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ウサギたちの恋  作者: 708
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魔女の試練

「・・・・・・まとー。やまとなおやー!」


「えっ・・・あ、はい、はーい!」


「せっかく病み上がりだってのにもう熱が出たのかー? "はい"は一回! しっかり返事しろー!」


クラスメイトの笑いと共にふと我に返る。

そういや、朝のホームルームが始まってたんだっけ。

席についてから教室を眺めながら考え事をしていたら、

いつの間にか先生が来て、出欠をとっていたらしい。


復帰初日から注目の的を浴びるのは避けたい。

何せ昔から友達を除き、未だに交流のとれてないヤツらばかりだから──それに。


──と考えてるうちにまた意識が外に行ってしまうのを嫌がり、大慌てで頭を振る。

結局、あのピンクの折鶴を作ったヤツが誰かなんてこれだけいるクラスメイトから特定できるわけがない。


当然男子は除くにしても女子だけで二十五人近く居るわけで、

思い当たる節を考えても絞り込むのは無理だろう。

そもそもほとんど話したことのないやつばかりだ。


幼稚園時代によく女の子を泣かせてたこともあったせいで、

女子から嫌われているタイプだと自覚している。まあ、元から好かれようとも思っていないけど。


ただ、唯一、ご近所付き合いのある真紀だけは家族ぐるみでの

よく遊んでいたが、彼女の意中の男子は仁也のだし。


ひょっとすると誰かのいたずらか?

