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第19話

 俺は現在進行形で体が壊れてしまったのかというほど汗をかいている。

 美祢の聞いたこともないテンションで発せられた、低く抑揚もない一本調子のトーンの声。

 俺は美祢をチラ見してニコニコしている笑顔が怖くなる。

「美祢、一回落ち着こう。茶山さんも一回落ち着こう」

 一番落ち着いてないのは俺だとわかってるけど、どうにかしないといけないという意思だけで言った言葉。何の力もなかった。

「は? とりあえず入部を迷ってるから相談を聞いて」

 茶山さんが言った言葉にゆかり先輩がびくっと反応している。そんな茶山さんをじっと美祢は見つめている。

 また浮気だなんだって騒ぎだすんだろうな。でも今回は俺も茶山さんのことを知ってたし、茶山さんが俺のことを知ってたことも隠してたわけだからそれを怒っているのか……というか俺たちはごっこ遊びだから付き合ってないよね? なのになぜ俺は浮気だなんだって怒られなきゃならんのだ。ちょっとわからなくなってきたぞ。

 そもそもなんで俺は怒られているのか?

 いや、嘘を付いてたから美祢は怒ってるのか。俺何をぐるぐる考えてるんだ。動揺しすぎだろう。

「茶山さんって面白い! 友達になりましょう」

 ……え? 俺は美祢の予想外の言葉が聞き間違いだと思ったが聞き間違ってなかったようだ。

 また美祢がわけのわからないことを言い始めたのだ。なぜ今この状況で、この空間で、このやり取りでその発言が出るのか。

 美祢の考えた新手の嫌がらせか? いや、今まで美祢が嫌がらせをしたことがあったか?

 あった。今この恋人ごっこも嫌がらせ……だよな? 別に嫌じゃない。けど、面倒くさいとは思うけど……

「なんであんたなんかと?」

 そうですよね。そうなりますよね。普通はそういうやり取りになりますよね。

 美祢の唐突な発言を受けて茶山さんの言葉は乱暴だったが間違いでもなかったと思う。

「修羅場ね。修羅場だわ」

 桃花先輩は俺のことをニヤニヤと見ながらそんなことを言う。明らかに楽しんでますよねこの状況を。

 そんな状況に耐えかねたのか日田先輩が入口を塞いでた俺と茶山さんの脇を通って部室の外へ避難する。避難という名の下校である。

 ほら、手を振って元気に帰っていった。

 部室を見渡すとすでに小森江先輩の姿はなかった。いつ帰ったんだあの人は。

 そして奥で椅子に座って震えてるゆかり先輩。あぁこの空気に圧倒されているんですね。本当にすみません。早く終わらせてみんなで帰りましょう。

「先輩、そんなこと言ってないで助けてくださいよ。入部希望者ですよ?」

 俺が桃花先輩に助けを求めて話題を振るが効果はあまりなかった。

「まだ迷ってるだけ。入部するかどうかもわからないから」

 茶山さんあなた入部するかもしれないんですよね。その旅行部の先輩ですよ。迷ってるってことは未来の先輩かもしれないんですよと言いたいが言ってもしょうがないだろう。そして俺はなんて逞しい(たくましい)んだと茶山さんを感心するしかなかった。

 俺は、茶山さんは何がしたいのかがよくわからないから一回落ち着いて考える。

 俺に相談という名目でここに来ているということは、やはり旅行部に興味があって入部を迷っているから俺の意見を聞きたいのだろう。でもそれだったら俺以外のメンバーが居るからみんなで話せばよかったのに変な空気になっちゃった。まぁ美祢が変な空気にしちゃったというのもあるのだけれど。

 そんな風に俺が考え込んでいたから誰も喋らなく静まり返っている。

「はい! 1年2組の美祢 彩耶乃です! よろしくね!」

 いきなり手を挙げて元気よく自己紹介。やはりコイツの頭の中を一回覗いてみたい。

 なぜまたこの状況で自己紹介なのだ?

