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ウサギたちの恋  作者: 708
8/16

夏休みの宿題

七夕祭からあっと言う間に時間が経ち、一学期が終了した。

お隣さんとはあの後も大した進展はなく、いつもどおりの時間を過ごしていた。

ただちょっと違うと言えば──いいや止めておこう。



「・・・であるからして──」


炎天下の中で聞く校長先生の終業の挨拶が終わればいよいよ待ちに待った夏休みが始まる。


夏休みといえば、プールや夏祭りやキャンプに出掛けるのが定番である。

お盆になれば帰省し、田舎でのんびりとした時間を過ごすというのも一興だろう。

まあ、うちは父親も母親の実家は都内なのでそういったノスタルジーに浸ることはできないが。


──それにしても早く話終わらないかな。


***


夏休みとは学生にとって学校に行かない分、

有り余るエネルギーを"遊ぶこと"に費やす絶好のチャンスであり、

様々なことに対する挑戦や経験が待っている"ロングバカティオン"である。

が、残念ながらそうは問屋が卸さない。


休みの間中、自堕落な遅寝遅起の生活を送らせない様、我々学生に向けたあるシステム作動する。

それが──夏休みの宿題である。


『ミーン、ミンミンミンミン』


そんなこんなで向かえた夏休み初日。


朝早くに目が覚め、ベットを抜け出すとすぐさま机に目を向けた。


どーんと部屋の机に並べられたのは──

国語の漢字プリントと書き取りのドリル、

算数の計算式が詰め込まれたドリル、

理科の自由研究のレポート用紙、

読書感想文用の四百字詰め原稿用紙。

そして、図工の宿題である防火ポスター用の画用紙となかなかバラエティに富んでいる。


さらに極めつけがこの夏休みという一ヶ月以上期間、

日々の出来事をしたためなければいけない"絵日記"であった。


だが、これほど山積みされた宿題を目の前にして自分は余裕の表情を浮べながら腕を組んでいた。


何せ幼少期の頃から学習塾に通い、既に身体は子供、頭脳は小学六年生である。

小二レベルのお遊び算数や漢字の読み書きなどはもはや鼻で笑うレベルである。

それに手先は器用な方で絵を描くのも得意だったので、

絵日記やポスター程度で苦労することもなかった。


そして絵日記以外にも面倒なのが自由研究である。

自由がゆえに何を選んでいいか分からない。そんな悩みを抱えてた人が多かったんじゃないだろうか。

しかし、自由研究というのは研究テーマさえさっさと決めてしまえはそれほど悩む事もない。


だが、"アサガオの観察"なんて時間のかかるヤツを選ぶのはダメだ。

時間のかからないヤツ・・・そうここはド定番ではあるが、"氷の解け方の比較"みたいな

身近にあるモノを使ってお手軽にレポートできるテーマを選ぶのが賢い選択と言えるだろう。


また、読書感想文も自由研究と似たようなもので、大事なのはテーマ、つまりは本選びである。

読みやすく、分かりやすい本ならば感想を文字にして表現するのは容易いことだろう。

まあ、小学生程度なら"ズッコケ三人組"の本を選んでおけば原稿用紙三枚なんて簡単に埋まるはずだ。


小学生とは思えない見事な計算高さを披露しながらも、

こうして宿題の山の前で腕組みをしていたのには理由がある。


面倒な事は先に終わらせる──

この信念の元、この宿題を七月中に終わらせるという計画を立ており、

そのために効率的な宿題の進め方をこうして思案六法していた。


「次はどれにしようかな~・・。」


この計画は既に始まっており、昨日は終業式が終わってすぐに家に帰ると、

大得意である算数の宿題をあっと言う間に片付けていた。


そして次のターゲットをどれにするか選んでいたもののなかなか決まらずにいた。

セオリーでいくなら次は漢字ドリルなのだが、

この炎天下の中、ただひたすら文字を書き続けるのは暑さで気が滅入ってしまう。

この死ぬほど暑い時期にクーラーを許さない我が家のお財布状況はさておいても

いかんせん筆の進みも鈍くなってしまう──すると。


「そっか、それならクーラーの効いたところにでも行くか。」


妙案が閃くと、すぐさま国語の宿題一式をカバンに詰めて、近所にある公民館へ向かった。


***


鶴浜(つるはま)公民館には市内にある公共施設の中でも特に設備が充実している。

バスケやバドミントン、卓球などができる大きな体育館の施設もあり、

調理実習室、視聴覚室、図書館、お茶や生け花の授業を行う広い和室もある。

公民館の裏には広い公園もあり、子供たちがよくドッジボールやサッカー野球などをして楽しんでいた。


公民館までの道のりは歩いて一分ちょい、走れば数十秒といったぐらいご近所にある。

物心ついたときから来ているこの場所は自分にとってはもう一つの家みたいなもので、

隅から隅までを知り尽くしていた。


二つの自動ドアを抜けると受け付けのあるエントランスに着いた。

ここには各部屋のスケジュールの書かれた掲示板が設置されており、

そのすぐ下には画鋲で止められるコルク製のメッセージボードが置いてある。


そこには子供達が折り紙を貼り付けたり、紙に書いたメッセージや絵などが飾ってあり、

この場所が皆が集う憩いの場であることが一目で分かる。


自分は公民館にくるとまず先にこのメッセージボードの前で足を止める。

上級生が書いたのか分からないがたまに物凄く上手な絵が張ってあったりすると思わず感心することもあるが、

最も楽しみにしているのはアイアイ傘のラクガキで、

たまに知ってる友達の名前が書かれたりすると堪えきれず、にやけてしまうこともしばしば。

まあ、自分は一度も名前が書かれたことはないのだが。



「おはよーございますー!」


掲示板から少し先に受付窓口があり、奥の事務所の部屋に向かって大きな声で挨拶をする。

近所に住んでいるということもあるが、母親がここの館長と知り合いのせいもあり、

もちろん自分とも顔見知りというわけだ。


「おはよう、尚君。今日から夏休みだね。」


「うん。早速宿題を終わらせに来たからロビーの机借りるよー。」


「偉いねー。今なら誰も使ってないから好きなところをどうぞ。」


「うん、ありがとー!」


誰もいないことを知り、意気揚々とロビーに向かう。

ここのロビーには大きなテーブルが二つにふかふかの椅子がいくつも並べられており、畳のスペースもある。


畳のスペースではお年寄りの方々が囲碁とか将棋を打ってるせいで長時間占拠されることもあって

競争率は意外と高いのだが今日は幸運なことに畳エリアも含めロビーは貸切状態だった。


少しだけ悩んだ後、

がらんとあいた席の中から最もクーラーが効きそうな日陰の畳エリアの一席を占拠することにした。


「よいしょっと。」


靴を脱ぎ、畳に上がる。

家を出るとときに母親から渡されたキンキンに冷えた麦茶の入った水筒を机の上に置くと、

カバンに入れてた国語の宿題をである漢字の読み書きのプリントを取り出すと机の上に広げた。


どうやらマジョッタ先生のお手製らしく、ワープロではなく手書きのプリント用紙だった。

数は百問以上もあるが、まあ、午前中には終わるだろう。

そして颯爽と筆箱からHBの鉛筆を取り出すと問題を解き始めた。


「どれどれ・・・」


(あさ)□()(はやく)おきる。


□□(さんすう)のドリルは□()(たのしい)


□□(ははおや)のかじを□()(みずから)てつだう。


□□□(えにっき)□□(まいにち)かかさずに□()(かく)


「・・・・・・・・・。」


そのプリントにはマジョッタ先生の魔法(すりこみ)がふんだん散りばめられていた。

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