第16話
俺は休み時間が来るたびに、美祢の周りに女子が集まって話してる内容が気になって気になってしょうがなかった。
別に俺との事を喋ってたり、恋の話で誰のことが好き? みたいな話をしていて気になっているわけではない。俺は別に美祢の相手がだれであろうと全く気にならない。
あいつの手に持っている旅行情報誌と、大きな声で聴こえてくる話の内容が気になるというよりも心配になるという表現のほうが正しくて俺はソワソワしているのだ。
この俺のソワソワは入学以来仲良くしている俺の後ろの席の奴も気がついているようで、美祢と同じように休み時間が来るたびに俺の背中をつついていた。
「美祢さんのことが気になってしょうがないんだね。まったく城野くんも男の子だね」
だが俺の後ろの奴は的外れなのかわざとなのかよくわからないことを喋りかけてきている。
気になる先の美祢は、女子たちに囲まれて『すごーい!』なんて声をかけられている。
そう、今週行われる部活の内容を喋っているのだが、どうも正確に伝わってないと思われる反応が周りから起きている。
きっと、『京都に旅行に行く』という部分だけが抜粋されているのだろう。まさ美祢自身は京都に行くつもりなんてないよな?
もしそう思っているのであればかなり心配になる。あいつの頭が。
そんな俺が気にして美祢の方を見ていたらひとりの女子と目があった。その子はパタパタとこちらに向かって走ってくる。
「ねぇねぇ、城野くんって彩耶乃ちゃんと京都旅行に行くんだって? すごいね旅行部。私旅行部って変な部活かと思ってた」
変な部活です。あなたの認識は間違っていません。俺は心でそう思ったがYESもNOも言わずにただため息をついてしまった。
俺はこの子の話を聞いて不安が的中していることを確認した。。そしてちょっと美祢のところまで一緒に連れていく。数歩あるいて美祢の机の前にたどり着く。
「城野くん城野くん! 私金閣寺がいい!」
どうもニュアンスは間違っていない。金閣寺に行きたいじゃなくて、金閣寺がいいというのはそう言う意味で、美祢もわかってるのだと思う。いや、わかっていてくれ。
「京都にはいかないだろ? 部室だろ? 金閣寺はわかったから」
美祢の周りの女子たちがざわついた。思ったとおり違うニュアンスで伝わっている。当たり前だ。あんな旅行誰も想像つかないから。
「京都旅行でしょ?」
「京都旅行だけど京都じゃないだろ?」
そして俺たちふたりの会話に皆が混乱している。俺だって自分以外がこんな会話してたら理解できないし、こいつら何言ってるんだ? ってなる。それが普通だと思う。
美祢がついに気分は京都でいいでしょ! なんて大きな声で言ったからみんながポカーンとしてしまって誰もざわつかなくなってしまった。
皆が呆気に取られている時に、これまた絶妙なタイミングで割り込んでくる救世主? が現れた。いつもの奴だ
「そういえば志井先生って旅行部の顧問になったんだよね? うわー俺どうしようかな、旅行部に入っちゃおうかな」
俺がソワソワしなくなったら先生のことを思い出して、今度は俺の後ろの奴がソワソワし始めた。
そういえば入学式の日にそんなような会話をしてたけどアレまだ続いてたんだ? まぁ俺も美祢との謎の設定の関係は続いているわけだが。
1年2組のクラスでのやっぱり旅行部って変な部活だね、という雰囲気は変わることはなかった。まぁ事実だから仕方がない。
そんなクラスから二人で腕を組んでいつものように旅行部へ向かう。そして旅行の資料を集める作業を行うわけだ。
初めて行う旅行部の活動に戸惑いつつも皆が新鮮な気持ちで楽しんでいる。
桃花先輩は椅子にきちんと座りテーブルのカップに注がれた紅茶を飲みながら、そして日田先輩は机の上に腰かけて桃花先輩が見ている本を覗いているような形で、時折ページを止めて指を指してページの何かに対して笑っている。いったい何の資料を見ているのかここからではよく見えない。
美祢はというと教室に居る時から変わらず旅行情報誌を眺めながらニコニコしている。本当に旅行に行く前の状態みたいだ。
小森江先輩はテーブルの端っこでノートパソコンをしている。覗いてみるときちんと観光地の画像とかを探したり保存したりしている。
「そういえばゆかり先輩ってどうするんですか? あまり旅行部の活動に乗り気じゃないように見えてたんですけど」
「ゆかり先輩?」
美祢がロボットのようにぎこちない動きでこちらを向いた。ギギギという言葉が聞こえてきそうだった。
「あら? ノブくんってゆかちゃんのこと下の名前で呼んでましたっけ?」
あれ? そういえば俺ゆかり先輩本人以外の前では言ったことなかったかもしれない。これは面倒くさいことになるかもしれない。
「これは浮気ですわね」
「浮気だね」
二人同時に発せられる浮気という言葉と冷たい視線。いつも思うのだが本当にこの設定ってやつは面倒くさいな。
俺はいつものように無視するしかない。なのであの二人を無視して京都旅行の計画でも考えるために小森江先輩の隣に座る。
「あーノブくんが無視ですわ! 無視しましたわ」
ひとしきり浮気浮気と二人で騒いだ後にすぐに飽きたのかおとなしくなった。あの浮気浮気っていう騒ぐ行為をしないといけないルールでもあるのだろうか。
それは無視しておいて行きたい場所とか泊まりたい場所とかを話す。あぁ小森江先輩が本当にまともでよかった。
城野くんも大変だねって唯一声をかけてくれる人だし。そんな小森江先輩の作業を見つつ、俺も意見を言いながらデータを集めていった。
「お、遅れました」
ゆっくりと部室のドアが開いたと思ったらゆかり先輩だった。ボソボソと呟きながら入って来た。
「あのね、部室をじっと見てるような女の子が居たんだけど……みんな何かした? 明らかに旅行部を見てると思ったんだけど」
俺はその言葉にすぐにあの謎の女の子が浮かぶと同時に部室の外へ飛び出していた。
部室のドアを開けて正面を向いた瞬間にこちらを見ている謎の女の子もまだこちらを見ていた。そして目があった。バッチリと。
女の子と目が合うというのはドキッとするものだ。ちなみに美祢と目があってもなんともないのだけれども。そういえば美祢と目があったことってあったかな?
