうかな? それともちょっと驚いたから考えさせてとか言ったほうがいいのかな?

 一人で勝手に考え込んでいると茶山さんが俺の目を見て口を開いた。

「私ね、やっぱり旅行部に入部しようと思うの……」

「えっ? ちょっと驚いたから考えさせて……え?」

「え?」

 今、茶山さんなんて言ったの? 俺の頭の中はずっと真っ白だ。きっと茶山さんが言ったこと頭に入ってきてないぞ。

 もう心臓は壊れるのかというくらいバクバクと動いてる。

 茶山さんを見ると頭にハテナマークをたくさん並べて首を傾げて俺を見ている。

「ねぇ、城野、どうゆうこと? ちょっと意味が分からないんだけど」

「すまん。俺も意味が分からない」

「私が入部することが意味わからないっていうこと?」

 茶山さんは俺の肩を両手で掴み、興奮して声がどんどん大きくなっていっている。

 俺も茶山さんに体を揺らされて、さらに興奮して自分が何を喋っているのかがわからない。

「入部?」

 俺が恐る恐る口を開くと、

「何と聞き間違えたわけ? 聞き間違いしようがないでしょ。何考えてたんだか」

 茶山さんがため息をついて俺はようやく茶山さんが言ったことを理解し始めた。

 俺は妄想の中で起こってたことをそのまま返事してしまっていた。もう平常心になることはなく、ずっと心臓は壊れたようにバクバクいってる。

 でもなぜ茶山さんはこのタイミングで入部しようとしたのだろう? 別に決定打になるような出来事も何もなかったと思うけど……それでも入部してくれるというのだから皆で楽しめればうれしいと思う。

 来年先輩たちが卒業した後に俺と美祢の二人だけが残され、その先の旅行部とか考えただけで大変そうだ。退屈は……しないと思う。

「茶山さん的に楽しめばいいと思うけど、ずいぶん急な話だけどなんかあったの?」

「だから私も勉強会に参加する!」

 俺たち会話になってる? また俺何か聞き間違えてる?

 今、俺は茶山さんとのやり取りに自信がない。まったく平常心を保てていないしさっきのやり取りは無かったことにしたいくらいだ。

 そんなやり取りをしていると、美祢の笑い声が聞こえた。階段の下を見るとゆっくりと近づいてきているのが分かった。もしかしてずっと見てたのか? あとその歩き方はなんだ? なんでどこかのご令嬢のような歩き方を真似しているんだ。なんかムカつく。

 あっ言っておくけどどこかのご令嬢って別に桃花先輩のことではない。桃花先輩はご令嬢みたいなことは見せつけたりしないから。って俺は誰に言い訳してるんだ?

「もー茶山さんってば可愛いんだから。なんで私が居ちゃダメなの? 入部の話なら私が居ても大丈夫でしょ? むしろ入部大歓迎よーって大騒ぎしちゃうんだから。あと城野くんは一人で何をオロオロしてるの? 相変わらずおもしろーい」

 そう言いながら美祢は一人で大騒ぎし始めた。あの部室に初めて行った時の先輩たちのように。

 そんな美祢をひどい表情で睨んでいるのは美人の茶山さんだ。

 ものすごくイライラしているのがこちらまで伝わってくるのだが、そんな顔したら美人が台無しですよ。

 俺の周りには美人を台無しにする人ばっかりだな。

 そういう状況の茶山さんを見て俺は苦笑いをするしかなかった。

「もーしかしてー茶山さんってー勉強会に参加したかっただけだったりしてーなんでだろー」

 ふざけた口調で、さらに大騒ぎを一人でつづけながら美祢が言う。

 勉強会に参加したいだけっていうのはありえないだろう。だって友達誘って図書館にでも行った方がまだ勉強できると思う。

 旅行部の部室では勉強は全くできないからだ。

「あんたホンットうるさいわね!」

 茶山さんはそういって一人大騒ぎの美祢の顔を引っ張ったり体を揺らしたりしている。

 美祢は美祢で本当に痛がっているようには見えずに、ペットが飼い主とじゃれあってるように見える。

 この二人はやっぱり仲がいいのか?

「勉強会はあんまり期待しない方がいいぞ」

 俺の呟きに、美祢の顔を引っ張りながらも首を傾げ理解できない顔をしていた。




「ねぇ城野、これって勉強会なの?」

「だから言ったじゃないか」

 茶山さんの入部の件を桃花先輩に話して、早速放課後の勉強会に連れてきたのだが普通の人がする反応で良かった。

 先輩たちは勉強会のべの字も漂わせずテーブルには綺麗に飲み物が置かれていた。

「ねぇねぇ、姫ちゃん姫ちゃん。もう一回部室入るところからやってくださいます? お願いお願い」

 顔の前で手を合わせて可愛らしく、謎のお願いを始めた。何を始めるんだ。

 頭の中が疑問だらけの茶山さんはいったん部室に出るとちゃんとノックをした。

「ちょっと待ってくださいます? 準備できたらこちらからお願いしますと言いますので、ちょっと待ってくださる?」

 扉の向こうにはわけもわからず待たされる茶山さん。一体どんな表情で立っていることやら。

 そんなことは関係無しに桃花先輩が今いる俺、日田先輩、美祢にクラッカーを渡していく。そういうことか。

「では、お願いしますわー。入ってもよろしくてよ」

 そういわれてもちゃんとノックをして『失礼します』と律儀に言うあたり茶山さんのまじめさが見える。

 扉を開ける音がした時点で一発のクラッカーが鳴る。誰だフライングしたのは?