「なになに? なんなのあんた。ねぇ城野、コイツなんなの?」

 美祢のいきなり自己紹介に若干引き気味の茶山さん。そして俺に助けを求めてくる。

「うわーんおねーちゃん茶山さんこわーい」

 茶山さんの一言に美祢が桃花先輩に抱き着く。全然怖そうに聞こえなかったのは俺だけじゃないはずだ。ほら茶山さんが怒ってるように見えるぞ。

 桃花先輩は桃花先輩で美祢の頭をなでながら『よしよし、大丈夫大丈夫』なんてあやしている。

 この二人はほっといて話を進めなければ。茶山さんと。

 よく考えればこの二人が邪魔しているから話が進まないのか。

「で、茶山さんはどうしたいの?」

「だから相談よ相談。最初からそう言ってるでしょ? だから私待ってたのよ。あんた部室入ったまま全然出てこないからどうしようかと思ったのよ」

 俺が部室の出入りをしたのいつだろう。その時点で見られてたということか? どういうことだ?

 もうずいぶん時間がたったと思うのだが待っててくれたってことか?

「じゃあこれから相談ってどうするんだ?」

「だから私は相談するって言ってるでしょ。これから暇でしょ?」

 俺はまぁ暇ですけどね。明日も日曜日だからゆっくりしても問題ないし。ただこれってどういうことだろう。

「ねぇ彩耶乃、これって誘ってるわよね」

「誘ってるよね。そして城野くんはついていくから浮気よね。これ浮気」

 キャー城野くん浮気よなんて言い始めてまた二人ではしゃぎ始めた。

 問題児二人が最初はコソコソと喋ってたけどもう浮気って騒ぎたいだけだろうと。そして聞こえてますよ二人とも。俺に聞こえてるってことは茶山さんにも聞こえてますよ。聞こえるように喋ってるんでしょうけど。

「浮気って何? 相談だから」

 冷たく言い放ってその場を抑える茶山さん。これはすごい。

「あんたたちがカップルってのは知ってる。もう有名人よ」

 美祢は頬を染めて体をもじもじとさせて恥じらうが、俺はため息しか出てこない。やはり有名になってしまっていたのか。

 廊下を一人で歩いているときも何やら言われているような気がしてたが、気にしないようにはしていたのに、現実を知ってしまうとこれからはかなり気になってしまうだろう。

「じゃあ城野くんは茶山さんとどんな関係なの?」

 まだ体をもじもじさせながら聞いてくる。

 関係? 関係って言われても友達でもないし、どんな関係だ? 会話と言っても今日を入れて2回目か……

「まぁ同じ被害者みたいなもんだ」

 旅行部という名前の詐欺にあった被害者だな。間違いない。

 その答えを聞いた美祢はふーんというよくわからない反応を示していた。

「何の被害者なの? 気になる気になる」

 今度は桃花先輩がノリノリで聞いてきた。いや、あなたの作った旅行部の被害者です。

「そうよ、何の被害者よ。私はたまたまあんたが旅行部員で話しかけてくれたから相談してるだけよ」

 茶山さんに結構寂しいことを言われる。俺、同じように思ってる人だと思って接してたのに一方通行だったようだ。

 まぁ茶山さんは、俺が旅行部という名前に惹かれてたということは知らないからしょうがないか。俺が一方的に茶山さんも旅行部が気になるっていうことを知ってたから、お互い旅行部の被害者みたいな感覚になってただけだった。

 そう思ったから理由を話そう。

「去年の文化祭に来てたんだけど、文化祭で見た旅行部っていう名前に惹かれて……」

 ってあれ? そこまで言って何かが頭の中で引っかかって文化祭の時のことを思い出す。

「去年ここの文化祭に来て……それからフラフラしたあとにお化け屋敷の前で焼きそばとジュースを売ってる旅行部の存在に、なんだこの部活!って思って……」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

 俺が思い出してることを口に出してたら同じところで3人の声が重なった。

「なんで先輩まで驚いてるんですか」

 俺は文化祭を一緒に回った女の子のことを思い出して驚いた。世間とは狭いもので、おそらくその一緒に回ってたのは茶山さんだったのかもしれないと思ったから『えっ』という声が出てしまった。そうすると茶山さんも驚きの声が出たということはもしかするかもしれない。

 ただなぜ先輩が驚いたのかはわからない。

「だってノブくんが私たちの売ってた焼きそばをなんで知ってるの? もしかして買ったの?」

「いやいや、だから去年ここの文化祭に来たって言ってるじゃないですか。そして俺は旅行部が気になってここ受けたんですよ。ちなみに焼きそばも買いましたしジュースも買いましたよ」

