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第18話

 みんな、小森江先輩の作業を息を止めて真剣に見守り……なんてことはこの旅行部にはあり得なかった。

 好き好きに漫画を読み、お茶をすすり、トランプしながらお菓子を食べている。

 小森江先輩が到着したのは9時20分。ずいぶんゆっくりとそして余裕をもって到着した。

「ごめん。ちょっと遅れてしまった。今からセッティングするから新幹線に乗ってる気分で待っててね」

 上手に進めているのかどうかはわからないが、みんなは本当に新幹線のに乗っているかのようなくつろぎっぷりだ。小森江先輩が来る前からくつろいでいたが。

「次は京都ー京都ー」

 突然スピーカーから音が流れ、みんながびっくりして小森江先輩を見る。

 小森江先輩はみんなに向かってピースサイン。時間にして約30分ほどだったろうか。どうやらセッティングが終わったようだ。

 スクリーンにはまだ何の映像も流れてないが、みんなが緊張した面持ちでスクリーンの方を向いている。

「じゃあいくよー」

 スクリーンに映像が映し出され自然と拍手が沸き起こった。美祢と半目の桃花先輩はジャンプしながら喜び合ってる。

 小森江先輩の演出なのかこだわりなのか、京都駅の出口が映し出された。

 みんな無言でその映像を見つめている。京都駅の人込みでざわついた音までちゃんと持ってきている。小森江先輩って一体何者? どこまで準備してるんですかね。

「はい。京都駅に到着しました! ということでこれからどうするか、ここからは桃ちゃんの仕切りでお願いします」

 呼ばれた桃花先輩は、まさに『えっへん!』と言わんばかりに胸を張り腰に手を当てる。だが半目なのが残念だ。

「ハイ! ハイ! 私は金閣寺に行きたい!」

「えーわたくしは清水寺が見たいですわ」

 スタートしていきなり仕切りも何もなく桃花先輩と美祢が行きたいところを主張し始める。先輩は仕切り役なので言い合いをしてる場合じゃないんだけど、美祢につられてだんだんとテンションが上がってきている。その証拠に目がだんだん開いてきたようだ。

 しかしこの二人とリアルで旅行に行くと大変そうだな。これはこの形の旅行でよかったかもしれない。

 それでも楽しそうで何よりだなと思っていたが、そのあともこの二人の行きたい行きたい合戦は続いた。

 先輩が錦市場に行ってみたいと言えば美祢が伏見稲荷の鳥居をくぐりたいとといいだし、先輩が嵐山がいいと言えば美祢が銀閣寺がいいと無駄? に張り合っていた。

 順番に小森江先輩が映像を差し換えて雰囲気づくりをしていたが、途中の道の風景を入れつつのテクニックにこだわりを感じて正直びっくりした。

 俺の想像していた紙芝居がっかり旅行ではなく純粋に面白かった。それは小森江先輩の見せ方であって俺が同じものを用意されてもきっと同じよう演出することはできないだろうなと思った。

「ゆかり先輩はさっきから何も行きたいところを言ってないですけどどこかありますか?」

 おてんば姉妹の勢いに押されまくって意見が言えない状況かもしれないので問いかけてみた。

「またゆかちゃん先輩だけ贔屓だー!」

「贔屓ですわー! いや、これは浮気ですわ浮気!」

 好き勝手に騒ぎ散らすおてんば姉妹。このネーミングいいな、今度志井先生にこの呼び名を提案してみよう。

「お前らが行きたいところを言いまくってるから、ちょっとはゆかり先輩の意見も聞こうと思っただけだよ」

 黙ることなく騒ぐおてんば姉妹。

「じゃあなんで俺に聞いてくれないんだ?」

 そして意見する日田先輩。今、日田先輩にそこを突っ込まれたくなかったんです。

 言い返せない俺にまたまた調子に乗り始めるおてんば姉妹。

 そしてこっそり笑う日田先輩。わかって言ってますよね。

 そんなことを言いながらも、美祢が買ってきた大量のお菓子を食べながら旅行っぽくなっている。あくまでも「ぽく」だ。

 実際に旅行しているわけではなかったのだが、時間はあっという間に過ぎていた。

「お昼どうする? ハラ減らね?」

 日田先輩の一言でみんなの頭がお昼ご飯モードになった。俺ももちろんお腹がが減っていることを自覚する。

「今日は土曜日だから学食開いてないからどうしようか?」

 いつも学食の日田先輩。さすがに把握しているが学食が開いてないときはどうしているのだろう?