期待を持たせておいてうろたえている自分を笑うつもりなのだろうか。

いいや、そこまで女子に嫌われてはいない──と信じたいのだが。


それにしても・・・


二年二組の女子はあまりそういうのに興味がない自分が見ても可愛い子が多い気がする。


例えばここから右斜めのちょい先に座っている花咲(はなさき) 若葉(わかば)は一年生の冬に転校してきて、

同じクラスだったが早々に色気づいた男子達が色々とちょっかいを出していた気がするし、

一番前のど真ん中に座っている弓立(ゆみだて) 奈央(なお)もドラマの子役なんじゃないかと

思えるぐらい顔が整ってる。・・・良質な遺伝子のおかげでこれから先人生イージーモードなんだろう。


あとは非常に気に食わないのだが我らが学級委員長の芦屋もこれまた非常に残念なことに世間一般的には

"可愛い"という部類に配置されている。非常に残念だが。


他にも色々とあげればキリがないがあえてのトップ3をあげるとしたらこんなもんだろう。

今度、男子全体で人気投票でもやってみようかな。


それにしても一体・・・あの折鶴は誰が・・・


「─いっ!・・・──おいっ!」


「えっ・・・?」


突如として目の前を何か遮られると、頭の上に大きな風圧と物体が現れた。


「いてっ!」


「こぉら!やまとっ!」


「えっ!?えっ!?」


ゴチンした音と共に突然の衝撃が頭の頂点に舞い落ちる。

大して痛くはなかったのだが何が起こったのかと、そのままキョロキョロと見渡すと

指を指しながら笑ってるノリ君や仁也の姿や他のクラスメイトも皆お腹を抱えながらこっちを見ていた。


唯一、隣に座っている弥生だけは我関せずといった具合にほおづえをついて横目で

こちらのあわてふためく姿を見ながらため息をついている。


「もう授業中だぞっ!何ぼーっとしてるんだ!」


「えっ!・・・えっ!?」


どうやら、またもやトリップをしていたようで気づいたら、

出欠を取ってからとうに十数分は過ぎていた。


「ほら、ここ、大和の番だぞ。教科書の34ページの、一番うえのところから読みなさい。

──ってお前、教科書も出してないのか!」


「あわわわ、すみません。今すぐ出します。」


うちのクラスの担任である榎先(えのさき)先生はそれはもう男勝りの女の先生で、

本人いわく、魔女の生まれ変わりであり、通称マジョッタ先生と呼ばれていた。


そのマジョッタ先生はとにかく忘れ物に厳しく、忘れ物や遅刻するたびにシールを張られ、

十回貯めると居残りの掃除をしなければいけないという罰を与えられるため、

皆、忘れ物をしないように必死だった。


そんな目の前に腕を組みながら仁王立ちしているマジョッタ先生の圧力に怯えながら

ごそごそと机から教科書を取り出す。


「えーっと、国語・・・国語・・・あった!」


ここで教科書を忘れていたら一体、何を言われるかわからない。

危うく、忘れ物早見表に撃墜マークが付くところだったと肝を冷やしたのだが──。


「・・・おい、大和・・・よく見ろ。お前その教科書は下巻だぞ?」


「えええっ!?」


三十四ページを開いている途中、大慌てに表紙に戻ると──。


表紙には「こくご 二 ㊦」と書かれていた。


「し、しまったぁあああああ!」


なんたる凡ミスをしでかしてしまったのだろうか、

間違えて国語の教科書の下巻を持ってきてしまっていた。


そして焦りからか気持ちの悪い汗がだらだらと額から零れる。

恐怖におののき、震えながらゆっくりと顔をあげるとそこには

なぜだか嬉しそうな魔女の笑顔があった。


「よしっ!大和は特別にシールに三個だな。」


「えええええっ!? なんでー! 一つしか忘れてないのにー!」


「うるさいっ! 今日のお前はペナルティ三つだ!」


なんとも理不尽な裁定に不服を申したいところなのだが、

言われてみれば、既に三回の過ちを犯しているのは間違いないわけなのだが・・・。


今まで一個も貰っていなかったのにまさかの得点ランキング上位に出る躍進っぷりに

がっくりとなってしまった。


「・・・まったく。まあ、今日のお前は病み上がりだ。ちゃんとつっかえずに最後まで読んだら、星は一つまけてやろう。」


「えっ!? 本当に!? うん、やるやるー!」


まさかのお情けに途端とやる気を取り戻す。とは言っても教科書・・・どうすればいいのだろうか。


「それじゃー、弥生。忘れ物をしたお隣さんに教科書を見せてあげろ。」


すると「──はい。」という声と共に隣にいた弥生がこちらに向かって

「ん。」と一言を発し、教科書を広げた状態でこちらに差し出した。

何故かそっぽを向いたまま。


何ゆえ自分は冷たい態度を取られているのはさっぱりだったが、今は唯一頼れるお隣さんである。

彼女の素っ気無い態度はこの際目をつぶるとしてありがたく借りることにした。


「あ、ありがとう。」


「よし、それじゃあ、三十四ページの最初からだ。つっかえたらアウトだぞ~!」


「ふっふっふ・・・」


不敵な笑みを浮かべながら立ち上がり、朗読を始めた。

既に学習塾には幼稚園の年長から通っている自分にとってはこの程度の文章は

小学生レベルといっても差し支えない程度の難易度だった。

スラスラと読んで、一気に"汚名を挽回"せねば。


「──みんな あかいに、一ぴきだけは からすがいよりも まっくろ。」


「──だけど、いつまでも そこに じっと してる わけには いかないよ。」


「──けっして はなればなれに ならない こと。」


「──おおきな さかなを おいだした。」


「よーし、よくやった上出来だ!じゃあー次、えーと、杉田ー──。」


無事に最後まで詰まらずに朗読することができ、窮地を脱したことに安堵を漏らすと。


「ありがと。助かったよ。はい、これ返すね。」


すぐに教科書を貸してくれた弥生にお礼を言い、教科書を差し出すも。


「・・・まだ、授業は続くし、いいよ。一緒に見よ。」


そう言って弥生は机を自分の左隣にくっつけた。


「真ん中において。」


弥生に言われるがまま、手に持っていた教科書を二人の机の間に置いた。

そして今度はずずっと椅子を引きずる音と共に弥生が自分のすぐ隣に近付いてきた。


突然のクラスメイトの女子の接近に焦りの色は隠せなかったが、

彼女の言うとおり教科書がなければ授業は受けれないわけで。


ここは致し方ないとこちらも身体を寄せながら互いに教科書の端を持って、

杉田くんの読む朗読に耳を傾けた。


互いに言葉は一切交わさなかったが、

少しだけ(物理的な)距離が近付いたお隣さんの横顔をちらちら見ていた。


さらりとした短めの髪の毛と長いまつげの下にはなんというか犬っぽいつぶらな瞳。

そうイメージするなら・・・ス○ーピーのようなぷにっとしたほっぺた。


他に上手い比喩が思いつかないが、初めてこうして近付いてみると、なんというか・・・可愛い?

あの素っ気無い性格がなければもっといいんだろうけど、それはないものねだりというやつだろう。


・・・・・・ま、まあ・・・クラスの可愛い女子ランキングにベスト4ぐらいには入れてやるか。



こうして授業が終わるまでの間、

教室の隅っこで唯一机をくっつけているこの光景になぜかとても不思議な気分を覚えた。



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