そんなことを考えてた一瞬で謎の女の子は俺と合った目を逸らしてどこかへ走り出してしまった。
「なぁ城野。お前あの子に何したんだ? なぜお前を見て逃げ出したんだ」
日田先輩の一言のあとに面倒くさい2人が加わってしまった。
「やっぱり浮気ですわ! ノブくんが浮気ですわー」
「城野君っていつも浮気ばっかりでホント嫌になっちゃう」
また浮気漫才だ、この設定姉妹は俺が別の女の子と喋ったり考えたりしたらすぐに浮気だ浮気だと騒ぎ出す。
「しん君って浮気ばっかりなんだ」
そして最後にゆかり先輩までもが浮気話に参加してきた。けどしん君? そういえばコンビニの時も何かよくわからない名前で呼ばれたような気がしたけどやっぱり言い間違いじゃなかったのか? しかしその疑問よりもまずは浮気の撤回だ。
「ちょっと待ってください! おかしいおかしいおかしい。浮気じゃないですって。あの女の子なんで部室を見てるのか気にならないんですか?」
「ノブくんが浮気してるからきっと待ってるんですわ! ノブくんいけない子ですわ」
桃花先輩の言葉に美祢はハンカチを噛んで悔しがっている。準備いいな美祢。さすが浮気漫才だ。
「もうわかった! わかったから。俺が悪いから、ちょっと気になるから行ってきます!」
そう言ってさっきまで謎の女の子が立っていたところまで走って周りをキョロキョロと見渡す。
さっきの言い方だと何か誤解を生むんじゃないか? いや、すでに誤解を生んでしまったのか?
そんな雑念だらけの状態で周りを見渡したが、見失ってしまい謎の女の子はまた消えてしまった。
そう思って部室に戻ろうとした時に、目の端っこに何かが入った。周りをキョロキョロしているあきらかに挙動不審の子。居るじゃないか謎の女の子。そう思って近づくと、
「な、何? 別に私旅行部見てたわけじゃないから!」
俺はまだ何も言ってないのだが先に話しかけられた。
「俺まだ何も……」
「うっ、うるさいわよ! で、何?」
この子なんでこんなに焦っているのだ? とりあえず旅行部が迷惑かけたのか聞いておこう。
「いや、旅行部に何かあります? 旅行部いろんなところに迷惑かけてるからごめんなさい」
「いや、別に何かあるといえばあるのだけど、別に無いと言えばなくはないんだけど……何もないってば!」
この子の言葉の意味がまったくわからなかったけど何が言いたいのだろう。何か言いたいのか、何も考えずに喋っているのか。
「そう? じゃあさ、また何かあったら気軽に言ってよ。俺1年2組の城野信玄、じゃね」
そうやって適当に自己紹介して部室に戻ろうとしたが何かが抵抗した。服を掴まれていた。誰にって? 一人しかいないよな。謎の女の子。
「わ、私も自己紹介する。4組の茶山 織姫。ちょっと旅行部に興味があるんだけど」
その言葉に驚いて思わず本音が出てしまった。
「えっやめたほうがいいと思うけど。先輩達変な人ばかりだし先輩じゃない人も変な人がいるし」
そう言い終わると急に茶山さんは真面目な顔で俺の目を見つめて喋り始めた。
「私ね、去年の文化祭に遊びに来た時から気になってたから。ただちょっと変だなとは思ってて……あとその時一緒に回った人も居るかなと思って……」
あっ俺と同じ人が居た。
読んでいただいてありがとうございます。
新キャラです。キャラの書き分けも上手く出来てないのにまた増やしてしまった。大まかなストーリーの中ではちゃんといるキャラなのでイレギュラーではなくきちんと登場させたキャラです。
この織姫ちゃんも含めて旅行部がどうなるのか楽しく書いていきたいです。
ではまた来週。。。