「大丈夫ですわ。今日はそんなこともあろうかとこちらを持ってきましたの」

 じゃーんと言わんばかりに出される紙。桃花先輩のセリフからだとお昼御飯が出てきそうな勢いだったが紙切れが出てきた。

 よく見るとメニュー表だった。

「ピザを頼みますわ。好きなものを選ぶといいですわ。」

 さすがに昼ご飯まで京都っぽくっていうのは無理だろうが、学校でピザというのはびっくりした。もしかして配達? もしかしなくてもピザだから配達しかないか。

「城野くん、城野くん。そういえばさ、この前の謎の女の子ってどうなったの?」

 早々とピザを選び終わった美祢が、真剣にお財布事情と相談しながらピザを悩んでいる俺に問いかけてきて、思わずメニューを落としてしまった。

 別にやましいことがあるわけではない。

「いきなりどうしたんだよ」

 なるべく声のトーンを落ち着かせて、落としたメニューを拾いながら無難な返事をした。

 ここで、『あぁ茶山さんのこと?』なんて言い出したらまた話が浮気だとかになってしまって面倒くさいことになることは間違いない。それは何としても避けたかった。

「んや、なんか気になってたみたいだし、この間追いかけたみたいだからどうなったのかなって」

 あっけない反応が返ってきて、どう反応したらいいかわからなかったのだが、美祢は桃花先輩に『気になるの気になるの?』なんて感じで遊ばれていた。

「まぁ幽霊じゃなかったよ。同じ1年生だったし」

 ウンウンと何度も頷いている。ものすごい興味津々だし、桃花先輩もゆかり先輩も俺の話をちゃんと聞いてうんうんと頷いている。いつもこのくらいみんな話を聞いてくれると嬉しいんだけどな。

「じゃあどんな子だったの? 可愛い子? 面白い子?」

「面白い子っていうのはお前以上の子はいねーよ!」

 美祢の質問に間髪入れずに答えると、桃花先輩がニヤニヤしている。

 そして美祢も嬉しそうにしていた。

 いや、褒め言葉じゃないからなっていう言葉が喉元まででかかったが、突っ込んだらまたいろいろと言われそうと思い、思いっきりその言葉を飲み込んだ。

 しかし昼食を取るために機材をいろいろと動かさないといけなくて結構面倒くさい。

 機材がゴチャついているがいつもの旅行部の昼食の風景になってしまった。

 どこに行った京都旅行。

 テーブルの準備をして飲み物を桃花先輩が並べているところで部室のドアがノックされる。

 俺はピザ屋が部室まで来るのかと構えたが来たのは志井先生だった。

「ちょっとあなたたちね、先生びっくりしたんだから。職員室にいきなりピザの配達が来たのよ。学校にピザの配達頼む生徒なんて私始めてよ。本当にびっくりしたのよ。お金は先に払っておいたから」

 先生はそう言ってピザを持って部室にやってきてくれたということだ。

「すみませんわ先生。部室まで届けてってちゃんと言ったのにどうして職員室に行っちゃったのかしら?」

 首をかしげて本気で考えてる桃花先輩。

 普通に学校に来たら職員室に行くだろうということは考えなかったのか。しかもピザ屋に旅行部の部室ですとでも言ったのだろうか? 言ってもわかるわけがないだろう。そうなるとやっぱり職員室に行くというものだ。

