泣き果てた女
目の前の男はしきりに「殺してほしい」と私に頭を下げた。私が「なぜ」と訪ねると、くだらない理由をまとまりのない言葉でこう言った。「いま、死にたいという感情が湧いてきた。自分には、生きている理由がない。自分の嫌な所が目に付いて離れず、たとえ目を瞑っていようが、音で頭を誤魔化そうとしようが、自分の出来の悪さに嫌気がさして死にたいのだ。しかし、僕は一人じゃ死にきれん。どうか君の手で、僕を楽にしてくれはしないだろうか? 」
自分じゃ怖くて死ねないから、私に殺してほしいと願うこの身勝手な男を、これほどまでに殺してやりたいと思ったことはあっただろうか。私が怒りに震えていることを気にしないのか、気付いていないのか知らないが、男は私に、死にそうな声で死にたいと訴え続けるのをやめない。私がいくら叱っても、聞く耳を持たずとも、おもちゃをねだる子供のようにまるでいうことを聞かない。
ついに私は、この男に対する怒りが頂点に達し、男を抱きしめ泣きじゃくった。
「あなたを愛する私にそんなことを願うあなたはあまりに残酷ではないか。」
男は、まるで生きていないような体の硬さだった。それが切なくて、しがみつくように、引っかくように抱きしめた。男は、まるで思い出したかのように、しっかりと息をするようになって、弱弱しく私を抱きしめ返し「ごめん」とつぶやいた。
私はごめんといわれる度、男が憎くてまた泣いた。憎たらしい男を抱きしめ、いつまでも泣き、泣き果てて、いつの間にかまた、男とともに生きていた。
読んでいただきありがとうございます。
バイト先でかっこいいなと思っていた男性が既婚者であることを知り、恋愛感情を抱いていたわけではなかったのですが、思いのほかショックだったのか、布団の上で眠れずにいると、最初の一文が浮かんだので書いてみました。
やはり、私は暗い話が好きらしい。
しかし、よく考えたら、その日シフトが届いて、給料が高くなる深夜の仕事が少なくて、よくわからないくらいショックを受けてました。
なるほど、よくわからないこの心のもやもやはシフトが原因だったようだ。解決しました!
最近本を読めていないので、できれば明日あたり読めればと思います。
この作品を読んで、なにかご感想や、ご助言いただけるとありがたいです。
読んでいただき、まことにありがとうございます。