 扉の向こうで驚いたのか茶山さんは扉を開けなかった。

 悲しそうな顔をしてたのは桃花先輩だった。俺はてっきり美祢がフライングしたのかと決めつけていた。だってフライングしそうじゃん。

 なぜか俺を睨んでいる美祢。俺の考えがバレてるとでも言うのか?

 再び恐る恐る扉を開けて入ってくる茶山さんに3発のクラッカーでお出迎えするが発起人の桃花先輩は椅子に体操座りという形で落ち込んでいる。

 茶山さんは茶山さんで最初のフライングのクラッカーで驚いたものの察してしまったのか反応は薄かったが必死にリアクションを取っていた。

 一応先輩がしたかった歓迎の意図は察してくれたようだ。

「ありがとうございます」

 しかし棒読みのセリフだった。

 体操座りでいじけてた先輩がまた急に立ち上がる。

「わたくし、旅行部部長の遠賀桃花ですわ!」

 腰に手を当てるの桃花先輩好きだよな。

 そして今日はリボンチョーカーをなぜか左腕に巻いているという相変わらずの謎の着崩しファッションだ。

「えっあっ、茶山織姫です。おりひめと書いてベガと読みます」

「えーおりひめちゃんじゃなかったの? 姫ちゃんって呼べないじゃん!」

「あぁ、姫ちゃんでいいですよ」

 桃花先輩が一人で盛り上がり、そして淡々と受け答えしている茶山さん。

 テンションが低く見えるのは先輩とのやり取りが苦手なのかな? 俺も最初は戸惑ったしな。これはしょうがないか。まぁ美祢とも仲良くなれてるんだからじきに慣れるだろう。

「ねぇねぇ城野。今日って勉強会よね?」

 耳元で囁かれて俺は無言で頷いた。

 しかしこのテンションでは、また(・・)勉強会はお預けになりそうだ。

「やきもちよねー」

 桃花先輩が突然、何を言い出すかと思ってみれば、美祢を見るとあからさまにふてくされていた。美祢がこんな表情をするのと対照的に桃花先輩はすごく嬉しそうというか楽しそうだ。

 ゆかり先輩と小森江先輩がこの場に居なかったので桃花先輩が代わりにふたりの自己紹介をしたのだが、二人共家で勉強してるんだろうなという考えが俺の中でよぎった。

「何ぼーっとしてるのかしら? 今日は勉強の事なんて忘れて楽しみますわよ! 歓迎会よ歓迎会!」

「今日は? も? じゃなくてですか? それに歓迎会ならみんな居るときにしましょうよ。今試験期間中ですから」

「今やって、みんな揃ってもう一回やるの!」

 謎理論のわがままを言い出した桃花先輩。困り果てたと思っていたら誰かが入ってきた。

「なにか騒がしいと思ってきてみたら。あななたち! 今は部活禁止期間よ」

 志井先生が入ってきたと思ったら頭を抱えため息をついた。

「先生聞いて下さいます? また部員が一人増えましたの。新入部員ですわ! だから今日はお祝いですわ」

「ワンパクオジョー、今は部活禁止期間って言ったのが聞こえなかった?」

 『その名前で呼ばないで下さいますか?』と言いながら崩れ落ちていく桃花先輩。

 名前を聞いていつものように笑い転げる美祢と同じように笑っている茶山さん。

 俺も半笑い状態になりながらも、

「騒いですみません。ちょっと今息抜きで、一応勉強会やってたので……」

「どうせろくな勉強会じゃないんでしょ? 部室使えなくなったら困るでしょ? だから、勉強会だとしても図書館とかに移動してちょうだい」

 ろくな勉強会ではないのはお見通しというわけか。

「部室じゃないとリラックスできなーい」

 今日はえらく桃花先輩がわがままを言う。いつも変なことを言ってるけど今日は本当にただのわがままに聞こえる。何かあったのかな?

「いや、リラックスしちゃだめでしょ」

 あれ? もしかして茶山さんってこちら側(ツッコミ)なのかな?

「分かったなら帰った帰った! 疑われることもするんじゃないよ。面倒くさいでしょ? 私も面倒くさいのよいろいろと」

 しかたなく返事をしてテーブルの飲み物を飲み干して皆帰り支度をしていたが、なぜか先生も混じって飲み物を飲んでいた。

 それにしても桃花先輩は急に楽しくなさそうになってしまった。さっきから表情が無表情だ。

 いつもニコニコしてたり怒ってたり表情豊かなのに……

「これからどうするー?」

「いや、私勉強したいんだけど」

「だって試験の範囲も知らなかったもんねー茶山さんったら」

「ウルサイ!」

 美祢と茶山さんのじゃれあいを眺めていると日田先輩と桃花先輩のやり取りが見えて聞こえてしまった。

「どうする? 帰るか?」

「やだ、帰りたくない」

 俺の耳に入った日田先輩の言葉と桃花先輩のわがままと、物凄く寂しそうな表情が目と耳どちらにも残ってしまった。

茶山さんは旅行部に馴染むのか? 

まぁ馴染まなくても茶山さんらしく! 

という気持ちです。

今回ちょっと長めになってしましたが楽しめましたでしょうか? 

楽しんでいただけてたら嬉しいです。

さてさて冬は寒くていつも眠いです。睡眠大好き!

執筆している部屋に暖房器具がなく足が寒いです。カーペットもない、こたつもない!

隣の寝室にはエアコンが付いてますがエアコン嫌いなんです。あの風とか乾燥具合とか。

早く春が来ないかなー

ではまた来週。。。


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