「えっ? 本当に本当に? 全然旅行とか関係ないことしかしてなかったのに」

 先輩がものすごい早口で喋ったかと思えば落ち着かない様子であわあわしている。

 そしてなぜか茶山さんもあわあわしてて、ゆかり先輩も謎のあわあわしている。

 茶山さんはあわあわしながら独り言までブツブツと言い始めてしまった。どうしたんだ急にみんな。

「ねぇその話面白そうだから聞かせて聞かせて」

 一人いつものペースで面白いことをねだってくる。

「別に面白いことはないけど、去年ここの文化祭に来て旅行部っていう珍しい部活が目に入ったから面白そうだなと思ったんだ。旅行部がどんな存在だったのかは入学して知ってしまったけど、俺の中のワクワクはかなり高かったんだぞ。そういえば美祢も旅行部の存在を知ってたよな? どこで知ったんだ? やっぱり文化祭か?」

「ヒ・ミ・ツ」

 唇に手を当てながらセクシーなポーズ。

「めっちゃはらたつな」

 美祢のイラつくポーズに突っ込んでいると今度は茶山さんから質問が飛んでくる。今日もあっちこっちと忙しいな。

「城野、その文化祭の時に誰かと一緒に回ったりした?」

 あぁやっぱりそうなのかな? でも回った人の感じとえらく違う感じがするのも事実だ。

 茶山さんもその時に友達と回っていて、旅行部に興味を持ったのかな?

 茶山さんを見るとカバンの中をごそごそとあさっている。いや、あなたの質問に対して俺は今答えてるんですけどね。

「ねぇねぇ、もしかして文化祭私と一緒に回ってくれた人?」

 メガネをかけながらそう言ってきた茶山さんを見ると、あぁメガネだ。

 俺、茶山さんと回ってたのか。

 メガネをかけている茶山さんは文化祭を一緒に回った人だったような気がする。あんまり自信がないけれどたぶんそうだ。

 茶山さんがいきなり握手を求めてきて、拒否することもなく俺の手を取られ握手する。

「ノブくんってメガネが好きなのかな?」

 ゆかり先輩がなぜそういう発言が出たのかはわからないが、一人でぶつぶつとつぶやいている。

「美祢、今日からアンタは私のライバルだわ!」

「茶山さんってやっぱり面白いね。よろしくねー」

 二人の温度の違いが面白かった。こいつらの会話まったくかみ合ってない。

 俺は背中をつつかれたので後ろを振り向くとゆかり先輩が俺の後ろまで来て耳でささやいた。

「私、バイト遅刻しそうなんだけど……」

 なんでこのタイミングでその発言なんですか……

 しかし俺と美祢と茶山さんで入口をふさいでいるし、話も盛り上がってるから出られなかったのか。それならそれで、もっと早く言ってくれればよかったのに。ゆかり先輩はバイトしてることは秘密っぽいから俺に言ってきたのかな?

「ちょっとお二人。ゆかり先輩がトイレだって。通してあげて」

「まっ、城野くんってデリカシーがない! ゆかちゃん先輩が顔真っ赤で出てったよ」

 そうか、トイレはまずかったか。これは反省だ。後日ゆかり先輩に謝らなければならないな。

「ノブくんモテモテね」

 桃花先輩が俺の耳元で二人に聞こえないようにささやいてきた。

 なんでそんな俺にしか聞こえない冗談を。

「城野、はやく相談のって! これからどこかよって帰ろうよ。そこで相談にのって」

「あたしもいくー!」

「美祢は来なくていい!」

 あぁ俺頭痛くなってきたわ。

今週ちょっと時間があったので全話で修正入れました。

・・・を…に修正しました。

実は書き始めの時に三点リーダーを入れた時に下に点が3つ入って???ってなったんですよ。だから使えないのかな?と勝手に思ってて・・・を使ってたわけです。

ところがところが他の方のを読んで居ると普通に使ってる。もしやと思って編集画面で下の点3つのまま編集を完了するとまぁちゃんとなってるではないですか。

ということで編集しました。

さてさて本編ですがようやくラブコメっぽくなるように動き始めたつもりなのですが、動かせてるかな。

もっともっと個性的なキャラクターになるように上手に表現したいですね。

ではまた来週。。。

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