「もうね、本校舎の方は結構ピザ臭くて大変よ。先生たちがピザを頼んでるって生徒たちがザワついてるくらいよ。私もここまで持ってくる間は注目の的だったのよ」

 ヘンテコな部活の顧問の先生になるとこうも大変なんだな。

 日田先輩は我慢できなくて早く食べようとうるさいし、小森江先輩はどこかに消えていなくなってるし、ゆかり先輩はピザを見ながら目を輝かせてるし。みんな自由すぎる。

 先生は領収書貰っていたからと桃花先輩に領収書を渡している。そしてその領収書を受け取った桃花先輩が顔を真っ赤にして怒り始めた。

「もーなんですの。先生こういうのはやめてくだささいます? 本当に恥ずかしいですわ。もうあのピザ屋には配達頼めませんわ」

「いや、だから学校に配達頼まないの! わかった? また旅行部かって言われるわよ」

 桃花先輩以外は返事よく『はーい』と手を挙げていたが、桃花先輩は絶対に同じことを繰り返すだろうと俺は思っていた。繰り返すというかダメということを理解してないかもしれないと思った。

 ちなみに領収書に何が書かれたかを覗いてみると『旅行部ピザ代 ハリキリオジョー』と書かれていた。

 俺は見てしまった領収書の内容で噴出して笑ってしまい桃花先輩に睨まれてしまった。

「そういえば今日は京都旅行じゃなかったの?」

 先生の問いに待ってましたと言わんばかりに桃花先輩がすぐに答えた。

 みんな桃花先輩の態度にびっくりした様子だった。

「お昼ご飯は狭いから一回片づけましたの。そこでなんですけど、一回片づけなくていい広い部室が欲しいですわ」

 先生はため息をつきながら帰ろうとしたところで日田先輩が

「先生も食べる?」

 軽い感じでピザを一切れ掲げている。

 先生はピザを一口、華麗に食べて部室を後にした。

「いや、食べるんかーい!」

 俺は我慢できずに突っ込んでいた。



 お昼ご飯のピザを食べ終わった後も京都旅行? を満喫? した。みんなが勢いとノリで楽しんでいた感じはあったがそれだけじゃなくて、こういう形はありなのかもと俺自身も思ってた。

 旅行に行っているという感覚は全くないけれど、結局いつもの旅行部のおしゃべりを、作り出した京都という空間でやってただけだったのだがそれが面白かった。

 否定的な意見もでなかった。だっていつもの旅行部のおしゃべりだったし。

 みんなよそ行きみたいに妙にテンションは高かったけど。

 そしてこの旅行部初の京都旅行を桃花先輩が締める。

「遠足は帰るまでが遠足ですわ。みんな家に帰るまでは気をつけましょう」

 旅行の締めなのに遠足っていう言葉を出してたぞ桃花先輩。

「では皆様にサプライズです!」

 その言葉の後に桃花先輩が荷物をごそごそと探っている。そういえばあの大荷物結構何もしてなかったけど何が入ってたんだ?

 そうすると『じゃーん!』と言いながら本物の京都のお土産がたくさん出てきた。

 修学旅行に行ったら絶対に買うやつがいるあの剣と八橋に京漬物が綺麗に人数分準備されていた。

「やったー! 食べ物!」

 ゆかり先輩の今までに聞いたこともないくらいの大きな声にびっくりしたが、今度はものすごい顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。ゆかり先輩ってもしかして食いしん坊?

「先輩これどうしたんです?」

「ノブくん! いい質問です! 擬似体験ばかりだとあんまりだからね、アッキーと一緒にお土産は選んでたの」

 何かがずれている。そこなのかと思ったが気にしない。これが桃花先輩だから。そしてこのお土産があったからあの大荷物だったわけだ。

 結局本物を目の前にぶら下げられたみんなの満足度はちょっぴり、ゆかり先輩はとっても上がっていた。

 そんなざわざわと話しながら部室を出たところに俺の知ってる謎の女の子、茶山さんが居た。

「ねぇ! 城野! 私旅行部入ろうか迷ってるんだけどどうしよう!」

 突然なんで俺にって思ったがやっぱり迷ってたんだな。俺と同じ犠牲者だし相談にのってみるか。

「ねぇなんでこの子城野くんの名前知ってるの? しかもなんで呼び捨てなの?」

 美祢の冷たい言葉が俺の心にぐさりと刺さったような気がした。

来週は難しいかもみたいなことを先週書いてましたが間に合うんです。間に合わせるんです。

京都旅行?を書いててこれ旅行か?と自分でも変な感じになりましたがそれが旅行部ということで。

最後はちょっと気になる終わり方になってますが旅行部は旅行部なのでそんな感じでお待ちください。

ではまた来週。。。

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